慶応SFC生に聞いた、「意識高い系」の読書生活
世間から「意識高い系」というレッテルを貼られることの多い慶応SFC生は、本当はどんな人たちなのでしょうか?その読書生活をもとにSFC生のリアルに迫ります!
慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス、通称SFC……。多種多彩な研究分野に熱中し、学生時代からすでに一人ひとりが専門家のような知見を持つ学生たちは、ときに世間から「意識高い系」と揶揄されます。
そんな彼ら特有の性質は、自分が好きなことへの異常なまでの情熱。自分の「好き」を見つけたら、その地点を掘って掘って掘りまくる。ある学生は、「夢がないとSFCでは生きていけない」と語ってくれました。
自称も他称も“変人”ばかりの個性豊かなSFC生。今回は、彼らの「好き」の源泉、「好き」を深める道具である“本”に焦点を当て、「意識高い系」という言葉で小さくまとめられてしまった、SFC生の情熱に迫ります。
今村さん:『仕事。』
まずお話を伺ったのは慶応SFC3年の今村さん。就職活動の時期に差し掛かった大学生の例に漏れず、自らの進路について真摯に考える姿勢が印象的です。一時期はマンガ家を目指していたという今村さんですが、その表現方法は極めて21世紀的。そんなユニークな感性も、「SFC生らしさ」のひとつなのです。
−−今回持ってきてもらった本を紹介していただく前に、漫画でもオススメの本があるとお聞きしたのですが。
今村:そうですね、週刊少年ジャンプで連載していた『バクマン』が僕のルーツです。この作品はいわゆる「マンガ家」漫画で、有名マンガ家を目指して努力する少年たちの物語です。それをきっかけにマンガを自分で書き始めて、それを友達に読ませたときのリアクションが嬉しかったんですね。
今でもマンガを描いていて、メディア系の研究室でマンガに適したトレーラー動画を作れないか模索しています。
−−マンガの予告トレーラー! あまり聞いたことのない試みですが、そのようなことに挑戦できるのもSFCゆえでしょうか。
今村:SFCでは、なんでもできるんです。社会とのつながりが太いのもあって、今まで知らなかった領域のことを知ることができて、自分のやりたいことを発見できる。
−−なるほど。必修科目が少なく、多様な講義を受けられるSFCだからこその利点ですね。では、そんな今村さんが選んだ一冊は何でしょう?
今村:川村元気さんの『仕事。』です。
今村:川村元気さんは東宝入社数年で数々のヒット作を生み出した天才映画プロデューサーなんですけど、その人が「どうして働くんだろう」「自分がやりたいことって何か」といった問いを模索するために先人20人に話を聞きに行く1冊です。
−−しかし、この本に出てくる先人たちは、山田洋次監督や倉本聰さんなど、平成生まれの今村さんにとって、馴染みの薄い方々なのでは?
今村:いえ、皆さん時代の差というのを感じさせないくらい自分のやりたいことを貫いてらっしゃる方で、今とのギャップがあるとは感じなかったです。
−−特に印象に残った方はいましたか。
今村:坂本龍一さんですね。驚いたのが「いつ音楽家になりましたか」という問いに対して「いつの間にかなってた」と答えていたことです。「デビューした時は売れると思ってなかったけど、売れて初めて音楽家になることを決めた」って。
今現在、僕は就活していて、将来なりたい自分像をイメージすることが多いんですけど、本当になりたいものになれている人って、目の前のことを一生懸命にやってきた人なんだなというのを、突き付けられました。
僕も映像業界を目指していて、川村さんのような映画プロデューサーになりたいと考えています。
菊池さん:『ことばと思考』『あいたくて』
インタビュー2人目は菊池さん。当初はSFCの環境に当惑することも多かったと語る彼女が紹介してくれたのは、授業を聴講した先生の著書と、とっておきの詩集。豊かな知識、豊かな言葉に対する好奇心こそ、「大学」という特別な空間で生活する若者が身につけているべき素養なのだと感じさせます。
−−まず率直に、菊池さんはSFCに入学した当初、どのような感想を抱かれましたか?
菊池:入って数ヶ月は本当に劣等感しか感じていませんでした。静岡の田舎で18年育った私にとって耳慣れない最先端の言葉ばかりで、帰国子女も多くて、一言で表すなら「異文化」ですね。
でも、自分にも自分にしかない文化や価値観がある、と思えるようになったのもまたSFCのおかげだと思います。
−−なるほど。様々なバックグラウンドで育った学生と接する中でアイデンティティーの確立がなされたということでしょうか。そんな菊池さんは、どんな本を紹介してくれるんですか?
菊池:1冊目はSFCの教授でもある、今井むつみ先生が書かれた、『ことばと思考』です。実際に授業を聞く中でとても共感する部分が多く、手に取った一冊でした。私は人に、人の心にことばはどのように影響するか、ということが研究テーマなのですが、この本の中では、ことばは経験の概念につけるレッテルであるということ、つまり人はことばによって世界を見ている、ということがとてもわかりやすく説明されています。
世の中の物事はことばによって切り取られていて、そのフィルター越しに見ていることで、人の思考や考え方に大きく影響するのではないか、と私は考えます。
−−SFCでの授業が本との出会いのきっかけとなったのですね!
菊池:はい、2冊目は工藤直子さんの詩集、『あいたくて』です。私は詩の、ことば一つで変わっていく、感情や情景の描写の繊細さが、とても好きです。特に工藤さんの詩は、詩の持つリズムややわらかさ、ことばの使い方がほんとうに絶妙で、心のどこかにふわりと残る詩ばかりです。自分のなかのことばのストックを増やす意味でも、詩集はよく手に取ります。
−−お話をうかがっていると、菊池さんは「ことば」というものへのこだわりがあるように思われるのですが、研究も『ことば』についてですか?
菊池:そうですね。教育やコミュニケーションについてフィールドワークを中心に学んでいく研究室に入っています。皆それぞれ専門は違っているのですが、私は認知心理学や児童心理学といったところに興味があります。
−−先ほど、「世の中の物事はことばによって切り取られていて、そのフィルター越しに見ていることで、人の思考や考え方に大きく影響するのではないか」と言われましたが、それは専攻されている心理学での知見も含まれていたのですね!
(次ページに続く)
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