菊池良の「もしビジネス書が詩だったら」──『LIFE・SHIFT(ライフ・シフト)』
堅苦しいイメージの強い「ビジネス書」が、もし「詩」だったら──? この記事では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)シリーズがメガヒットを記録しているライターの菊池良さんに、ビジネス書の内容を要約・凝縮し、自由詩に変換してもらいます。第1回のお題は、ベストセラーになった『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』です。
どこか堅苦しいイメージがあり、読むのにちょっと身構えてしまう「ビジネス書」。話題になった書籍も、いつかは読もうと思っているものの、なんとなく手が出ない……という方が多いのではないでしょうか。
「もっと短く簡単に内容を伝えてほしい」、「できるだけビジネスの匂いがしない文章で伝えてほしい」──。そんな風に思っている方に向け、今回はビジネス書の名著である『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』を、簡潔かつ文学的な“詩”に変換してもらいました。
書き手は『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)シリーズがメガヒットを記録している、ライターの菊池良さん。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』のエッセンスを凝縮した“詩”から本の内容を直感で感じとり、味わってみてください。
詩『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』/菊池良
26万部のベストセラー、『LIFE・SHIFT(ライフ・シフト)』とは
『LIFE・SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)はロンドン・ビジネススクール教授であるリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによる書籍である。2016年11月出版。26万部のベストセラーとなり、「人生100年時代」という言葉は流行語大賞にもノミネートされるなど、日本でも大きなムーブメントを引き起こした。
私たちはいま途方もない変化のただなかにいるが、それに対して準備ができている人はほとんどいない。(中略)その大きな変化とは、長寿化の進行である。
あなたがどういう人物で、どこに住んでいて、現在何歳かに関係なく、長寿化の恩恵に最大限浴するためにどのような選択をすべきかを、いますぐに考えはじめたほうがいい。
『LIFE・SHIFT(ライフ・シフト)』は、このような警告文で始まる。本書では、寿命が伸びていく現代において、人生100年時代を見越したキャリア形成が必要だということが説かれている。
これまでの歴史を振り返ってみると、ビクトリア朝時代の作家、チャールズ・ディケンズは小説『骨董屋』の中で、当時身近な出来事であった幼い子どもの死を描いた。子どもの死亡率が低下した1920年代以降はそういった作品が減ったが、その一方で中高年の慢性疾患が増えた。実際に、1950年代に活躍した『ジェームズ・ボンド』シリーズの作者イアン・フレミングは、自らが心臓発作により50代で亡くなっている。
そして現在。グーグルのエンジニアリング部門の責任者として活躍しているレイ・カーツワイルは、科学とテクノロジーの進歩によって、人間の平均寿命は何百年にも達する、と予測する。時代の変化とともに、人々の寿命というのはこれほどにまで変化してきたのだ。
著者は、いままでの人生は年齢によって教育、仕事、引退という3つのステージに分かれていたが、寿命が伸びることでそのライフモデルが崩れるという。なぜなら寿命が伸びるということは、生涯に必要なお金が増えるということであり、そのためには働く期間を伸ばさなくてはいけない。しかしそうすると、若いころに身につけたスキルだけでは、環境の変化によって食べていけなくなるのだ。
引退のステージが短くなり、教育と仕事のステージがはっきり人生の前半と中盤に分かれるものでもなくなる。人生の中盤に学び直し、新たな職業に就いたり、同時にいくつもの職業に携わる、といった選択も珍しくなくなっていく。
見えない3つの資産、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」
無形の資産は、私たちの人生のあらゆる側面できわめて大きな役割を果たしている。お金は確かに重要だが、ほとんどの人はそれ自体を目的にしていない。私たちがお金を稼ぐのは、それと交換にさまざまなものが得られるからだ。私たちはたいてい、やさしい家族、素晴らしい友人、高度なスキルと知識、肉体的・精神的な健康に恵まれた人生を「よい人生」と考える。これらはすべて無形の資産だ。
寿命が伸びた上で必要になってくるのは、快適に生きるための「生産性資産」「活力資産」「変身資産」の3つの見えない資産と、有形資産をバランスよく運用しながら生きてゆくことだ、と著者は説く。
「生産性資産」とは仕事のスキルなど生産性を高めることに役立つもの、「活力資産」とは肉体的・精神的な健康を保つことに必要なもの、「変身資産」とはライフステージを変えるために必要な意志と能力のことである。100年ライフではこれらのスキルや環境と、お金などの従来の有形資産を、うまく貯蓄し切り崩しながら運用していく必要がある。
世の中がそうなると、さまざまな年齢の人が、さまざまなステージを生きていくことになる。それは年齢によって分断されていた社会から、多世代が共生する社会へと変わることでもある(つまり、「年齢、性別、生き方が、混ざり合う」)。
寿命が伸びて「君たちはどう生きるか」?
『LIFE・SHIFT』は「寿命が伸びて人類の未来は明るい!」といった単純なものではない。むしろ、伸びた分だけ生活が破綻しないように対処していかなければいかないと説いている。だが、全体的には明るく、人生に多様性が広がることを肯定的に捉えた本だ。
この本に関して、編集者の菅付雅信は著者のリンダ・グラットンにインタビューをし、「エリートがよりエリートになるための生き方を考えている気がしました」と言っている(対談集『これからの教養』における石川善樹との対談での発言)。
『漫画 君たちはどう生きるか』が200万部のベストセラーになっていることも考えると、いまは多くの人が「生き方」を再考する必要があると感じている時代なのかもしれない。
【プロフィール】菊池良(きくちりょう)
ライター。2017年に出した書籍『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)が15万部のスマッシュヒット。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』がある。
Twitter:@kossetsu
初出:P+D MAGAZINE(2018/06/11)