【新明解から悪魔の辞典まで】語釈で当てよう! 辞典クイズ
一般的な国語辞典から辞典の体裁をとったパロディ本まで、世の中には、ユニークな語釈を持つ「辞典」がさまざまあります。今回は、その独特な“語釈”をもとに正解の単語を当てるクイズを作りました。あなたは、古今東西の辞書クイズに何問正解できますか?
突然ですが、クイズです。
次の語釈が表す言葉は、一体なんでしょうか。
日本語の単語や句を集め、一定の順序で並べて、それぞれの表記・語義・用法・用例・語源などを日本語で説明した書物。
(デジタル大辞泉より)
……あまりに簡単な問題だったかもしれません。そう、答えは「国語辞典」です。インターネットの検索技術が発達した21世紀においても、誰しも一度は紙の「辞典」を引き、なんらかの言葉を調べた経験があるはず。
馴染み深い「広辞苑」や「大辞泉」はもちろん、世の中には、ユニークな語釈を持つ辞典がさまざまあります。
そこで今回は、一般的な「国語辞典」から、辞典の体裁をとったパロディ本までを大きなくくりでの「辞典」とし、その独特すぎる語釈をもとに正解の単語を当てるクイズを作りました。
編纂者(作者)の個性あふれる“語釈”を味わいつつ、めくるめく辞典の世界をお楽しみください!
【第1問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
のめり込みそうである。『この曲はくせになって――・い』
(広辞苑 第五版より)
答え:「やばい」
【解説】
2018年1月12日、10年ぶりの改訂が行われた「広辞苑」が発売となり話題を呼びました。「やばい」という言葉にも、これまでどおりの「危ない」「危険」という意味に加え、近年使う人の増えた「のめり込みそう」という意味が追加されて掲載されています。
【第2問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
十二分に。たっぷり。また、思いきり。
「──食べる」
(広辞苑 第七版より)
答え:「がっつり」
【解説】
2問目も、「広辞苑」からの出題です。改訂された第七版の広辞苑では、「がっつり」のほかにも「上から目線」、「自撮り」、「婚活」といったいわゆる“新語”が多く掲載されています。
改訂にあたり、1万語が新たに追加された広辞苑。しかし、本としての厚みはまったく変わっていないと言います。これは、規定の厚さに収まるよう、改訂のたびに“より薄い紙”を開発して採用しているから(※広辞苑 第七版特設ページより)。広辞苑は、数多の言葉と最新技術に支えられて作られているのです。
【第3問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、もっとも普通で、おいしい。殻はなめらか。
(新明解国語辞典 第五版より)
答え:「蛤(はまぐり)」
【解説】
答えを見て、「はまぐり!?」と思った方も多いかもしれません。この主観たっぷりの語釈を掲載しているのは、日本における辞書ブームの火付け役とも言える『新明解国語辞典』。バラエティ番組などでもその語釈のユニークさや面白みのある“偏屈さ”が話題になるなど、多くのファンを持つ唯一無二の辞典です。
ほかにも、『アコウダイ』(第五版)という言葉は、
タイに似た深海魚。顔はいかついがうまい。
と解説されており、こちらも編纂者の主観が思いきり入った独特な語釈。中には、初版から現在発行されている第七版までをすべて収集して微妙な語釈の違いを楽しむマニアもいるそうです。
【第4問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
個々の人々が、責任を伴わず、それぞれ自分の利益をあげ得るように工夫された巧みな仕掛け。
(『悪魔の辞典』より)
【ヒント】
人々が所属する、ある「場所」を表しています。
答え:「会社(かいしゃ)」
【解説】
『悪魔の辞典』(アンブローズ・ビアス)は1911年に発表された書籍です。百科事典の体裁をとってさまざまな言葉に語釈がつけられたものですが、その中身は皮肉やブラックジョークのオンパレード。
『悪魔の辞典』はあらゆるシニカルなジョークを用いて言葉を再定義する“辞書パロディ本”の元祖と言われており、日本でもその後、筒井康隆などが『悪魔の辞典』を模倣したパロディ本を発表しています。
【第5問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
他人の不幸を見ているうちに沸き起こる快い気分。
(『悪魔の辞典』より)
答え:「幸福(こうふく)」
【解説】
こちらも『悪魔の辞典』からの出題です。「幸福」が「他人の不幸」によってもたらされるというあまりにもブラックな定義には、苦笑いしてしまう方もいるかもしれません。
『悪魔の辞典』の著者であるアンブローズ・ビアスは、アメリカで地方紙の編集者として活躍した作家兼ジャーナリストです。彼を最初に日本に紹介したのは芥川龍之介と言われており、芥川は自身の著作『点心』の中で、
彼は又批評や諷刺詩を書くと、辛辣無双な皮肉家である。
とビアスのことを評しています。
【第6問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
会社にとって最良で、社員にとっては裁量のない制度。
(『ビジネス版 悪魔の辞典』より)
答え:「裁量労働制(さいりょうろうどうせい)」
【解説】
これはちょっぴりサービス問題だったかもしれません。クイズの出典元である『ビジネス版 悪魔の辞典』は、ビアスの『悪魔の辞典』のパロディという形をとった、経済学者の山田英夫による1冊。ビジネスの上での“ホンネとタテマエ”を、言葉遊びやダジャレを交えながら巧みに浮かび上がらせています。初版の発行は1998年と決して新しくない本ですが、皮肉なことに「裁量労働制」の解釈は、20年経ってもほぼ変わっていないようです。
【第7問】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
佐藤春夫に「思想なき芸術家」と評されて以来、それが彼への世評となってしまった。ぼくが作家になったのはこのことを知り、ぼくの大嫌いな「思想」がなくても芸術家にはなり得るのだと悟ったからである。
(『乱調文学大辞典』より)
【ヒント】
ある大文豪の名前を表しています。
答え:「谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)」
【解説】
主観の……というよりも私怨の入ったこの語釈は、小説家の筒井康隆が1975年に発表した『乱調文学大辞典』の中の1節です。『乱調文学大辞典』は、いわば筒井流の『悪魔の辞典』。全編にわたってナンセンスかつ皮肉屋な筒井らしいジョークが炸裂しており、中でもこの「谷崎潤一郎」の項は、もしも谷崎本人が聞いたら激怒するような語釈であることは間違いありません。
【最終問題】
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次の語釈が表す言葉を答えなさい。
小説のアイデアがない時に、見聞や経験をそのまま書いたもの。ふつう原稿料は小説より安いが、私小説だといえば小説なみに貰えます。
(『乱調文学大辞典』より)
答え:「随筆(ずいひつ)」
【解説】
最終問題も、筒井康隆による『乱調文学大辞典』からの出題。原稿料を“私小説だといえば小説なみに貰える”と表現するなど、出版業界や文壇に対する批判ともとれる語釈が多々登場するのも、この辞典の読みどころのひとつです。このほかにも、「テーマ」という言葉の語釈は、
新聞広告のキャッチフレーズによって知ることのできる、その小説の主題。それまでは作者も知らない。
と定義されています。小説の主題を“作者も知らない”とは筒井らしいブラックな冗談ですが、“新聞広告”が小説の価値までもを決めてしまうかのような書き方には、鋭い批評眼が光ります。
古今東西の「辞典」クイズ、あなたは何問正解できましたか? クイズの正解数に応じた称号をお贈りします!
【0~2問正解】
「辞典ビギナー(じてん-びぎなー)」
辞典をめくる楽しさを知り始めたばかりの人。辞典入門者。
『新明解国語辞典を知らないなんて、さては──・だな』
【3~5問正解】
「辞典ファン(じてん-ふぁん)」
辞典ごとの違いを楽しむことができる粋な人。
『──・には、これからさらに辞典を知ってゆく楽しみが待っている』
【6~7問正解】
「辞典マニア(じてん-まにあ)」
「辞典」と聞くと即座に目の色を変えるほどの辞典好き。辞典フリーク。
『新明解の第四版を持ち歩いているなんて、あなたはさては──・ではないですか』
【全問正解】
「皮肉屋(ひにく-や)」
さまざまな辞典を読みすぎた結果、言葉をシニカルに捉える癖ができてしまった人。
『このクイズに全問正解するなんて、君はなんて──・なんだ』
今回ご紹介した5冊の辞典の語釈は、「なるほど」と膝を打つようなものから「こんなの分かるわけないだろう」と怒りたくなるようなものまで、さまざまだったと思います。
しかし、その“偏り”や“ブレ”こそ、辞典の個性そのもの。クイズをきっかけに気になる辞典を見つけられた方は、ぜひ1冊手にとって、本棚に並べてみてはいかがでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2018/06/25)