【エクスカリバー、童子切、ゲイ・ボルグ】古今東西の神話に登場する伝説の刀剣・槍5選
国内外を問わず、古来より人々の間で語り継がれてきた神話や伝説の多くには、脅威的な力を持つ武器が登場します。圧倒的な力で怪物を倒したもの、王や神の象徴とするもの、師から受け継がれたものなど、世界の神話や伝説に登場する武器を紹介します。
近年、あらゆるものを“擬人化”した作品が人気を集めています。
その特徴のひとつは、元ネタとなっている事物の特徴を生かしつつ、“萌え”の要素を加えたキャラクター。中でも刀剣を擬人化したゲーム『刀剣乱舞』は、刀剣の実物を見に行く女性が急増、彼女たちを指す言葉「刀剣女子」は2015年の流行語としてノミネートされるほど話題となりました。
「刀剣乱舞」のヒットをきっかけに、その後も武器が擬人化されるゲームが続々と登場しています。それほど擬人化の題材が尽きないのは、世界中に武器が数多存在することの証明でもあります。
今回は世界の神話に見られる、伝説の武器に注目します。
ヤマタノオロチを退治した、伝説の神剣/雨羽々斬
出雲市駅前に設置されている“ヤマタノオロチとスサノオのモニュメント。スサノオが天羽々斬を手にしている
【特徴】 ■スサノオ(スサノヲ)がヤマタノオロチを退治する際に使われた。 ■十挙剣、蛇之麁正、蛇之韓鋤、布都斯魂剣など、多くの別名がある。 ■ゲームやアニメ、映画などで今なお名前が登場する。 |
日本には、古くから天皇が代々皇位のしるしとして受け継いだとされている、“三種の神器”(八咫の鏡、天叢雲剣、八尺瓊勾玉)という3つの宝物があります。この天叢雲剣は、スサノオ(スサノヲ)が8本もの首と尾を持つヤマタノオロチ(ヲロチ)を倒した際に手に入れたものだとされています。
スサノオは暴力的な振る舞いで神々の怒りを買った結果、天上を追放されていました。地上に降りてくることを余儀なくされたスサノオは出雲の国を訪れた際、泣いている老夫婦に出会います。スサノオが泣いている理由を聞くと、老夫婦は「これまで私たちには9人の娘がいたが、ヤマタノオロチという大蛇に毎年ひとりずつ食べられてしまい、ついに最後の娘の番が来てしまった」と答えるのでした。
スサノオは老夫婦のもとに残された最後の娘、クシナダヒメを妻として差し出すことを約束させたうえで、「強力な酒を入れた器を8個置き、ヤマタノオロチが酔って眠った隙を狙う」という計画を立てます。この時に手にしていたのが天羽々斬(十挙剣、蛇之麁正、蛇之韓鋤、布都斯魂剣とも)です。
ところでスサノヲがヲロチの尾を切ったとき、彼の剣の刃が少し欠けたので不思議に思ってその尾を裂いて見ると、なかにひと振りの剣を発見した。これがクサナギの剣(草薙剣)である。日本書紀本文はこの剣の本来の名をアメノムラクモの剣(天叢雲剣)とし、この名はヲロチの上空に常に雲が湧き立っていたことによるものだと伝えている。
『日本神話の伝説』より
後にスサノオは天叢雲剣をアマテラスに献上し、信頼を回復するとともに、クシナダヒメを妻に迎えることとなります。
天羽々斬は、さまざまな創作物でもその名が使われています。2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』でも、ゴジラの動きを止めるための「ヤシオリ作戦」においてゴジラに大量の血液凝固剤を注入するコンクリートポンプ車隊が「アメノハバキリ」と名付けられています。これはヤマタノオロチに飲ませた「八塩折之酒」に由来していることを踏まえての名付けでしょう。
また、奈良県にある石上神宮には、ヤマタノオロチを討伐したとされる霊剣が、布都斯魂剣(天羽々斬の別名のひとつ)として祀られています。圧倒的な存在の大蛇を倒した霊剣は、今もなお創作物の中でその名を知らしめているのです。
酒呑童子を倒した、美しくも禍々しいほどの切れ味を持つ名刀/童子切
【特徴】 ■源頼光が酒呑童子を斬ったことが、名前の由来となっている。 ■六つ積み上げた罪人の遺体を一度に斬り、その台座に刃が食い込むほどの驚異的な切れ味を持つ。 ■狐に憑かれた者の枕元に「童子切」を置いたところ、狐を払うことに成功した。 |
室町時代以降、名刀とされた5振りの刀剣、「天下五剣」。鬼丸国綱、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次とともに、天下五剣とされている「童子切」(童子切安綱とも)は、源頼光により、日本三大妖怪に数えられる酒呑童子を倒したことで知られています。
一説によれば、酒呑童子はかつて、外道丸という名の美少年でした。その美貌を理由に多くの女性から恋文を寄せられますが、読みもせず恋文を燃やした際に生じた女性の怨念に取り憑かれ、鬼の姿に変えられてしまいます。酒呑童子はしばしば都に現れては若い女をさらうという悪事をはたらいていました。
時の帝である一条天皇はこの事態を憂いて、頼光に鬼退治を命じた。
頼光は正体を悟られないよう山伏に変装して酒呑童子の御殿を訪れ、「道に迷ったから宿を借りたい」と頼みこんだ。そして、中に通されるとすかさず酒を差し出す。喜んで酒盛りをはじめた酒呑童子だが、実はこの酒こそ、鬼には猛毒となる「神便鬼毒酒」。酒呑童子はすっかり泥酔して寝込んでしまい、頼光がそのすきに愛用の太刀で首を斬ったのである。この太刀が、童子切の名を与えられたのだ。『物語で読む日本の刀剣150』より
このときに童子切で刎ねられた酒呑童子の首は、執念深く頼光の兜に食らいついていたといわれています。
酒呑童子を斬った逸話により「童子切」という名がついたこの刀は、試し斬りとして「6人もの罪人の遺体を一気に真っ二つにしたうえ、遺体を乗せていた土台に食い込んだ」ともされています。それほどの切れ味があったからこそ、酒呑童子さえも難なく退治できたのかもしれません。
驚くべき切れ味を持つ一方で、童子切は鮮明な模様が浮かぶ刀身や細身で優美な姿が上品だとされています。凄まじい威力と禍々しいまでの美しさを持つ童子切は、まさに「天下五剣」の名にふさわしい刀剣です。
また、「童子切」は国宝に指定され、現在は東京国立博物館に所蔵されています。2017年には現代刀工の技術で複製を作成する取り組みが行われるなど、今も多くのファンがいる名刀でもあります。
アーサー王が手にした、統治者の象徴/エクスカリバー
【特徴】 ■『アーサー王伝説』のアーサー王が所持。 ■剣は「千本の松明を集めたような輝きを放ち、あらゆるものを両断した」と言われ、鞘は「所持している限り、不老不死の加護を得られる」という力を持つ。 ■イギリス全土では度々エクスカリバーと思わしき剣が見つかっている。(本物かどうか確証には至っていない) |
イギリスで今も語り継がれる、「アーサー王伝説」。円卓の騎士たちと繰り広げられる物語は世界中で愛されており、日本ではあの夏目漱石もアーサー王伝説を下敷きにした「薤露行」という作品を書いています。“薤露”という言葉には「薤の葉の上に置く露は消えやすいように、人生は儚いものである」という意味が込められており、アーサー王が最後は仲間の裏切りにあい、破滅に向かうという刹那的な雰囲気を上手く表現したタイトルだといえるでしょう。
「アーサー王伝説」に登場するのは、ブリテン島を治める統治者の証でもあるとされるエクスカリバーです。アーサー王がエクスカリバーを手にした経緯については「石に刺さっていた剣を抜いて手に入れた」、「湖の乙女から譲り受けた」というふたつのパターンがありますが、これはあらゆる研究者による議論が続いているほか、研究本が複数存在することによるものです。
「サー・アーサー、王さま、あの剣はわたくしのものでございます。人呼んでエクスカリバー、すなわち『鋼を断つ』の意でございます。しかし、これからお願いする贈物をわたくしにくださるならば、その剣は王さまのものとなりましょう」と姫は答える。
「ご所望のものなんなりと、かならずさしあげよう」
「では」と姫ぎみが言う。「あの舟にお乗りなさい。剣のところまでみずから漕いでいって、剣と鞘をお持ちなさい。王さまからの贈物は、いずれ、お願いにあがりましょう。」(略)
サー・アーサーは剣をしげしげと見て、それにぞっこん惚れこみました。
「どちらがお気に入りですか。剣ですか、それとも鞘のほうですか」とマーリンが尋ねる。
「剣のほうだ」とアーサーが答える。
「そいつはご賢明ではありませんな。鞘には剣十本の値打ちがあるのです。その鞘を身につけているかぎり、どんな深傷を負っても、血を一滴たりとも失うことがありません。ですからかならず鞘を身につけておいでなさい」『図説アーサー王伝説物語』より
アーサー王が手にした鞘には、魔法の剣を収めるという理由から強い魔力が秘められていました。仲間の魔術師、マーリンが語っているように、持っている限り不死身である凄まじいアイテムだったのです。しかし、この鞘は後に魔女モルガンによってすり替えられてしまい、アーサー王は不死の力を失ってしまいます。
やがて死の直前にあるアーサー王は、部下である騎士、ベディヴィエールの手でエクスカリバーを湖に投げ入れることを望みます。
円卓の騎士たちに囲まれ、一国を治めていたアーサー王。エクスカリバーを返却し、伝説の島“アヴァロン”で傷を癒した後に再び王として戻ってくるという形で「アーサー王伝説」は幕を閉じます。アーサー王の強さの源だったエクスカリバーは、イギリス全土でそのモデルになったとされる剣が度々発見されています。本物かどうかはさておき、イギリスに住む人々にとってアーサー王がいかに愛されているかがわかりますね。
「怒り」を意味する名を持ち、ドラゴンをも倒せる剣/グラム
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【特徴】 ■北欧神話の英雄、シグルズ(シグルト、ジークフリートとも)の剣。叙情詩『ニーベルンゲンの歌』では「バルムンク」の名で登場する。 ■石や鉄を容易く切り裂き、ドラゴンも退治した。 ■シグルズが自分を刺した義兄にグラムを投げつけると、腰のところで両断したといわれている。 |
北欧神話に登場するシグルズの戦いを支えた剣、グラム。もともとは北欧神話における軍神、オーディンが「引き抜いた者に与える」とリンゴの巨木に突き刺した剣でした。
あらゆる屈強な戦士が挑戦するなか、唯一引き抜けたのはシグルズの父親、シグムンドでした。オーディンの加護を受けた剣で次々と功績を上げるシグムンドでしたが、ある時戦場に現れたオーディンの槍、グングニルによって剣を折られてしまいます。やがて息子・シグルズに託された剣は、鍛冶屋を営む彼の養父、レギンの手によって魔法の剣「グラム」として生まれ変わることとなります。
新しく生まれ変わったグラムは、「水にさらすと上流から流れてきた一筋の羊毛が絡みつかずに真っ二つになる」、「石をも簡単に砕く」といった切れ味を持っていました。
グラムを立派な魔法の剣に仕立て上げたレギンは、自らの兄弟のファーヴニルを憎んでいました。レギンから「ファーヴニルは莫大な遺産を独占し、竜に身を変えて守っている」と聞いたシグルズは、ファーヴニルが潜む洞窟に向かい、「溝に身を隠し、水を飲もうと油断したファーヴニルに剣を突き刺して倒す」ことを計画します。
竜は大地を揺るがしながら、姿を現した。シグルズを見つけた竜は口から火を吐き出し、巨大な口を開け、毒液をまき散らしながら近寄ってきた。シグルズは、すばやく溝の中に隠れる。竜が、いよいよ真上に来たとき、グラムを突き出すと、大きな手応え。剣は束頭までファーヴニルに突き刺さっていた。
『知っておきたい 伝説の武器・防具・刀剣』より
数々のファンタジー作品でも脅威的な存在として描かれている竜を、難なく倒すことができたグラム。強いだけでなく、親子2代にわたって活躍したことを踏まえると壮大なドラマを感じさせる刀剣とも言えます。
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【北欧神話ってどんなもの?】初心者でもよくわかる、北欧神話のあらすじと神々。)
武術の師匠・スカーハハから託された槍/ゲイ・ボルグ
<イメージ画像>
【特徴】 ■ケルト神話の戦士、クーフラン(クー・フーリンとも。以下同様)が師であるスカーハハ(スカアハとも。以下同様)から授けられた魔槍。 ■「一撃で致命傷を与える」、「稲妻のような速さで敵を貫く」、「ゲイ・ボルグが突き刺さった敵から槍を引き抜くことは容易ではないため、周囲の肉を削り取るしかない」といったほどの恐るべき力を持つ。 ■「足の指で挟み、蹴るようにして敵に投げつけて初めて真価を発揮する」という難点がある。 |
アイルランドやウェールズ地方に伝わる、ケルト神話。この伝承の中に登場する武器といえば、太陽神ルーの子として生まれたクーフランが手にした槍“ゲイ・ボルグ(ガエ・ボルガとも。以下同様)”です。
クーフランは勇猛果敢な性格の持ち主であり、祭司から受けた「今日戦士になる者は偉大な英雄として長く語り継がれるが、その生涯は短いものになるだろう」という予言を耳にするや否や、戦士となるべく王のもとに向かった人物でもあります。
成長し立派な戦士となったクーフランはエメルという女性に求婚しますが、武術の修行不足などを理由にエメルの父親から断られます。そこでクーフランは影の国アルバ(現在のスコットランド)に赴き、武芸や武術の達人でもあった女王、スカーハハのもとで修行を行うのでした。
「スカーハハの教えを受けたものは素晴らしい秘術と武器を授けられる」といった理由から、彼女の元で修行することを望む戦士は後を絶ちませんでした。クーフランもそのひとりでしたが、スカーハハの住む城までにあった数々の難所を乗り越え、自力でやってきた彼にスカーハハは驚き、弟子にすることを決めたと言われています。
クーフランはウアハフから貴重な助言をえた。すなわち母親スカーハハに三つの願いをかなえてほしいと頼みなさいというのだ。これに従ってクーフランが願った三つのこととは、こうであるーー戦いの術を教えてもらうこと、結婚持参金を手に入れること、それから自分の未来の姿を教えてもらうこと。スカーハハには予言の能力がそなわっているのであった。さて、スカーハハはクーフランに、英雄らしい大跳躍の術、槍の穂先に立つ技、鎌形戦車の繰り方など、多くの秘術をさずけた。またスカーハハは恐るべき魔剣ガエ・ボルガをクーフランに与えた。これを一太刀あびれば、身体の中で傷が三十か所にもひろがるのだ。
『ケルト神話物語』より
ゲイ・ボルグはもともとスカーハハの秘蔵の品でしたが、クーフランの才能に惚れ込んだスカーハハは弟子に授けることを決意します。
「海獣の骨で作られたゲイ・ボルグで負わせた傷は決して治ることはない」という魔槍、ゲイ・ボルグ。威力こそ凄まじいものの、「足の指で挟み、蹴るようにして敵に投げつけて初めて真価を発揮する」という難点がありました。容易に使える武器ではなかったため、クーフランも使ったのは数える程度だったといわれています。
また、ケルト神話ではスカーハハを武芸に秀でた女王とする一方、19世紀の作家フィオナ・マクラウドによって書かれた物語『女王スカァアの笑い』では、クーフランに激しい愛情を募らせ、執着するひとりの女性として描かれています。秘蔵の品を簡単に弟子に手渡したのも、スカーハハがクーフランを弟子としてだけでなく、ひとりの男性として愛してしまったからなのかもしれません。
世界の神話に見られる、圧倒的な武器の数々。
古来より圧倒的な存在として信じられてきた神話や伝説の多くには、脅威的な力を持つ武器が登場します。怪物を倒すほどの威力を持つもののほか、王や神の象徴とするもの、才能を信じて譲り渡すものなど、その形はさまざま。しかし、いずれも想像を超えるほど強力なものばかりです。
どんな神が、どのような武器を持っていたのか。武器の用途や象徴に注目して神話を読み解けば、新たな発見があるはずです。
【参考書籍】 『日本神話の伝説』/高木敏夫(著) 『物語で読む日本の刀剣150』/かみゆ歴史編集部(著) 『図説アーサー王物語』/デイヴィット・デイ(著) 『ケルト神話物語』/マイケル・ケリガン(著) 『知っておきたい 伝説の武器・防具・刀剣』/金光仁三郎(著) 『魔法世界の元ネタ図鑑』/ヘイズ中村、魔法研究会(著) 『図解 ケルト神話』/池上良太、シブヤユウジ、池谷ちづる(著) |
初出:P+D MAGAZINE(2019/01/07)