【シヴァ、ブラフマー、ヴィシュヌ】驚愕のスケールと強さを持つインド神話を徹底解説!
神々の持つ力や争いが破格のスケールで描かれているインド神話。私たちの想像をはるかに超える展開も珍しくないインド神話に迫ります。
皆さんは日常生活の中で、「ガネーシャ」や「シヴァ」といった言葉を聞いたことはありますか?インド料理店や、ゲームの登場キャラクターの名前として、なんとなく知っている人も多いはず。
また、2018年には、あるインド映画が日本で大きなヒットを記録しました。その映画とは、古代インドの架空の国を舞台にした『バーフバリ』シリーズです。
『バーフバリ』シリーズは、王位継承権にまつわる愛憎劇でありながら、色彩豊かな映像や、奇想天外なストーリー、度肝を抜くようなアクションシーンに観客は魅力され、全国各地で上映が決定するほどの人気を博しました。そして、『バーフバリ』をきっかけに、民族衣装を扱う店舗やインド料理店にも人が集まる事例も見られており、結果としてインド文化が注目されるようになったと言われています。
また、この作品にはインド神話をモチーフとした演出や展開が多く見られますが、もともとインド神話は神話の中でも特に破格のスケールで描かれることでも知られています。今回は、そんな私たちの想像をはるかに超える展開を繰り広げるインド神話を紹介します。
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同じ神々が登場?インド神話と日本神話の深い関係。
あらためてインド神話とは、インドに住む多くの人々が信仰しているヒンドゥー教、バラモン教、仏教に伝わっている世界観や教義をなす神話のことです。
インド神話にはヒンドゥー教に登場する神様が多く登場しますが、そのルーツは古代インドで信仰されていたバラモン教にあたります。バラモン教は時代とともに、ヒンドゥー教へと発展していったといわれています。
皆さんの中には、インド神話と聞いてもあまりピンとこない方もいるかもしれませんが、実は日本に伝わる仏教はもともとインドを発祥としており、仏教に取り入れられているインド神話の神々も少なくありません。
たとえば、ヒンドゥー教でシヴァ、ヴィシュヌとともに最高神として信仰されているブラフマーは、仏教においては釈迦が悟りを開いた際、世界に広まることをためらった釈迦の後押しをした“梵天”として登場します。
そんなブラフマーの妻である女神、サラスヴァティは、聖なる川の化身とされています。(諸説あり)
川の化身であるサラスヴァティは、言葉、弁舌、知識、音楽といった流れるものを司っており、その姿は弦楽器を手にした女神として描かれています。また、日本では、七福神のひとつとして知られる弁財天として親しまれているため、皆さんにとっても身近な存在に思えるのではないでしょうか。
破格のエピソード揃い!インド神話の最高神たち。
インド神話に限らず、世界中の神話ではさまざまな形で「何もない状態から、いかに宇宙と世界が誕生したのか」が語られています。
インド神話には、「水」を万物の根源とする考えがありました。それは、インド北部を流れるガンジス川が今もヒンドゥー教徒によって神格化されており、「沐浴をすればすべての罪が清められる」と信じられていることからも十分にうかがえるでしょう。
世界と宇宙を創り出したブラフマー。
インド神話において、世界と宇宙を創造したのはブラフマーだとされています(諸説あり)
「原初の世界は混沌としていた。そこに原初の水(ナラ)が生まれた。水の中に種をまくと、種は光輝く黄金の卵(宇宙卵)となり、卵からブラフマーが生まれた。ブラフマーは卵の殻の上半分を地界に、中間を空界にして三界をつくり出し、あらゆる生命や世界をつくり出した」
『いちばんわかりやすい インド神話』より
先述した通り、ブラフマーはシヴァ、ヴィシュヌとともにインド神話では最高神として信仰されていますが、実は現代のヒンドゥー教では影響力が小さくなっているといわれています。
その理由は、ブラフマーが宇宙の創造に関わったことにより、宇宙そのものとして認識されるようになった点に隠されています。未だ多くの謎がある「宇宙」は、現代に生きる私たちに取っても抽象的な存在。そして宇宙は私たちと遠く離れたものであることから、なかなか存在を認識する機会がありません。
さらに、現在を司るヴィシュヌ、未来を司るシヴァとは異なり、ブラフマーは過去を司っています。すでに宇宙と世界を創造する大仕事を終えていることもあり、神話でもその他の神々の引き立て役として登場することがほとんど。創造に関わってはいるものの、「抽象的であること」から影響力を失ってしまったのです。
ちなみに、ブラフマーは4つの顔と4本の腕を持った姿で描かれていますが、これは配偶神のサラスヴァティを常に見ていたかったから、という理由によるもの。もともとブラフマーの顔は5つでしたが、シヴァと喧嘩した際に切り落とされたと言われています。
怒らせると世界が終わる?破壊神として知られるシヴァ。
破壊を司る神でありながら、病気を治すこともできる慈悲深い面を持つシヴァ。シヴァは暴風雨の神ルドラと同一視されていますが、これは「暴風雨によって被害をもたらす破壊的な側面と、恵みの雨によって作物を育てる生産的な側面」という二面性を持つことに由来しています。
シヴァは、象の頭を持つ神、ガネーシャの父親でもあります。日本では2008年にヒットした水野敬也の小説『夢をかなえるゾウ』にも登場することから、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
ガネーシャは、もともと象の頭を持っていたわけではありませんでした。その理由については諸説あるなか、特によく知られているのはシヴァがきっかけである説です。
シヴァの妻パールヴァティーは、夫の留守中に自分の体の垢を集め、美しい人形を作った。その人形を気に入った彼女は命を吹きこみ、息子としたのである。それがガネーシャだった。
あるとき、水浴をしようとしたパールヴァティーが、ガネーシャに見張りを命じた。「私が水浴をしている間、浴室にはだれも入れないように」と。そこにシヴァが帰宅した。ガネーシャは父の顔を知らないため、母の命令どおり彼を追い返そうとした。シヴァももちろんガネーシャが自分の息子(かどうかは曖昧だが)であることを知らないため、ふたりは部屋に入れろ入れないの押し問答になった。ついには激怒したシヴァが息子の首をはね、遠くへ投げ捨てたのである。
嘆き悲しむパールヴァティーの姿を見て、シヴァは捨てたガネーシャの頭を捜しに旅に出るが、どうしても見つけることができなかった。『完全保存版 世界の神々と神話の謎』より
最終的に、シヴァは旅先で見つけた象の首を切り落として持ち帰り、ガネーシャの頭として取り付けます。そのため、ガネーシャは象の頭を持つ存在として復活することになるのでした。
破壊神であるシヴァの力は、その他の神々を圧倒するほど強大です。その勢いは「1本の矢を放つだけで都市を3つ破壊する」、「本気で怒ると激しい炎で世界中を焼き尽くす」というエピソードからも十分にうかがえます。だからこそ、喧嘩相手のブラフマーや押し問答になったガネーシャの首を何のためらいもなく切り落とすほどの行動に出るのでしょう。
あのシヴァより強い。ヴィシュヌの圧倒的な力。
そんなシヴァよりも強いとされているのが、宇宙を維持するための神とされているヴィシュヌです。「ヴィシュヌは3歩で世界を1周できる」、「世界ができてから終わるまでの時間は、ヴィシュヌにとってまばたき1回分の時間と等しい」という話からも、そのスケールの大きさは伝わってきます。さらにヴィシュヌはあの破壊神シヴァと敵対したとしてもシヴァは絶対に勝てないと定められていることからも、インド神話の中でも最強といわれているのです。
また、一説ではヴィシュヌのへそから咲いた蓮の花からブラフマーが生まれ、ヴィシュヌの額からはシヴァが生まれたともされており、ヴィシュヌが最高神の大元になっているという見方もあります。
ヴィシュヌが人気を集めている理由には、動物や人間に姿を変えて人々を救っていたということがあげられます。それぞれの姿は化身を意味する「アヴァターラ」と呼ばれており、オンラインゲームなどで自分の分身となるキャラクター=「アバター」の由来ともされています。
ヴィシュヌは巨大な亀となって大地を支える、巨大なイノシシとなって大地を水からすくい上げる、英雄となって暴君から人々を救う……、など、さまざまな形で人々からの支持を集めます。強いだけでなく、困った人々のために動くことができる点も、大きな魅力だったのかもしれません。
世界を滅ぼす力を持つ、規格外の神々たち。
他の国々の神話と異なり、インド神話の神々は世界があっという間に破壊されてしまうほどの力を持っています。そのスケールの大きさは、驚きとともに度を超えたエピソードとしてときにユニークにも見えるほど。『バーフバリ』シリーズがヒットした要因も、ハリウッド映画にも引けを取らない華麗で壮大なアクションシーンなどにあったといわれています。
映画やゲームなど、インド神話をモチーフとした作品が増えている今、元ネタとなるインド神話に触れてみれば、新たな発見があるかもしれません。
参考書籍 『いちばんわかりやすい インド神話』(著:天竺奇譚)/実業之日本社 『完全保存版 世界の神々と神話の謎』(著:歴史雑学探究倶楽部)/学研プラス |
初出:P+D MAGAZINE(2019/03/05)