銀色夏生ワールドで生まれた素敵な言葉コレクション【言葉で人は救われる】
1985年に第1詩集『黄昏国』を出版してから30年以上に渡り、多くの作品を創作・出版している銀色夏生。今回はその中から選りすぐりの名作を紹介します。温かな世界にぜひ、浸ってみてください。
宮崎県出身の女性詩人で、1985年に第1詩集『黄昏国』が刊行されてから30年以上に渡り、多くの詩集や小説、日記風エッセイを世に出してきた銀色夏生。
温もりがある言葉や胸を打つ言葉を書くことで人気があり、多くの人々から共感を得ています。素敵な言葉は傷付いた時や立ち直りたい時の特効薬にもなります。そんな彼女が、2018年10月25日に最新作『秘密の花園作り つれづれノート34』を出版しました。日記風に描かれた温かなエッセイで、銀色夏生の生活を覗き見ることができる人気シリーズです。温かな日常に触れてほっと一息つくことができ、穏やかな気持ちになりたい人におすすめです。
今回は、そんな独特な言葉遊びも楽しめる銀色夏生の世界の中でも、選りすぐりの名言を話題の新作を中心に、紹介します。
ほのぼの日常エッセイ『秘密の花園作り つれづれノート34』
https://www.amazon.co.jp/dp/4041069785
同じ景色を見て、何も感じない人もいれば、そこに宝を発見する人もいる。
常に宝はある。
人生は静かな宝探し。
宝を見つけたらひそかに歓喜する。人に知ってもらう必要もない。
テレビの話やプールの話、今晩のおしながきなど、銀色夏生の日々の徒然が描かれているつれづれノートは、本作で34作目になります。
傾聴カウンセリングを始めたり、ふきのとう味噌やハチミツレモンを作ってみたり、好奇心旺盛な銀色夏生。好きなことやものに囲まれた生活はとても輝いていて、憧れる人も多いでしょう。こうして多くの経験や寄り道を楽しむことで、銀色夏生の世界は作られているのだとよくわかります。
相性って自分との関係、組み合わせということだ。いい「人」というのが存在するのじゃない。いい「関係」が存在するのだ。
自分自身になるべく嘘をつかない、無理をしないという生活は簡単に送れるものではありません。息抜きをしながら進んでいくことが大切なのだと、改めて気づかせてくれる1冊です。
ノスタルジックなイラスト詩集『悲しがる君の瞳』
https://www.amazon.co.jp/dp/4048832697
私たち二人の関係が 私たち二人にしかわからない理由で ずっと続いていきますように
本作はとても優しい詩からはじまるイラスト詩集です。どこか懐かしさを覚えるイラストとストレートな言葉が一体となり、センチメンタルな気分に浸れます。
表題になっている「悲しがる君の瞳」という詩は、はじまりの詩と対になっていて、
僕たち二人の関係は 僕たち二人にしかわからない理由で いつか終わっていくだろう
そう言うと 悲しがる君の瞳 悲しがる君の瞳
と、2人の考えや見ている方向は少し違うという切なさを描いています。
君がおしつぶされているあらゆる悲しみは、すべて君がその手でそこまでひきよせてきているのに。
そして今、この一瞬にも悲しみをひきよせようとしている手は動き続けているのに。
君がその手を止めない限り、不安な気持ちは止まらない。不安な瞳が曇ってく。
やさしいからはっきりと断れないってウソだと思う。
本当にやさしい人っていうのは、相手を傷つけないように時には強く言える人だ。
あの人の場合、やさしいのではなくてつめたくて弱いんだ。
悲しみに暮れている人や対人関係で迷っている人の心に優しく喝を入れ、気づきを与えてくれます。そしてこれからについて考える力を持つ希望の詩にも出会えます。
特徴的なイラストも楽しめるので、画集などが好きな方にもおすすめです。
平成元年に生まれた銀色夏生の自由帳『微笑みながら消えていく』
https://www.amazon.co.jp/dp/4048832492
約束しなくてもまた明日会えることが
どんなにいいことか
約束しなければもう次に会えないという身の上になってみて
つくづくよくわかる
銀色夏生が、風景のようにきれいで静かな本を、自由帳のように自由に作った、と語る一冊です。詩を書くだけでなく写真とデザインも自身で行っていて、せわしない日々の中では見逃してしまうような、日常に当たり前のように紛れ込む、空や花の写真が多いです。自然の美しさと言葉の強さが絶妙に結びついていて、ページをめくるごとに五感が研ぎ澄まされていく感覚を味わえます。
やさしくするなら最後まで
つめたくするなら最初から
できそうにみえることとできることとは違うんだわ
銀色夏生から読み手へと送られた、「なんてことない人生を、悲しみと喜びを感じながら、失望することなく生きていこう」というメッセージ。わかるなあ、こういうことあるよなあ、と頷きながら、何度も読み返したくなる言葉が揃っています。
頑張りすぎてしまったあなたの心に風を『詩集 風は君に属するか』
https://www.amazon.co.jp/dp/4041673798
出来事には終わりが来る
でも時間は止まらない
「これぞまさしく銀色夏生ワールド!」と拍手をしたくなるような本作は、2010年の夏に出版された本格詩集です。本格詩集というだけあって写真やイラストはなく、たくさんの詩が楽しめるので読み応えがあります。様々な風景を想像できる色とりどりの言葉たちを読み進めていくことで、読書をしているのに別の場所へと旅をしている気持ちにもなれます。
ひとつひとつの言葉を噛み締めることで、隠されていた自分の本心に気づき、霧が晴れたように楽になるかもしれません。
悲しみが人を強くすると誰が言ったのだろう
僕たちはいつもいつも
新しい悲しみに打ちのめされている
悩み相談の答え
人は自分以外の人にはなれないというのが、まずひとつ。
それから、人は自分を受け入れるしかないというのが、ふたつめ。
それで全部。
懐かしいあの頃の自分の気持ちを思い出すことができ、今の自分について考えさせられます。過去も現在も自分は自分。きれいな言葉に酔いしれたいという時は、ぜひ手に取ってみてください。風のように心へと吹いていく詩をじっくりと堪能できます。
春は別れと出会いの季節『詩集 エイプリル』
https://www.amazon.co.jp/dp/4041673682
愛なんて
知っているわけじゃないけど
なにも
知っているわけじゃないけど
僕らは
知っていると思いこんでいた言葉の意味を
傷ついた過去からいつも学ぶ
銀色夏生の詩集を春に読むなら、タイトルにちなんで本作はいかがでしょうか。全編男性視点で綴られている恋愛写真詩集で、銀色夏生の恋愛哲学が汲み取れます。読む度に心を動かされる言葉を見つけることができるので、男女問わず恋をしている人、恋をしたことがある人に読んでほしい抒情詩集です。
愛とか恋とか悲しみとか裏切りとか
感情に名前をつけるのはやめなよ
名づけなければ
それはそれじゃないかもしれない
宝石のように並べられた言葉の意味を、より一層引き出している素敵な写真にも注目です。その場限りで忘れてしまうような一瞬の感情を、何度でも目で見て心で感じることができる写真詩集は、疲れた体と心にじんわりと沁み込みます。
人はどんなに困った状況においても
なんらかの反応はするべきだ
その反応が本心に近ければ近いほど
前途は開ける
銀色夏生は本音を歪めて我慢をしてしまいがちな人の背を、そっと押してくれる言葉を差し出してくれます。真っ直ぐに突き刺さる言葉に、涙があふれてしまう人も多いはず。
おわりに
何年経っても色褪せない心に響く名言として、優しさ溢れる言葉の連なりを書き留めておきたくなる人も多いでしょう。
『悲しがる君の瞳』のあとがきにはこう書かれています。
見知らぬ人々の間に、ある瞬間伝わりあう感覚が好きです。共通感覚は、何よりも速く何よりも強く、人を人と一体化させるものだと思います。そして、その中では時や場所を超えたどこかへ行けるような気がします。
そう考える銀色夏生だからこそ、共感できる言葉が生まれるのかもしれません。
疲れた時や頑張りたい時の心の薬として、銀色夏生の言葉たちを心の隅に置いてみてはいかがでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2019/03/18)