【著者インタビュー】古市憲寿『平成くん、さようなら』
TVのコメンテーターとしても活躍している古市憲寿氏が、平成の終わりを描いた小説は、芥川賞の候補にもなり大きな話題を集めました。令和を迎えたいま、改めて平成を振り返って読みたい一冊です。
(このインタビュー記事は女性セブン2019年1.31号からの転載です)
【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】
平成最後の年に読みたい毒舌&炎上でもおなじみ気鋭の社会学者が綴った「平成の終わり」と「死」を描く初めての小説!
『平成くん、さようなら』
文藝春秋 1512円
〈彼から安楽死を考えていると打ち明けられたのは、私がアマゾンで女性用バイブレーターのカスタマーレビューを読んでいる時だった〉。こんな一文から物語は始まる。1989年1月8日、つまり平成に改元された日に生まれた彼のファーストネームは「平成」。平成の代表としてメディアの寵児として人生を謳歌する彼はなぜ恋人の愛に安楽死をしたいと告げたのか。実在の人物や場所も多数登場。時代の終わりと近未来の社会を映し出す。
古市憲寿
●FURUICHI NORITOSHI 1985年生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」委員、内閣府「クールジャパン推進会議」メンバーなどを務める。著書に『希望難民ご一行様』『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えられない』『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など多数。朝の情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)のコメンテーターとしても世間を賑わせている。
本屋さんにいっぱい並ぶ平成論は正直、面白いものが少ない
まもなく終わる平成という時代。テレビのコメンテーターとしても活躍する社会学者が、平成の終わりを小説に描いた。
「今、本屋さんに行くといっぱい平成論が並んでますけど、正直、面白いものが少ない。理論にするのは難しくても、逆に物語なら書けるんじゃないかな、と思って書き始めたのがこの本です」
時代の終わりとともに安楽死を願う主人公の名前が「
「ぼくと重ねて読む人も多いのはわかります。部分的には確かにぼくなんですけど、ぼくだけでもなくて、何人かをモデルにしています。『平成くん』はぼくより合理的で、ずっと賢い」
社会的に恵まれた階層に位置し、家賃130万円の高層マンションに暮らしている二人だが、贅沢を楽しむというより、AIが最適解を導き出すようにその場に見合ったレストランや食事、衣装を選んでいく。欲望を取り除いたような暮らしは無機質で、二人の性行為はアマゾンで購入した最新の「セックストイ」を介して行われる。
小説を書いてみないか、というのはずいぶん前から言われていたそうだ。祖母の死をきっかけに、昨年、文芸誌に初めて短篇を発表した。芥川賞候補のこの作品が小説としては2作目だが、そうは思えないほど自然な語り口である。
「そうですね。『小説を書こう』って身構えることもなく、書きたいことを自然に書けた感じです。普段から文章で悩むことはなくて、今回も特にプロットも作らず、一行目から順番に書いていきました。安楽死をテーマにしたい、というのは考えていたので、最後のイメージだけはありましたけど」
『平成くん‥‥』の舞台は現在の東京で、描かれる事件や固有名詞も今のものばかりだが、安楽死が認められている社会だという一点だけが違っている。
「平成の終わりって安楽死と似てますよね。ある日、急にプツッと消えるようなこれまでの終わり方ではなくて、自分で終わりを決めるという意味で。これから、死がどう変わっていくんだろうと考えながら書いたのがこの小説です」
素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1
Q1 最近読んで面白かった本は?
工藤隆『大嘗祭』。天皇の代替わりの儀式を公費でやることが議論になってますけど、資料を積み上げ、すべて非公開とされる大嘗祭の秘密に迫った本で、とてもスリリングでした。
Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
篠田節子さん。特に『ゴサインタン』など、スケールの大きな作品が好きです。著者ご本人は、節制した生活を送っているらしい。そのギャップに驚くと共に納得もしました。
Q3 好きなテレビ・ラジオ番組は?
スタジオでは『とくダネ!』は見るけど‥‥。なんだろう。『FNS歌謡祭』は好きですね。
Q4 一番リラックスする時間は?
あんまりストレスもないしリラックスすることもない。テレビに出ているときのCM中は好きですね。本番で言ったらヤバいこともCM中だと言えるから。VTRを流している間は万一、音声がスタジオに切り替わるとマズいですけど、CM中はそれもないので。
Q5 平成で一番印象に残る出来事は?
『ドラえもん』の声優が代わったこと。ショックだったしびっくりしましたけど今は慣れました。悲しいけれど、人間はなんでも慣れちゃうんだなと思いました。
Q6 平成最後の正月をどう過ごしましたか?
ノルウェイにチョコレートを買いに行きました。好きなチョコが、ノルウェイにしか売ってないので定期的に買いに行ってます。
●取材・構成/佐久間文子
●撮影/横田紋子
(女性セブン 2019年1.31号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/05/29)