中国で1500年以上にわたって書かれつづけた、シュールな怪異譚集/井波律子『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』
冥土の役人に袖の下を渡すため「金の腕輪をつけてくれ」と遺体が起きあがる……。書生が若い女を口から吐き出し、さらにその女が若い愛人を吐き出す……。シュールで奇想天外な、中国古代の怪異譚集!
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
中国奇想小説集 古今異界万華鏡
井波律子 編訳
平凡社
2400円+税
装丁/大倉真一郎
トランプ大統領も震える?愛憎の果ての恐ろしい人間たち
中国で千五百年以上にわたって著されつづけた、超現実的な怪異譚集。妖怪、鬼、亡霊、死者がマスコット人形みたいにゴロゴロ出てくるから、ドキドキ。よくもまあシュールな話を思いつくなあ、こんなのアリ? と仰天して、そのシーンを読み返してしまう。
読みながら膝を打ったのは、「籠のなかの小宇宙」で作者は
唐代の傑作は「
宋代の「居酒屋の娘」は、酒を飲んだ娘に祟られる怖い体験。鬼気がつよい女に惚れられたら西方三百里の外へ逃げないと死んじゃいます。明代に入ると「
井波さんは『論語』『三国志演義』『水滸伝』などの訳者として知られるが、奇想小説が好きで、楽しみながら自在に編訳し、そのワクワクした呼吸が伝わってくる。
この本を英訳して、トランプ大統領に読ませたら「トニカク中国人スゴイネ、ケンカシナイホウガイイヨ」と思うかな。トランプ氏は読解力がないからムリか。
(週刊ポスト 2019年3.1号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/07/18)