【待望の新作!】いまからでも追いつける、『十二国記』シリーズの3つの魅力

小野不由美による人気ファンタジーシリーズ「十二国記」。2019年10月12日には18年ぶりの書き下ろし最新作、『白銀の墟 玄の月』が発売となります。これから「十二国記」シリーズを読んでみたいという方のために、シリーズの“3つの魅力”と読みどころをお伝えします。

小野不由美による大人気ファンタジー小説シリーズ『十二国記』の最新刊、『白銀しろがねおか くろの月』が2019年10月12日に刊行されることが大きな話題となっています。

1991年の第1作の発表以来、20年以上に渡って多くのファンの心を掴んできた同シリーズ。2002年にはテレビアニメ化もされたことでさらに支持層を拡大し、シリーズの売上は累計1000万部を突破しています(新潮社公式サイトより)。

この秋発表される新作は、なんと2001年に刊行された『華胥かしょ幽夢ゆめ』以来18年ぶりの書き下ろし。最新刊を心待ちにしていたファンはもちろん、この機会に『十二国記』シリーズを読んでみたい、という方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな『十二国記』シリーズの読みどころを“3つの魅力”を中心にご紹介します。

【魅力その1】神獣や妖魔が登場する、古代中国風の世界観

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『十二国記』シリーズの最大の魅力は、やはり徹底して作り込まれたその世界観。同シリーズは、古代中国風の異世界を舞台としています。

12の国で成っていることから「十二国」と呼ばれるこの異世界には神仙や妖魔が存在し、最高位の神獣である麒麟が天意に従って選んだ王がそれぞれの国を統治しています。王は王位に就くことで人間ではなく神仙となり、不老長寿の生を得ます。

十二の国の王と麒麟とは、運命を共にしていると言っても過言ではありません。王が天意に背いた政治をおこなうことがあると、麒麟は病にかかってしまいます。そして病にかかった麒麟が命を落とすと、王も命を落とすのです。

十二国の東の果てには日本と中国があり、十二国世界と私たちの住む世界は本来交わらないものの、まれに「蝕」と呼ばれる現象によってつながってしまうことがあります。そのため、十二国世界には、日本や中国から流されてきた民(海客・山客)が少ないながらも存在します。

十二の国はそれぞれさまざまな文化や慣習を持っており、海客・山客や半獣、障害者などを受け入れる国もあれば、迫害し追い出そうとしたり、処刑しようとしたりする国もあります。本シリーズは、そんな十二国の世界と日本をおもな舞台に、国の統治の仕方に葛藤する王や、運命に翻弄されていく異世界の人間たちの姿を描いています。

物語の中では、神仙や半獣といった架空の生き物が活躍するのはもちろん、十二国それぞれの国情や地理も詳しく語られていきます。ファンタジーでありながらも、作中で描かれる国ごとの暮らしや文化、民の多様性には強いリアリティがあり、そのような部分も本シリーズの大きな魅力となっています。

【魅力その2】迷いやエゴを隠そうとしない、等身大のキャラクター

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『十二国記』シリーズに共通した主人公は存在しませんが、各作品の登場人物は、時代や場所を超えてリンクし合っています。たとえば、メインストーリーの最初のエピソードとなる『月の影 影の海』の主人公・中嶋陽子はやがて十二国のひとつである景国の王となり、4作目のエピソードにあたる『風の万里 黎明の空』にも登場します。

月の影
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101240523/

風の万里
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101240566/

それぞれの物語の登場人物は皆、悩みや葛藤を隠そうとしない等身大のキャラクターとして描かれています。前述した『月の影 影の海』の主人公である陽子の場合は、故郷・日本から十二国世界に連れてこられてしまったことを嘆き悲しみ、夜が来るたびに「家に帰りたい」と悩むばかりでなく、救いの手を差し伸べてくれようとする人のことを信じられない自分自身のあり方にも葛藤します。

そんな陽子にとってひと筋の光となるのが、のちに旅の相棒となる半獣・楽俊らくしゅん。人間に変身することもできますが、普段は大きなネズミの姿で生活しています。楽俊は慣れない十二国の中で妖魔に追われ続けてボロボロになった陽子を元気づけ、彼女はもともと景国の王になるべき器であり、十二国に生まれ落ちるべき人間であったというヒントを与えます。

陽子と楽俊は本シリーズのファンからも絶大な人気を集め続けているペアですが、このふたり以外にも、ひと癖ある神獣・麒麟たちや個性豊かな各国の王たちなど、作品によってさまざまなキャラクターの活躍を楽しむことができます。シリーズから1作だけを選んで読んでももちろん面白いですが、全シリーズを通して読んでいくと、思わぬキャラクター同士のつながりに気づいてより深く作品世界を味わうことができるはずです。

【魅力その3】「人が人を信じる」ことの本質を描く

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作り込まれた世界観や活き活きとしたキャラクターは、間違いなく十二国記の大きな魅力です。しかし、本シリーズの最大の魅力をあえて挙げるなら、「人を信じる」ということの難しさと尊さを描ききった作品である、ということに尽きるかもしれません。

たとえば『月の影 影の海』の中で主人公の陽子は、十二国の中を妖魔から逃げ回るうちに人間不信に陥っていきます。一度は陽子を助けようとしてくれた女が自分を楼閣に売ろうとしていることに気づいたり、同じく日本出身だと言って陽子をもてなしてくれた老人に荷物を盗まれたり、といった経験を積むうちに、彼女は「誰も信じてはいけない」と強くたくましくなっていくのです。

しかしやがて、楽俊や他国の王といった善良で頼もしい人々との出会いを経た陽子は、“陽子自身が人を信じることと、人が陽子を裏切ることは何の関係もない”という真理にたどり着きます。そして、十二国に迷い込んだときとは比較もできないような自信とやさしさを手に入れ、王の器になるべく成長していくのです。

本作の解説の中で、評論家の北上次郎は、『十二国記』の魅力をこのように語っています。

人として生きる上での本分を守り、人を信じ、そうして生きたいと思いながら、辛いことを避け、楽な道、安易な日々を選んでしまうのが私たちの人生だ。そんなこと言ったってと思う心に、怠けたいと思う気持ちに、陽子や珠晶や泰麒の姿が迫ってくる。もしかしたら私にも出来るかもしれない──そういう力がごんごんと沸いてくる。このシリーズはそういう力に満ちている。

おわりに

シリーズの最新作、『白銀の墟 玄の月』は全4巻で、1,2巻が10月12日3,4巻が11月9日に刊行される予定となっています。これから本シリーズを初めて読むという方は、メインストーリーの最初にあたる『月の影 影の海』から『風の海 迷宮の岸』、『東の海神わだつみ 西の滄海』などの長編作品を連続して読んでいくのがオススメです(短編や番外編も含めて最初からすべて読みたいという方は、エピソード0に当たる『魔性の子』から刊行順にお読みください)。

少女から大人までを惹きつけてやまない『十二国記』シリーズ。その最新巻ではどのような物語が紡がれてゆくのか、いまから発売日が楽しみでなりません。

初出:P+D MAGAZINE(2019/10/11)

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