『リアル鬼ごっこ』で一世を風靡した山田悠介の魅力

デビューしてから数多くの作品を生み出したサバイバルホラー作家・山田悠介。実写化作品も多く、特に若い世代から人気です。初期ホラー作品は手に汗握る展開の作品揃いで、ページをめくる手が進みます。山田悠介の魅力を知ることができる5作品を紹介します。

若干20歳にして作家デビューをした山田悠介。実写化やコミック化された作品も多数。
ロングセラー作家でもある山田悠介は、作品のモチーフにサバイバルやデスゲームを選ぶことが多く、読み進めるほどに自分も体験しているような手に汗握る緊迫感を味わえます。
近年は感動ストーリーが増えていますが、初期はラストでゾッとするホラー小説を数多く書いていました。

 

これを読まないと山田悠介は語れない-『リアル鬼ごっこ』

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山田悠介を語る上で欠かせない作品と言えば、デビュー作『リアル鬼ごっこ』。なんと20歳自費出版しました。その虚を衝かれたかのような面白さと強烈なインパクトは、瞬く間に世間の注目を集め、100万部を超える大ベストセラー作品となりました。

【あらすじ】西暦3000年、人口約1億人のとある王国で、とある鬼ごっこが7日間に渡って行われることになった。逃げ惑う鬼は王国の住人のうち、20人に1人は存在する「佐藤」姓を持つ者たちで、捕まえるのは王国の多くの兵たち。佐藤翼は過去に生き別れた妹・愛に会うため、馬鹿げた鬼ごっこに負けずに走り続ける。読み手をも熱狂の渦に巻き込む大量虐殺ゲーム「リアル鬼ごっこ」が開催されるが……。

戦争もなく平和な王国……、それが一変、現国王が即位してから犯罪が増えていました。何も対策を練らない若輩の国王についたあだ名は「馬鹿王」。しかし王様に反発したら処刑されてしまうこの王国で、馬鹿王と戦える人間がいるはずもありません。
ある日、馬鹿王は、誇り高い王族の自分と同じ姓を持つ人間が500万人も存在することが許せなくなり、とんでもない発言をします。

「私は嫌なのだ!<佐藤>姓を持つ人間がこれだけいることが不快なのだ!それは同じ人間がいるのと同じだ!<佐藤>姓を持つのは私だけでよいと、じいは思わぬか?」

佐藤と言う名を一番手っ取り早く、なおかつ効率的に減らす方法……。それは誰もが知っている鬼ごっこであった。現在、この王国で佐藤姓を持つ五百万人の人間を鬼ごっこ方式で減らしていこうというのだ。

1日に1時間、決められた時間に鬼ごっこが始まり、捕まったら極秘収容所で殺されてしまう。しかし7日間生き抜いたら褒美を得られる。鬼ごっこが行われる時間に乗り物を使ったら処刑、佐藤姓を見分ける「佐藤探知機」を鬼に着けさせるなど、王様に有利な条件が決められていきます。

一方、主人公・佐藤翼は母に捨てられてから14年もの時が経っていました。父の暴力に耐えられなくなった母は翼を置いて、妹・愛だけを連れて家を出て行ってしまったのです。「必ず迎えに来る」という言葉を信じて父からの虐待に耐え続けましたが、翼の前に母と愛が現れることはありませんでした。
そんな時にあるゲームの開催が発表されます。ゲームと言えば聞こえは良いですが、内容は「国が認めた大量虐殺のお知らせ」です。
突如として非日常的な鬼ごっこに巻き込まれる翼。それでも翼は母と愛に会いたいと願い、生き抜くことを誓います。多くの人が捕まっていく阿鼻叫喚の1時間で生き残るため翼は走り続けますが……。

大胆なゲーム設定に、多くの読者を震撼させた名作『リアル鬼ごっこ』。失速することのないサバイバル・ゲームに夢中になってみませんか。

 

「チェーンメール」が引き起こす残忍で不可解な事件-『@ベイビーメール』

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山田悠介の2作目は、当時流行っていたチェーンメール(注1)による恐怖を描いた『@ベイビーメール』です。終始不気味な雰囲気が漂っている、ホラー小説です。

【あらすじ】7月18日、関東で、ある妊婦が腹部をめちゃくちゃにえぐられて殺された。その事件を皮切りに、不可解な事件が続く。変死体として発見された女性たちには、亡くなる1か月前に送り主不明の「ベイビーメール」という件名のメールが届いていた。そこには「私の子供を育てさせてあげる。私の赤ちゃん、早く外に出たいみたい。大切に育ててあげて」と書かれている。高校教師の雅斗は、自分の親友の恋人が亡くなる前にこのメールを受信していたことを知る。さらに自分の恋人も受信していたことから、これ以上被害者を出さないために事件の真相を探り始める。

憧れの高校教師になり、順風満帆な生活を送っている雅斗。ある日、武蔵野東警察署の少年課の刑事で親友の慎也に、不可解な事件について聞かされます。妊婦が、お腹に穴があいたかのように殺されていて、お腹の中にはへその緒があるのに赤ん坊が存在していないのだと。さらに同日、3人の男性が同時に異常発作を起こして亡くなっていたと言われます。その時の雅斗はそこまで慎也の話を気にしていませんでしたが、1ヶ月後に慎也の妻・順子が同じように殺されて、その事件の内容を思い出します。慎也いわく、あるメールを受信した時から順子の体調が悪くなったのだとか。

「何かしらないけど、変なメールが来て、適当に読んだらメロディーがついていて、それを押したら赤ん坊の泣き声が聞こえてきたの。そしたら突然液晶が割れちゃって」
「変なメール?」
慎也が聞くと、順子は頷き、こう言ったのだ。
「ベイビーメール。題名にそう書いてあった」

順子はベイビーメールの受信後、1ヶ月前に生理があったにも関わらず妊娠4ヶ月だと発覚したのです。何かがおかしいと思い始めた雅斗と慎也は、事件について調査を始めます。すると、亡くなった女性の中には不妊症を患っていた人もいたのに、全員妊娠してから4ヶ月以上経っていたのです。そこから雅斗と慎也はある仮説を立てます。

「実はそのベイビーメールというメールが届いた人間のお腹の中には、赤ん坊が宿るんです。信じられないかもしれないが、僕はそう考えています」
「赤ん坊……ですか?」
 何が何だか分からない。そんな言い方だった。
「そうです。赤ん坊です。その赤ん坊はお腹の中で急激に成長する。お腹の中にいられなくなった赤ん坊は母親のお腹を突き破る。そして自らへその緒を切る。全て僕の推測なんですがね」

ベイビーメールが届いたら妊娠して死んでしまう。順子が亡くなる前に、慎也の妹で雅斗の恋人、朱美にもベイビーメールが届いていました。彼らはこの連鎖を止めることができるのでしょうか。

本作が出版された年代にはチェーンメールが流行っていて、「このメールを〇人に転送しないと不幸になります」というような内容のメールが蔓延していました。だからこそ本作の恐ろしさに(おのの)いた人も少なくないはずです。

(注1)チェーンメールとは、不特定多数の人間へ次々と転送されるように求める内容の電子メールの総称である。 チェーンメールの内容は、多くの場合、不幸の手紙の電子メール版のようなもので、迷惑行為にあたる。 儲け話や有名人のうわさなどから、中には脅しに近いメッセージや、表向き慈善的な内容のものもある。
引用元:Weblio辞書

 

初期ホラーの傑作短編集-『8.1』

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山田悠介初の短編集として刊行された本作は、心霊現象と人間の恐ろしさの組み合わせが絶妙な4作品が収録されています。
今回は2話目の『写真メール』を紹介します。

【あらすじ】周りから異常者と呼ばれてきた本田輝は、人には理解しがたい残酷な感覚の持ち主。虫を炙って殺すような子どもだった輝は、大人になってからは死体の写真を撮りたいと思い続けていた。そんなある日、家の近所で殺人事件が発生したというニュースを見かける。輝は現場へ行ってみることにした。

本田輝は「つまらない」という理由から大学を辞めてしまい、親から1人暮らしをするように命じられ、淡々とした日々を過ごしています。
つまらない日々に彩りを添えるためにも趣味を探し、最近は写真を撮ることを趣味としていました。残虐趣味を持つ輝は、人には言いづらい被写体を撮影したいと考えています。

今自分の中で流行っているのは携帯電話で写真を撮る事だ。ただ、凡人が撮るような、友達同士の写真とか、風景とかじゃ駄目だ。誰も撮れないような、いや、撮りたくないような現場をおさえるのだ。そして、自己満足する。

友人の福田隼人とは1年前に行きつけの漫画喫茶で知り合い、今でも時々会っています。輝は隼人に「人間の死体を携帯電話で撮影すること」を約束しているのですが、なかなか機会が訪れません。

ある日、輝の家から徒歩10分ほどのアパート・ドミール上北で28歳の女性・相沢知子が殺されるという事件が発生しました。8歳の息子・光は行方不明。絶好のチャンスを逃してしまった輝は、もう死体がないだろうとは思うけれど、状況を見るためにドミール上北に向かいます。
特に何か見つかるわけでもなく帰路に着きますが、途中で疲れてしまい、公園で休憩をします。そこである少年に声をかけられた輝。何かに怯えきった少年に連れられるがままについていくと、そこには小学校2年生くらいの少年の死体がありました。その死体の胸にはなんと「相沢光」という名札が付けられていたのです。これは行方不明と報じられている少年では? それから輝が起こした行動とは……。

その他にもお化けトンネルの怨念を描いた表題作『8.1』など、山田悠介らしさを感じられる短編集です。

 

執念が産み出した狂気-『×ゲーム』

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グロテスクな描写と病的な執念を描いたホラーサスペンスです。心霊現象や呪いとは異なる恐怖を突き詰めていて、現実にも起こりうるのではないだろうか、と背筋が寒くなります。

【あらすじ】英明が小学校の同窓会に行った日の直後、担任の先生が殺された。同窓会の時に不審な人物の姿があったという情報提供があり、事情聴取のために警察に呼ばれた英明たち。警察の話によると、殺された先生の胸には「×」と刻まれていたらしい。英明たちは当時「×ゲーム」を受けさせ続けたクラスメイト・蕪木毬子のことを思い出す。

六年生の頃、英明たちの間では『×ゲーム』が流行っていた。体育の授業でのリレーの順位や、テストの点数など、何かにつけて敗者には『×ゲーム』を与えた。段ボールで作った小さな箱の中に十枚ほどの折り畳んだ紙を入れ、負けた者は箱の中から一枚引いて、そこに書かれてある『×ゲーム』を行わなければならないのだ。

普通のくじの内容は「校庭10周」や「ものまね」程度でしたが、蕪木毬子用のくじは「水をかける」、「靴を隠す」というような陰惨な内容でした。「蕪木毬子に本気で告白をする」という屈辱的な罰を2回受けたことがある英明にとって毬子は記憶の彼方に葬り去っていた存在でしたが、胸の×印の話を聞いて思い出してしまいます
担任の事件をきっかけに英明の周りで異変が起こり始めます。同じ会社の人たちに、不審な女が「小久保英明を知っているか」と聞いて回っていたり、配達途中に置いていたバイクの向きが変わっていたり……。そして担任に続き、英明の友人が何者かに襲われたという警察からの知らせが届きます。友人たちの体にも「×」と刻まれていました。

かつていじめ続けたあの女が狙ってきている。『×ゲーム』を受け続けた仕返しをしようとしているのだ。あいつなりに『×ゲーム』の再現をしているつもりなのかもしれない。

蕪木毬子を最もいじめていたのはクラスの中心的グループだった剛司、哲也、正、英明の4人でした。襲われたのは哲也と正で、不審な女はどうやら英明のことを探している。事件の犯人は蕪木毬子なのでしょうか。

人間の狂気や執着心が描かれ精神的ホラーを求めている人におすすめしたい1冊です。

 

絶体絶命の究極のゲーム-『ブレーキ』

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2作目の短編集となる本作は、気軽に山田悠介作品を読みたい人におすすめ。スピード感があるサバイバルストーリー揃いの中から、2話目の『サッカー』を紹介します。

【あらすじ】半年に1度、全国各地から大金を求めた選手たちが集まり、あるスポーツを行う。そのスポーツで3年連続MVPに選ばれた坂本孝弘は、栄光と大金を手に入れるために4回目の出場を決めた。東軍と西軍で行うスポーツは、別名「闇のサッカー」と呼ばれる殺人ゲームだった……。

十年前、このゲームは作られた。十五対十五に分かれ、相手の首を狙って殺し合いをする。そして剣で切った首から頭を足で転がしていき、ゴールめがけて蹴る。一つ入れれば個人に二百万。一回止めた毎にキーパーには五十万。最終的にゴールの数ではなく、生き残った人数で勝敗が決まる。チームが勝てば一人三百万。MVPに選ばれれば五百万もの大金がもらえる仕組みだ。

2年前にヤクザに追われていた孝弘は、出たくもない試合に選手として参加することになります。そして人斬りとしての才能を開花させ、前回の試合では敵チームの選手だけでなく、仲間のことも殺しています。
1試合で大金を得られるため多くの参加希望者がいる闇のサッカー。孝弘と同じ東軍に選ばれた選手たちは、試合を前にして自己紹介を始めます。ギャンブル、借金、薬物依存など、それぞれが異なる事情を抱えていますが、孝弘は誰にもMVPを譲る気はありません。毎回戦っているライバル的存在・沖田が西軍メンバーとして出場することもわかり、気合いの入る孝弘。孝弘は東軍を勝利へと導き、MVPを獲得することができるのでしょうか?

1冊を通してスポーツや遊びをテーマに繰り広げられる殺人ゲームに目が離せません。命を賭けたチキンレースを描いた表題作『ブレーキ』、トランプで死体を捨てに行く役目を決める『ババ抜き』など、先が気になる作品が5話収録されています。
疾走感臨場感には目を見張るものがあり、ゾクゾクするスリルを味わえます。

おわりに

山田悠介はエンターテインメント性を重視した作品を数多く発表しています。設定の面白さに文章の読みやすさも相まって、あっという間に読み終えてしまうことでしょう。
長編から短編まで幅広く手がける山田悠介の、ホラー要素が強い初期作品の魅力もお楽しみください。

初出:P+D MAGAZINE(2019/11/03)

【著者インタビュー】朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』/ナンバーワンよりオンリーワンの美学を強いられた、平成の若者たちは……
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第9回 後編