文学的「今日は何の日?」【6/8~6/14】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
6月8日から始まる1週間を見てみましょう。

6月8日

ハリエットに恋する男ロバート・マーティンの誕生日――ジェイン・オースティン『エマ』

平凡な日常を皮肉とユーモアをもって描き、『高慢と偏見』などの傑作を残したジェイン・オースティン『エマ』の主人公エマは21歳、美人で賢い、お金持ちのお嬢様です。家庭教師が自分の引き合わせた人と結婚したことで、縁結びの才覚があると思い込んでしまいました。年下の友人ハリエットは富裕な農夫ロバートから思いを寄せられていますが、エマはハリエットに農夫はふさわしくないと決めつけます。ロバートが「この六月の八日で二十四になった」というハリエットは、自分の誕生日6月23日と15日違いと無邪気に喜びますが、エマは村の牧師エルトンに縁付けようと画策を始めて……。


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6月9日

福澤徹三『羊の国のイリヤ』で入矢悟が子会社・室松食品に出向する

勤務先食品メーカーの食材偽装の告発に関わったばかりに、家族も職も失い、悪に堕ちてゆく男を描いたノワール小説『羊の国のイリヤ』(福澤徹三作)。令和XX年6月9日、入矢悟は健美フーズのマーケティング部課長の職を解かれ、子会社・室松食品に出向の身となります。しかし、室松食品で横行するパワハラ、セクハラを目撃して義憤に駆られた入矢は、周囲と対立して孤立。その直後、身に覚えのない罪で逮捕され、すべてを失いました。上からの命令に羊のように従って生きてきた入矢の、どん底からの逆転劇――おのれの中の羊を殺して悪に染まり、社会の闇を生き抜いていく姿は痛快そのものです。


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6月10日

森絵都『永遠の出口』で紀子が、友人・好恵の誕生会に招かれる

青春小説、児童文学のジャンルで高い人気を誇る森絵都『永遠の出口』は、1人の少女の小学3年生から高校卒業までの成長の過程をオムニバス形式で描いた作品です。6月10日は主人公・岸本紀子のクラスメイト・好恵の誕生日。「あたしのお誕生会やるから、みんなで来てね」と仲良しグループ5人に声がかかりました。はりきって選んだプレゼントを手に、好恵の家を訪ねた少女たち。ですが、そこには飾り付けもなければ、ごちそうやケーキも用意されておらず、好恵の母からは冷たく追い払われてしまいました。あまりのクツジョクに激昂した紀子たちは、好恵に怒りを向けますが……。


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6月11日

トマス・ウルフ『天使よ故郷を見よ』でバッカスが「大当たりと来る」と予言した日

自伝的長編小説『天使よ故郷を見よ』により、アメリカ文学史に大きな足跡を残した作家トマス・ウルフは、フィッツジェラルドやヘミングウェイ、フォークナーらと同世代にあたります。『天使よ故郷を見よ』の主人公ユウジーン・ガントの父オリヴァは、ある日、町の広場で「わしの勘定じゃ一八八六年六月十一日に大当りと来る」という、予言めいた言葉を耳にします。声の主は、変わり者で知られるバッカス・ペントランド。その後ろ姿を見送ったオリヴァは、それから間もなく1人の女性と出会います。バッカスの姪で、のちにオリヴァの妻となるエライザ・ペントランドでした。


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6月12日

13歳になったアンネ・フランクが日記をつけ始める

1942年6月12日、オランダ・アムステルダムに住むユダヤ人の少女アンネ・フランクは、13歳の誕生日を迎えました。誕生日プレゼントのひとつとして贈られた日記帳を「キティ」と名付け、親友「キティ」への手紙という形式で日記を書き始めます。隠れ家での生活、一緒に隠れ住むファン・ペルス家のペーターとの初恋などが率直に綴られた日記は、アンネと家族が保安警察によって逮捕される直前の1944年8月1日まで書かれます。彼女の死後、父オットーによって出版されるや、大きな反響を呼び、世界的なベストセラーとなりました。2009年にはユネスコ記憶遺産に登録されています。


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6月13日

柚月裕子『ろうの血』で日岡秀一が呉原東署捜査二課に配属される

架空の街・広島県呉原市を舞台に、極道たちの仁義なき抗争と、それに挑む刑事たちを描く柚月裕子の人気シリーズ『孤狼の血』。第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞作です。昭和63年6月13日は、日岡秀一の呉原東署捜査二課への配属初日。呉原東署の捜査二課は暴力団関係と知能犯関係に分かれており、日岡は暴力団関係に配属されました。直属の上司となる大上章吾は、暴力団との癒着も噂されるいわくつきの人物で、日岡は初日から加古村組の若い者相手に喧嘩をさせられるなど、散々な目に合います。大上の狙いは、加古村組が絡むとみられる金融会社社員失踪事件の捜査の手がかりを得ることでした……。


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6月14日

短歌甲子園の県予選が行われる――村上しいこ『うたうとは小さないのちひろいあげ』

「日曜日シリーズ」「わがままおやすみシリーズ」で人気の村上しいこが、野間児童文芸賞を受賞した『うたうとは小さないのちひろいあげ』は、高校の「うた部」が舞台。中田高校1年生の白石桃子は、上級生からの誘いで部員わずか3名の「うた部」に入り、授業で習った短歌と違って枕詞まくらことば掛詞かけことばにとらわれない、自由な表現に感銘を受けます。不登校中の親友・綾美も、桃子のすすめで少しずつ短歌を詠むように。そんなある日、6月14日に短歌甲子園の県予選が開かれると知った桃子たち。出場するには5人のメンバーが必要です。はたして中田高校うた部は、無事、予選に出場できるのでしょうか?


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初出:P+D MAGAZINE(2020/06/08)

〈第2回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト」
◎編集者コラム◎ 『骨を弔う』宇佐美まこと