文学的「今日は何の日?」【12/28~1/3】

宿命の恋の始まりの日。
憧れのヒロインの誕生日。
あの名作を生む出来事が起きた日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
年の瀬せまる12月28日からの1週間を見てみましょう。

12月28日

C・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』において、タイムトラベルした学生が現代に戻る予定の日

アメリカSF界における2大文学賞ヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞した、タイムトラベルものの傑作『ドゥームズデイ・ブック』(コニー・ウィリス)。オックスフォード大学ブレイズノーズ・カレッジで中世史を学ぶキヴリン・エングルは、2054年12月22日、1320年へのタイムトラベルに旅立ちました。帰還予定の12月28日にランデヴー・ポイントに行けば、現代に戻って来ることができます。ところが彼女が旅立ってまもなく、タイムトラベルの操作を担当した技術者が「なにかおかしい」と言うなり、高熱を発して意識を失います。同じころ、中世に到着したキヴリンも高熱に侵されていました。2人の身にいったい何が? キヴリンは無事に帰還できるのでしょうか?


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12月29日

姉が基礎体温表の束を手に、M病院に行く――小川洋子『妊娠カレンダー』

妊娠した姉の体調や気分の変化に振り回される、大学生の〈わたし〉の心情を日記形式で綴ったのが、小川洋子の第104回芥川賞受賞作『妊娠カレンダー』です。12月29日、姉は近所にある産婦人科の個人病院・M病院を初めて受診しました。祖父の代からある、古い木造三階建ての病院です。「子供の頃から、赤ん坊を生むならM病院にしようって、決めてたの」という姉。やがてつわりが始まり、においに過敏になった姉は、〈わたし〉が料理をするにおいさえも拒みます。つわりが収まると、今度は突然とんでもないものを食べたがるようになり、家族を振り回します。次第にほのかな悪意にとらわれていく〈わたし〉と姉は、果たして無事に出産を迎えることができるのでしょうか?


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12月30日

山尾悠子『ラピスラズリ』において、台所係の少年が病床の老園丁を訪ねる

深夜営業の画廊に飾られた3枚組の銅版画を軸に幻想的な物語が展開する、山尾悠子の連作小説集『ラピスラズリ』。銅版画は、晩秋の森で男女の死体を投げ捨てているところ、大ぶりな人形を配した真冬の寝室、常緑樹の幾何学庭園で落ち葉を焚く老人と若者の3枚で、小説の挿絵のような印象です。作品名は店主も知りませんが、「これは冬眠者のものがたり」で、冬眠に入った主一家を召使が襲撃したのだろうと語ります。第2話「閑日」は、12月30日の朝、その冬眠者の邸宅で働く召使の少年が、病床の老園丁を訪ねるところから始まります。主が冬眠しているこの時期、召使たちは自由に振る舞っていますが、老園丁は少年に「よこしまなことは考えるな」と戒めます。そのわけとは……。


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12月31日

アンドレイ公爵がナターシャとの宿命の恋に落ちる――トルストイ『戦争と平和』

ナポレオンのロシア遠征を、ロシア側から描いたトルストイの大作『戦争と平和』。アウステルリッツの戦いに従軍した青年貴族アンドレイ公爵は重傷を負い、捕虜となります。このとき人間の営為の小ささを悟り、また妻が出産後に亡くなったこともあって虚無感に沈みます。その彼を立ち直らせたのが、溌溂として美しい、ロストフ伯爵令嬢ナターシャとの出会いでした。1809年12月31日、皇帝アレクサンドル1世臨御の下、大舞踏会が開かれ、社交界デビューを果たしたナターシャにアンドレイはワルツを申し込みます。宿命の恋に落ちる2人。アンドレイはナターシャとの結婚を決意しますが、父のボルコンスキイ公爵はこの縁組を喜ばず、結婚を1年待つよう命じるのでした。


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1月1日

『ロリータ』のヒロイン、ドロレス・ヘイズ誕生

ロシアに生まれ、おもにアメリカで活動した作家ウラジーミル・ナボコフの代表作のひとつが『ロリータ』です。ヒロインのロリータことドロレス・ヘイズは、1935年1月1日に生まれました。物語の語り手である作家ハンバート・ハンバートは、発疹チフスで死亡した初恋相手アナベルの面影を12歳のロリータに見出し、恋に落ちます。そして彼女を手に入れるために、その母シャーロットに近づき結婚、ロリータの義父となりますが……。ロリータ・コンプレックスからロリータ・ファッションまで、「魅力的な少女」の代名詞として今なお君臨し続ける彼女の物語は、86年前の今日、始まったのです。


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1月2日

マスター称号の授与式で〈私〉が最終試験に臨む――パウロ・コエーリョ『星の巡礼』

『アルケミスト』で世界的ベストセラー作家となった、ブラジルの作家パウロ・コエーリョ。作詞家として音楽業界で活躍していた彼の、作家としてのデビュー作が『星の巡礼』です。スペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼という、彼自身の経験を元に書かれています。1986年1月2日、〈私〉はRAM教団マスター称号授与式に出席していました。しかし最終試験に失敗してしまい、称号を授かることはできなかったのです。失地を回復し、称号を得るための唯一の手段は、キリストの十二使徒のひとり聖ヤコブの埋葬地へ赴く「星の道」という巡礼路をたどることでした。自己を見つめ直し、己の足で歩む、厳しい巡礼の旅が始まります。


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1月3日

映画『ブレードランナー』の原作小説、はじまりの一日

サイバーパンクSFの名作として知られる、フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、1992年1月3日の朝、リック・デッカードと妻イーランの夫婦喧嘩で幕が開きます。デッカードは脱走アンドロイドを追う賞金稼ぎ。この日も火星から脱走して地球に潜入したアンドロイド6体の捜査を命じられますが、アンドロイドたちは巧みに姿を変え、人間になりきって棲みついているために捜査は難航をきわめるのでした。1982年には『ブレードランナー』のタイトルで映画化されており、2017年には続編も作られた大ヒット作です。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/12/28)

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著者の窓 第2回 ◈ 三浦しをん 『マナーはいらない 小説の書きかた講座』