文学的「今日は何の日?」【12/21~12/27】

最古の日記文学が生まれた日。
美しきヒロインの出逢いの日。
かの大作家の人生を変えた日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
クリスマスにかかる12月21日から始まる1週間を見てみましょう。

12月21日

土佐守の任期を終えた紀貫之が京へ向けて船出――『土佐日記』

『古今和歌集』の選者を務めるなど、平安時代を代表する歌人として知られる紀貫之。延長8年から務めていた土佐守の任期を終えた貫之は、承平4年12月21日、船に乗り込み、京へ向けて出発しました。この日から京の自宅に着くまでの55日間の道中を記したのが、日本最初の日記文学とされる『土佐日記』です。当時の「日記」が漢文で書かれる公務の記録であったのに対し、貫之はこれを「女手」といわれる仮名文字を使って筆者が女性であるかのように装い、私的な日記として書いたのでした。こののちに編まれる『蜻蛉日記』『更級日記』を始めとする、王朝女流日記文学に大きな影響を与えた作品です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658013

<関連記事>
【源氏物語尊い……】『更級日記』から見えてくるオタク女子の一生。
【日記文学】浮気、入院……そんなことまで書いてたの? “作家の日記”セレクション

 

12月22日

死刑判決を受けたドストエフスキー、刑場に引き出されるも直前で恩赦に

1845年に発表した『貧しき人々』で「新しいゴーゴリ」と絶賛され、華々しいデビューを飾ったドストエフスキー。やがて空想的社会主義思想のサークルに接近し、革命的青年たちと交流を深めてゆきます。1849年4月、ドストエフスキーはこのサークルの団員らと共に政治犯として逮捕され、死刑判決を受けました。12月22日、ドストエフスキーらは刑場に引き出され、銃殺刑執行のためにまず3人が柱の前に立たされます。ドストエフスキーはその次の3人のうちの1人でした。もはやこれまでと思ったその時、皇帝ニコライ1世の恩赦により、4年の懲役刑に減じられたことが告げられました。九死に一生を得たこの体験を、彼は代表作のひとつ『白痴』に取り入れています。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4102010033/

<関連記事>
ドストエフスキーの貧困生活【作家貧乏列伝#1】
「積ん読」を解消!挫折しがちな名作文学レビュー。

 

12月23日

親友の死の真相を探る大庭明徳が下田に向かう――笹沢左保『天を突く石像』

ダム建設に絡む汚職をめぐる、笹沢左保、渾身の社会派ミステリー『天を突く石像』。建設会社の技師・青山清一郎は、同僚で大学以来の親友・大場明徳に「会わせたい人がいる」と、資源開拓公団総裁・原吉三郎の邸宅へ伴います。原の娘・理恵子を婚約者だと言う青山ですが、原父娘は青山に会ったこともないと、これを否定。しかも青山は妻子ある身なのです。青山が精神に異常を来したと考えた大場は、強引に彼を連れ帰りますが、青山はその晩遅くに原邸を再訪、居合わせた女性秘書を絞殺し、服毒自殺を遂げました。あまりにも衝撃的な親友の死に、大場は独自に調査を開始。青山の義妹からの情報を元に、12月23日、下田町の不動産会社を訪ねます。その帰りに思いもよらぬ人物に出会うのでした。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352203

<関連記事>
【常に新しい手法で読者を楽しませる】笹沢左保のオススメ作品を紹介

 

12月24日

下邳かひ城の戦いで曹操に敗れた呂布が処刑される

黄巾の乱に始まり、魏・呉・蜀の三国時代を経て、晋による天下統一に至る、およそ100年の歴史を描く大河小説『三国志演義』。登場する武将たちの中でも、恵まれた肉体と卓越した武力を備え、豪傑として人気が高いのが呂布です。建安3年、呂布は曹操との間で下邳かひ城をめぐる攻防を続けていました。一進一退の攻防も、曹操が水攻めを開始すると形勢は一気に曹操軍へと傾きます。12月24日、ついに下邳城は落城。部下の裏切りにあって生け捕りにされた呂布は、曹操に仕えようと、居合わせた劉備に口添えを頼みます。しかし自身も呂布に裏切られた過去を持つ劉備は、呂布が主君の丁原、董卓を殺害したことを指摘。これを聞いて曹操は、呂布に絞首刑を命じます。稀代の豪傑・呂布のあえない最期でした。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003201221/

<関連記事>
中国で1500年以上にわたって書かれつづけた、シュールな怪異譚集/井波律子『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』
論語をギャル語に超訳!孔子の教えをわかりやすく学ぼう。

 

12月25日

少年ネロと愛犬パトラッシュの遺体が見つかる――ウィーダ『フランダースの犬』

ベルギー・フランダース地方の農村で祖父と暮らす、貧しい少年ネロと愛犬パトラッシュの物語『フランダースの犬』。牛乳運搬の請負仕事でわずかな日銭を稼ぐネロの楽しみは、絵を描くこと。画家を目指しコンクールに絵を出品しますが、その直後から、放火の疑いをかけられ、仕事を失い、祖父を亡くし、家を追い出され……と不幸が続きます。追い打ちをかけるように、コンクールにも落選。すべてを失ったネロは、12月24日夜、一目見たいと憧れ続けたルーベンスの名画を収めるアントワープの聖母大聖堂に向かいました。翌12月25日の朝、凍死したネロとパトラッシュがその名画の前で発見されます。互いを思いあった1人と1匹の深い絆に涙が止まらない、イギリスの女性作家ウィーダの代表作です。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4001141140/

<関連記事>
かいけつゾロリ、ダレン・シャン……、あなたもきっと読んでいる、人気児童文学シリーズ
【ドクター・ドリトル公開記念】いま改めて読みたい、『ドリトル先生』シリーズの魅力

 

12月26日

池波正太郎『剣客商売』において、女武芸者・佐々木三冬が秋山小兵衛に救われる

剣術無外流の達人・秋山小兵衛を主人公に、泰平の世を剣の腕一本で渡る剣客たちを描く、池波正太郎の人気シリーズ『剣客商売』。その第1話「女武芸者」において、安永6年12月26日夕刻、道場での稽古を終えて家路についた女武芸者・佐々木三冬が暴漢に襲われます。投網で絡めとられ、殴られて気絶した三冬を救ったのは小兵衛でした。養女に出され佐々木姓を名乗っていますが、三冬は老中・田沼意次の娘。旗本子息との縁談も出ていますが、三冬が出した条件は「自分より強いこと」でした。実は彼女、井関道場の四天王と呼ばれる強者なのです。剣で三冬に勝つ見込みはないが、田沼家との婚姻を諦めたくない縁談相手が、三冬に怪我を負わせて試合に勝ち、縁談を進めようとしていると見た小兵衛は……。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101157316/

<関連記事>
小説は美味しい。とっておきの料理シーンだけ集めました。
【入門編!】時代小説に登場する魅力的なヒーローセレクション。

 

12月27日

オーストラリア海軍のホームズ少佐に辞令が出る――ネヴィル・シュート『渚にて』

第三次世界大戦後の滅びゆく世界を描き、世に衝撃を与えたネヴィル・シュートのSF小説『渚にて』。大戦で双方の陣営がコバルト爆弾を使用、放射能汚染によって北半球は壊滅しました。深海を潜行中だったアメリカ海軍の原子力潜水艦スコーピオン号は奇跡的に助かり、艦長のタワーズら乗組員は南半球のオーストラリアに身を寄せます。産油国のほとんどが壊滅した北半球にあったため、オーストラリアは燃料不足に陥っていました。放射能汚染域は徐々に南下しており、南半球の壊滅も迫っています。そんななか、1964年12月27日に同国海軍少佐ホームズは、スコーピオン号乗船の辞令を受けます。石油燃料を必要としない原子力潜水艦で、国内各地の状況を視察する任務でした。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4488616038/

<関連記事>
VR、ポスト・アポカリプス……、知るともっと楽しいSF用語辞典

 

<文学ウィークリーカレンダー記事一覧はこちら>

初出:P+D MAGAZINE(2020/12/21)

植本一子、円城塔 他『コロナ禍日記』/非常時の理性的な生活を記録したアンソロジー
貴志祐介さん『我々は、みな孤独である』