ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第110回

ハクマン第110回
最近の漫画は分業制だ。
指示出しが苦手な私は
結局1人で描いている。

漫画の絵のクオリティは上がる一方である。
そんな中で私は「味」という言葉では済まないレベルで絵が下手だと言われるし、自分でもそう思う。そして「俺はこの絵でいいんだ」とも思っていない。

むしろ「このままではダメだ」という強い意志を持ちながら十数年「このまま」で居続けたことがすごいのではないか。逆に才能を感じる。

昔読んだパンクロックの本でも「どれだけ練習しなくても長くベースをやっていれば上手くなってしまうので左手で弾くなどして下手くそを維持しろ」と書かれていた。

私も現在左手で描いていると言いたいところだが実はずっと利き手で描いている。私は漫画家よりパンクの才能があったのかもしれない。

今まで誰も私に「絵は別の人に描いてもらったらどうだ」と提案してこなかったのが不思議である。
しかし最近「絵は別の人に描いてもらう」というのもそう簡単ではないらしい。

昨今は、小説投稿サイトの人気作のコミカライズなどが盛んであり、豊富にある「原作」に対し「作画」を担当する絵師の方が不足しているらしい。

てっきり漫画家が増えて仕事の取り合いになっていると思っていたが、意外にも作画ができる人間は引く手あまたな状況のようである。

ならば、作画ができるようになれば今後食いっぱぐれないかというと、数年後「AIがやるっす」と言い出しかねない仕事でもあるので油断がならない。
早く数年後食いっぱぐれる俺たちのために「AIの汗を拭く仕事」を作るべきだ。

ちなみに「絵が描ける」のと「漫画の作画ができる」のは全然別だそうだ。
漫画には「コマ割り」という作業があり、絵は描けてもコマが割れないから漫画は描けないという人は結構いるらしい。

よって最近は「原作」と「作画」の間に「コマを割った状態のネーム」を描く人が入ることもあるらしい。

私は、原作から作画まで全部1人でやっているので、コマ割りができているかというと、正直あまりできていない。

デビュー当時から「全ページ均等に6コマに割る」という美しい腹筋方式だったため「縦に読むのか横に読むのかわかんねえよボケナス」とよく言われていた。

その苦言を受け、現在では「横に3つに割る」ことが増えて来た。
これで読む方向に迷うことはなくなったが、逆に「コマを割る力が半分に低下した」とも言える。
時には「1ページを真横に両断して2コマ」にすることもある。「竹を割ったかのような潔いコマ」と言いたいところだが、どうやら「竹を割ったような性格」の竹は「縦割り」を指すらしい。
よって、もし私がページを真横に両断していたら「竹を横割りしたかのような陰湿で喉に絡みつくようなコマ割り」とでも思って欲しい。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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