◎編集者コラム◎ 『対極』鬼田竜次

◎編集者コラム◎

『対極』鬼田竜次


『対極』写真

 横浜は昼夜問わず人通りが多い。コロナ禍でもそうでした。

 著者の鬼田さんは、横浜在住です。打ち合わせは、そのあたりで行うことが多かったのですが、さすがは地元の方。横浜だけどあまり賑わっていない(?)、静かなファミレスを教えてくれました。

 作品と同じく著者のまなざしは真剣です。こちらがいい加減な意見を言おうものなら、SATばりの制圧をくらってしまうような、そんな迫力があります。実際はとても優しく、穏やかな方なのですが(これから鬼田さんと仕事をしようという他社の編集者さん、安心してください)。

 なぜそんな話をしたのか。実は、本書の登場人物――成り上がりの悪童・中田と、正義を貫くエリート・谷垣という二人を、私は著者の内側に見ていたからです。著者に、そうした二面性があるというわけではありません。誰しもがもっている人間の振れ幅といった程度の意味合いです。つまりは、中田と谷垣も、本作のための創作物とは思えないリアリティがありました。なにより血が通っていました。

 そろそろ本題に入ります。本書の解説は、鬼田さんを第二回警察小説大賞に選んだ選考員でもある作家・長岡弘樹さんに依頼しました。そして、お送り頂いた原稿には心底驚きました。長岡さんが作中の中田に対して行う〝架空〟インタビューだったからです。驚いたのは奇抜な体裁というよりも、その中身です。冒頭を紹介しましょう。

――すみません。長岡と申します。このたび『対極』が文庫化されるにあたり、解説の大役をおおせつかった者です。その原稿を書くためにインタビューをさせてほしいのですが、よろしいでしょうか。

中田 かったりいな。でもまあ、そういう事情なら少しだけつき合ってやるか。で、何が聞きたいわけ?

 上記だけなら、作家ならではの〝遊び心〟と言えそうなものですが、インタビューはだんだんと核心をつき、中田と谷垣の「相補性の原理」――つまり人間は自分に欠けているものを持っている相手に強く惹かれる、という理論を指摘するに至ります。

 ネタバレになるので、あとは実際に本書を手にして確かめてください。中田と谷垣の関係性に、憎しみ合いではなく、愛を読み取る心理学的な指摘に、大いに頷かされました。それは私の抱いていた、著者の内側に二人のキャラクターが住んでいるという思いとも合致します。

 本作には、この春に続編が控えています。事件後、中田が辺鄙な離島に左遷されるところから物語が始まります。当然、谷垣も登場します。〝愛し合い〟の果てに何が待ち受けているのか。タイトルは『煉獄島』です。さらなるパワーアップを果たした二人、いや著者に、ぜひ注目ください。

──担当かしわばらより

対極
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