ニクラス・ナット・オ・ダーグ 著、ヘレンハルメ美穂 訳『1793』
王宮坂の警視庁跡地から
さて、今度はストックホルムを離れて、『1793』の第2部に登場するクリストフェル・ブリックス君の故郷、カールスクローナを少しご紹介したいと思います。じつは10年ぐらい前に短期間ですが住んでいたことがあるので、写真がたくさんあるだろうと思っていたのですが、探してみたらそんなになかった……住むと写真って撮らないものですね……
訳者あとがきにも少し書いたのですが、カールスクローナは17世紀半ばにデンマーク領からスウェーデン領となり、海軍基地・軍港として建設された町です。当時の建築物がいまもたくさん残っており、世界遺産に指定されています。
写真では少しわかりにくいのですが、この教会、とにかく巨大で、その前の広場もだだっ広いのです。北欧一の面積を誇る広場だと聞いたこともあり、それは事実ではないようですが、事実だとしても驚かない広さでした。海軍の拠点として、大都市になることを見越して建設された町であることがよくわかります。『1793』のブリックス君は、カールスクローナがどうしようもない田舎町のような言い方をしていますが(彼の中ではそういう認識だったのでしょう)、実際には当時、スウェーデン第三の規模の人口を抱えた都市でした。といっても1万人ほどですが(ストックホルムは7万5000人ほどだったようです)。スウェーデンがバルト海を制していた時代、ロシアと覇権を争っていた時代が終わると(当時はフィンランドもスウェーデン領でしたが、1809年にロシア領になりました)、カールスクローナの重要性も薄れていき、現在は人口ベースで全国35位の小都市となっています。
最後に、ストックホルムの「橋のあいだの街」に戻り、警視庁のあった王宮坂へ行ってみましょう。
王宮坂は、王宮の南側に延びる坂道で、上の写真の右手(修復中のビニールがかかっているほう)が王宮、左手が、当時の警視庁、インデベトゥー館のあった場所です。館そのものは1910年に解体されたため現存せず、べつの建物が建っています。
インデベトゥー館(跡地)の並び、少し海に向かって下りたところに、テッシン邸館があります。警視庁は1776年に設立されると、まずここを拠点としましたが、『1793』にも記されているとおり、1792年にインデベトゥー館に移転しました。
黄昏時、インデベトゥー館跡地の前から、坂の下にある船着場(シェップスブロン)を見下ろしたところです。私は上の写真を撮ったとき、『1793』のラストシーンを思い出していました。みなさんはどうでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございます! 『1793』をまだお読みでない方は、ぜひ手に取っていただき、18世紀のストックホルムに浸ってみてほしいと思います。
文・写真/ヘレンハルメ美穂