ニクラス・ナット・オ・ダーグ 著、ヘレンハルメ美穂 訳『1793』


『1793』に描かれた風景の現在

 ここで、「橋のあいだの街」をしばらく離れて、べつの地区を歩いてみましょう。

 魚倉湖で見つかった死体が運ばれ、カルデルとヴィンゲがはじめて出会うことになる、マリア教会(正式には聖マリア・マグダレーナ教会)。

聖マリア・マグダレーナ教会

 スウェーデン初の近代的な病院である、1752年設立の熾天使(セラフィム)病院は、当時の形で現存はしていませんが、同じ場所にいまもさまざまな医療施設があります。

王立病院

 この熾天使病院ですが、場所はどこかというと、上の写真の入り口を見上げ、ふと後ろを振り返ると、この下の写真の風景が目に入る位置です。ストックホルム市庁舎は有数の観光スポットで街のランドマーク的存在。つまり、ストックホルム観光にいらっしゃる方の大半はおそらく、このすぐそばを通っているということになります。

ストックホルム市庁舎

『1793』のもうひとつの重要な舞台は、南郊島(セーデルマルム)の西側にある「長島(ロングホルメン)」と、そこにあった紡績所、事実上の女子刑務所です。

 紡績所はその後、通常の刑務所となり、1975年に閉鎖。現在はホテルやユースホステルとして使われています。

長島に渡る橋と紡績所

 このホテルの中には紡績所や刑務所の歴史を説明した博物館もあり、とても参考になりました。

ホテル内部

 ついでにほかの博物館情報もいくつか。もしストックホルムを訪れる機会があったら、ぜひご覧になってみてください。

 ミッケル・カルデルが従軍経験について語る場面でちらっと登場する、グスタフ3世の船〈アンフィオン〉は、その後解体され、一部がいまもストックホルムの海洋歴史博物館(Sjöhistoriska museet)に展示されています。この博物館にはほかにも、当時の軍船の模型、カルデルが戦ったフーグランド島の海戦の絵、18世紀のストックホルムのようすを描いた絵画など、『1793』の世界を思わせてくれるものがたくさんあります。

 そのすぐ近くにある警察博物館(Polismuseet)は、その名のとおりスウェーデンの警察についての博物館で、18世紀末当時の巡警隊が使っていた刺又や、グスタフ3世のデスマスク、その遺体の解剖報告書などが展示されています。もちろん現代の警察についても、いろいろ興味深い資料があります。鑑識捜査の方法などが詳しく説明されていて、思わず読みこんでしまいました……

 陸軍博物館(Armémuseum)にも当時の資料がたくさんありました。『1793』には「砲兵隊内庭(アッティレリーゴーデン)」として出てくる場所です。軍事関係の資料はもちろんのこと、当時の刑罰のひとつだった「背のとがった木馬」も展示されていました。またがって座るとすさまじく痛そうなのがよくわかります……

ヘレンハルメ美穂(Miho Hellén-Halme)

国際基督教大学卒、パリ第三大学修士課程修了、スウェーデン語翻訳家。S・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』、M・ヨート&H・ローセンフェルト『犯罪心理捜査官セバスチャン』、A・ルースルンド&S・トゥンベリ『熊と踊れ』など、訳書多数。

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◎編集者コラム◎ 『死ぬがよく候〈一〉 月』坂岡 真