【官能小説】ぼくの考えた最強のベッドシーンを添削してください【前編】

オオウエくん(22)の考えた「さいきょうのベッドシーン」

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オオウエ:テーマは「お酒の勢い」です。今年から社会人になったので、オトナなシチュエーションを考えました。

酔った。

浴びるほど酒を飲んだ。僕はとても酔っている。

酒の飲み方を知らない22歳は千鳥足で3件目に向かっている。

友人と席に着いた。時刻は深夜の1時を回っている。

朝までこの店で過ごすのだ。

「ちょっとトイレ行ってくる」

そう言って、席を立った。

トイレに向かう途中、綺麗な女性が横目に入った。

紺のノースリーブブラウスを着たショートヘアの女性だ。

「あの子と話してみたいな~」

そんなことを思いながらトイレで時を過ごしていた。

トイレを出ようとすると、その綺麗な女性が目の前にいた。

彼女も相当酔っているようで、視線の焦点が合わずにいる。

いきなり彼女が声をかけてきた。

「ねえねえ、酔ってるの?」

回答に戸惑っている僕を気にも留めず、彼女はトイレに向かった。

僕の方を振り向いた彼女の顔が綺麗すぎて僕は彼女に近づいた。

彼女は待っていたかのように僕を見ている。

そしてそのまま二人は女子トイレの個室へと入った。

酔っていることもあり、二人はなんの恥じらいもなく触れ合った。

この空間は二人だけのものではないので、擦れる音や声を押し殺しながら事が進んでいく。

そのスリルが快感へと変わり、どんどんのめり込んでいく。

深夜が朝へと変わる頃、二人はトイレから出て、それぞれのテーブルに戻ったのだった。

 

松村先生:改行の用い方など、いかにも20代が書いたベッドシーンという感じですね。これはこれでアリな書き方です。

 

オオウエ:お? じゃあ、トレンドを押さえているってことですね。

 

松村先生:いや、申し訳ないですが、これが持ち込み原稿だったら1ページ読んで捨てるレベルです。

 

オオウエ:いきなりの全否定、きついっす。

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松村先生:マズいところは色々とあるのですが、まず第一に、「快感」がどこにも描かれていない。これが大問題です。男の快感も、女の快感も描かれていないので、追体験のしようがないんですね。

あと、細かいところで言うとね。最後のこの箇所。

この空間は二人だけのものではないので、擦れる音や声を押し殺しながら事が進んでいく。

そのスリルが快感へと変わり、どんどんのめり込んでいく。

深夜が朝へと変わる頃、二人はトイレから出て、それぞれのテーブルに戻ったのだった。

 

ここね、「深夜が朝へと変わる頃」って言うけど、どんだけやってんだよ!

 

オオウエ:犬:太田:(爆笑)

 

松村先生:しかも、肝心の「何をやっていたか」もわからないものだから、ベッドシーンの体裁をなしていないですね。「トイレにこもって」というせっかくのシチュエーションを生かせていない。ちなみにオオウエさんは、2人でトイレに隠れた後、どんなことをしたいと妄想しましたか?

 

オオウエ:それは当然、最後まで。

 

松村先生:ならば、その「最後まで」に至るまでのプロセスであったり、密室の中での体の置き方だったり、他にも「着衣の程度は? 」「トイレは洋式? 和式?」など、細かいところを積み重ねていないと。

 

オオウエ:そこらへんが書き込めないあたり、僕の経験が追いついていないのかもしれませんね……。

 

松村先生:確かに経験ゼロで濡れ場を書くことは困難ですが、セックスの経験が豊富だからって書き手として一人前だとは限りませんよ。大切なのは実体験を書くことではなく、その先のファンタジーを書くことですから。

それに、男側がオラオラしている必要だってありません。草食系男子を登場させて、「ずっと彼女の背中を撫でていた」でもいいんですよ。追体験可能な触覚要素をそこに書き込んで、お姉さんの体のラインをなぞる指の感覚だったり、不意に漏れる吐息だったりが書かれていれば、それは立派な官能の場面です。

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犬:官能小説って、ガツガツした男女の話だとばかり思っていました。主人公がセックスに奥手でもいいんですね。

 

松村先生:過去にはセックスが下手なヒロインの成長を描いた作品が女子ウケした、なんてこともあります。その小説の面白いところが、不器用な主人公のライバルに、色仕掛けが得意な肉食系女子を登場させているんです。本来であれば、このライバル役のような「男にセックスで奉仕する女性」がヒロインを務めるのが官能小説の王道なのですが、不思議と主人公の男はウブなヒロインの方にほだされていくんですね。脱がせたら、ボロボロ泣いちゃうような子なのに!

 

太田:奥が深いな〜。

 

松村先生:というわけで、オオウエさんの原稿に対する僕の評価は、こんな感じですかね。

設定 :★★★☆☆

表現力:☆☆☆☆☆

興奮度:★☆☆☆☆

オオウエ:表現力0点って!

 

犬:いや、それはしょうがないだろ。

 

松村先生:「表現力」というか、もはや「国語力」のレベルですね。「3件目」は「3軒目」だし、「横目に入った」とは言わない。「目に入った」が正解ですね。それから……。

 

オオウエ:中学校からやり直します!

 

松村先生:「トイレ」という設定は、官能小説好みのシチュエーションなのでアリですが、先ほども言った通り、ディテールが伝わってこないので興奮度は1点です。もっと妄想を膨らませる余地があったと思いますね。ちなみに、このお姉さんはどんな色のパンティーを穿いている想定でしたか?

 

オオウエ:色は考えてなかったな〜……。、ですかね。

 

松村先生:パンティーの色として黒や紺を選ぶのはうまいですよ! その下の形というか……スジ的なものが浮かびますからね。

 

犬:伸びしろですね!

 

松村先生の辛口採点はまだまだ続く!「お尻」と「初恋」をテーマにしたベッドシーンを、先生が本気で添削する「官能小説家になろう!【後編】」もあわせてお楽しみください。
▶️官能小説家になろう!ぼくのかんがえたさいきょうのベッドシーンを添削してください【後編】を読む

初出:P+D MAGAZINE(2016/10/19)

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