あなたはどのタイプ?『源氏物語』に登場する魅惑の女性キャラからモテるための秘訣を学ぶ【文学恋愛講座#5】

今から1,000年以上も前に書かれた長編小説、『源氏物語』。光源氏の心を射止めた女性キャラクターのうち、あなたは誰にあてはまるのでしょうか。診断チャートでチェックしてみましょう!

いづれの御時にか、女御・更衣 あまた さぶらひ たまひける中に、いとやむごとなき 際にはあらぬが、すぐれてときめき たまふありけり。

高校生の頃、古典の授業で、この作品を読んだことがある方も多いはず。言うまでもなく、平安時代中期、紫式部によって書かれた長編小説『源氏物語』の書き出しです。

絶世の美男子で身分が高く、教養にもあふれている主人公、光源氏の栄華を描いた『源氏物語』は日本文学の史上最高傑作であり、世界最古の長編小説(諸説あり)です。『源氏物語』は全54巻から成り、その内容は光源氏が誕生してから栄華を極めるまでを第1部、光源氏の晩年を描いた第2部、光源氏没後の子孫たちを主役にした第3部の3つに分かれています。海外でも「The Tale Of Genji」として英訳され、その高い完成度に「1,000年前に書かれた作品とは思えない!」と驚く人も少なくありません。

そして『源氏物語』には今も欠落している箇所もあり、研究者の間で議論が絶えず行われています。1,000年以上が経ってもなお、『源氏物語』は読者を惹きつけてやまない作品なのです。

そんな『源氏物語』の魅力のひとつは、なんといっても登場する女性キャラクターたちにあります。光源氏はその恵まれたルックスや美貌、立ち振る舞いからあらゆる人を夢中にさせてしまう、罪深き超モテ男です。彼と関係を持った女性は少女から老婆、貴族から庶民までさまざま。あまりに多くの女性が登場する展開や、ひたすらやりまくる話であることに、「こいつ、女のストライクゾーン広すぎるだろ」と衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。

今回、P+D MAGAZINE編集部は稀代のプレイボーイ、光源氏を虜にした魅惑の女性6人をピックアップ。性格をもとにしたチャート式診断を作成し、彼女たちがいかに光源氏を魅了したのかを分析しました。あなたはどんな女性キャラクターのタイプになるのか、ぜひ、チェックしてください。

 
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【答え方】左上のSTARTより、質問に対する答えをYES、NOのいずれかから選び、A〜Fのうちどのタイプとなるのかチェックしてください。

 
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Aのあなたはどんなタイプ?

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Bのあなたはどんなタイプ?

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Cのあなたはどんなタイプ?

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Dのあなたはどんなタイプ?

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Eのあなたはどんなタイプ?

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Fのあなたはどんなタイプ?

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A.作中では勝ち組?欲張らない性格で光源氏からの信頼を獲得した花散里はなちるさと

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美しい女性たちが次々と登場する『源氏物語』ですが、光源氏の妻のひとり、“花散里”は飛び抜けて美しいわけではありませんでした。それは光源氏の息子、夕霧による花散里の第一印象からも十分すぎるほどにうかがえます。

「容貌のまほならずもおはしけるかな。かかる人をも、人は思ひ捨てたまはざりけり」
(中略)
「向ひて見るかひなからむもいとほしげなり」

【現代語訳】
「器量はさして優れてもいないな。こんな方でも、父はよく見捨てないものだ」
(中略)
「向かい合ってお顔を見るのも気の毒になる」

父譲りの面食いだった夕霧は、花散里を厳しく評価しています。「それでもこんな心の優しい女性と夫婦になれたら幸せだろうな」とあらためるほど、花散里は人柄が愛される女性でした。現に光源氏が花散里に「息子の母親代わりになってくれ」と依頼しているのは、それだけ花散里のことを信頼しているからこそ。そして花散里は平安時代の貴族女性にしては珍しく、裁縫や染物といった手仕事に堪能で、早々に終わった光源氏との男女の関係にも執着することがない女性でした。

そもそも、浮気性である光源氏は花散里になんとなく声をかけた後、すっかり忘れたまま遊び歩くような男です。普通ならば恨みごとのひとつやふたつをぶつけそうなものですが、花散里はただ光源氏のことを待っていました。それはどこかで「いつかは戻ってくるだろう」という寛容な気持ちを持っていたからなのでしょう。

花散里は後に夕霧の子のひとりを孫として引き取り、育て上げます。他の女性たちが光源氏に愛されようと波乱万丈な一生を送った一方で、花散里は愛する光源氏の血を引く子どもとともに穏やかな晩年を送ったとされています。

花散里が愛された理由は、なんといっても「自然体であったこと」に他なりません。花散里は光源氏の理想に近づこうとするのではなく、あくまでも素の自分でいました。だからこそ、政権争いや他の女性からの冷たい態度で疲れ切った光源氏にとって、花散里は癒しを与えてくれる存在となったのです。

そんな花散里のように、あなたも好きな人が安心できる存在になってみてはいかがでしょうか。そのためには、「こうならないとダメだ」といったように気負わず、多少の浮気には目をつむり、「私のところへきっと帰ってくるはず」と、男性がほっとする優しさを見せることが求められています。

 

B.年下だけど、しっかり者。適応力も高い紫の上の良妻ぶり。

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「将来、あの子はきっと美人になるに違いない」

療養のため出かけていた光源氏はふと垣間見た少女にそんな思いを抱きますが、実際にその少女は光源氏の想い人、藤壺の姪であることが判明。光源氏は少女の育ての親であった祖母が亡くなったことを知るや否や、半ば誘拐にも近い形で自分の元に連れてきます。そうして教養や立ち振る舞いを身につけさせ、後に正妻となる女性、それが“紫の上”です。

光源氏が紫の上を初めて目にしたとき、紫の上は「籠の中にスズメの子を捕まえていたのに、従者の子が逃がしてしまった」と涙ぐんでいました。そんな紫の上は、ある日突然、光源氏に連れ去られて「今日からここで暮らすのですよ」と言われることとなります。紫の上は祖母を恋しがるものの、光源氏とお人形遊びをしたり、和歌や琴を教わるうちにすっかり打ち解けます。

やがて光源氏は自身が起こした不祥事から須磨へ左遷されますが、紫の上は光源氏が不在の間も留守をしっかりと守ります。それにも関わらず、光源氏は左遷された先で明石の君と関係を持ち、子どもを授かります。

夫の留守を守っていたのに、肝心の本人は自分のあずかり知らぬところで別の女性と結ばれ、子どもまで生まれていた……光源氏との間に子どもがいなかった紫の上にとっては、嫉妬するような出来事ばかりです。光源氏は自分好みの「素直で可愛らしい女性」に紫の上を育てたため、紫の上は激怒とまではいかずとも、拗ねた態度を見せます。そんな紫の上に光源氏は「そこもまた可愛らしい」と夢中になってしまうのです。

しかし、紫の上は憎き恋敵ともいえる明石の君の子、明石の姫君を引き取り、皇后にまで育て上げます。これは身分が高くない明石の君よりも、身分の高い紫の上の元で育てられたほうが皇后になる立場上、良いだろうという光源氏の考えによるもの。結果的に皇后となるまで立派に育ててくれた紫の上に対し、明石の君は感謝の手紙を送っています。

光源氏と年は離れていますが、どんな相手にも気遣いができて分け隔てなく親切に接する紫の上。そんなしっかりとした性格とともに、程良い嫉妬心を見せる可愛らしさが紫の上の魅力です。彼の相談に乗ったり、助けたりしながらも「でも、他の人に目移りしないでね」と適度に釘を差すのはあなたにしかできないことなのでしょう。

 

C.姉、母のような存在だけど、押しに弱い。それでも自制心を忘れなかった藤壺。

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光源氏の最愛の母、桐壺の更衣きりつぼのこういにそっくりの美貌を持つ“藤壺”。そんな藤壺は桐壺帝(光源氏にとっての義父)の妻となります。

光源氏よりも5つほど歳上だった藤壺は、母よりも姉のような距離感。亡き母の面影を残すこともあり、いつしか光源氏は憧れから異性としての好意を抱くのでした。

その結果、気持ちを抑えられなかった光源氏は藤壺に迫り、ふたりの間には子どもが生まれます。表向きは義理の親子であるふたりが関係を持ったと知られれば、お互いにどうなるかわからない。やがて光源氏にそっくりな美しい男の子が生まれますが、我が子と光源氏を守るべく、藤壺は後に出家します。

当時、出家は「生きながらにして死す」という考えがあるほど、俗世間とのつながりを捨てる行動でした。

光源氏は桐壺帝が亡くなった後も、「もう邪魔する者はいない」と言わんばかりに、虎視眈々と藤壺へ求愛を続けます。ふたりの関係が立場上、許されないことも光源氏からしてみれば、逆に燃える要素となっていました。

関係を持っていることが明らかになれば、自分たちどころか我が子の身も危ないと考えた藤壺は、自分が尼の身となることで守ろうとしたのです。

理想の女性として慕われていた相手からの押しに弱いが、そのまま関係を続けることなく別れを告げた藤壺。藤壺タイプのあなたには、つい相手からの猛アタックに押し負けて付き合うことになったとしても、「これは良くない」と思えば迷わずに関係を断ち切る強さがあります。

 

D.男性からの人気が高い夕顔。その理由は、小悪魔な性格にあり?

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乳母の見舞いに寄った帰り、町中で垣根に咲く夕顔に目を留めた光源氏。それに気づいた家の主人から、光源氏はこのような歌を送られます。

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

【現代語訳】
あなたはもしかして、噂に聞くあの方なのでしょうか。白露のような光を添えている夕顔のような美しさをお持ちなので、ついそう思ってしまいましたわ。

街角にもこんな歌を詠める教養を持った女性がいる。その事実に興味を持った光源氏は歌で返事をします。

寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔

【現代語訳】
でしたら、近くに寄って確かめてみてはいかがでしょうか。黄昏時にぼんやりと見た美しい花を。

光源氏はこれをきっかけに“夕顔”と呼ばれる女性のもとに通い始めますが、お互いに素性を隠したまま、逢瀬を繰り返します。儚げでミステリアスな雰囲気を持つ相手に、光源氏はたちまちのめり込むようになるのでした。

しかし、そんな幸せも長くは続きません。光源氏が無人の屋敷に夕顔を連れ込んだ深夜、夕顔は突如として現れた女の霊に取り憑かれ、明け方に帰らぬ人となってしまいます。この女の霊の正体は、光源氏の別の愛人、六条御息所ろくじょうのみやすどころ「別の女と過ごすなんて許せない」という、六条御息所の嫉妬心が原因でした。

夕顔は、光源氏の良き友人で政敵でもある頭中将とうのちゅうじょうのかつての愛人でもありました。あちこちにいる女性にうつつを抜かす頭中将に不満を漏らすことなく、甲斐甲斐しく尽くす夕顔。そんな彼女を頭中将は「常夏の女」(ナデシコの古名)と呼んで想い続けていました。

ふたりの男性の心を奪った夕顔ですが、実はかなりのやり手であることがうかがえます。夕顔は頭中将との間に子どもを授かりますが、正妻からのいじめを苦に、子どもとともに姿を消します。

一見「自ら身を引くような奥ゆかしい女性」にも思えますが、夕顔は町へと逃げ出します。さらに、逃げ出した先で目ざとく光源氏を見つけ、自ら歌を送って誘うのです。藤壺のように出家する道もあったとはいえ、まだまだ誰かと恋愛をしたかったのでしょう。

夕顔は関係が始まった後、相手にリードを任せ、自分は身を預けるだけ……そのギャップに数々の女遍歴を持つ光源氏が陥落するのも無理はありません。夕顔は恋の駆け引きにおいては見事すぎるほどでした。

そんな夕顔と同じく、自然と相手を惚れさせてしまうような小悪魔的な魅力を持ったあなたは、普段と違うギャップを見せれば相手はひとたまりもないはずです。

 

E.元祖ツンデレ。好きな人には素直になれない葵の上を襲った悲劇。

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光源氏の最初の正妻、“葵の上”。本来ならば葵の上は皇后となるはずでしたが、政略結婚により光源氏の妻となります。

一方で12歳を迎え、成人になったことを示す儀式、元服を済ましたばかりの光源氏は藤壺に夢中。4歳も下で他の女のことを想う夫に当然ながら良い印象は抱かず、ふたりの夫婦生活は順調にいくことはありませんでした。

あまりうるはしき御ありさまの、とけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへるを、さうざうしくて、中納言の君、中務なかつかさなどやうのおしなべたらぬ若人わこうどどもに、戯れ言などのたまひつつ、暑さに乱れたまへる御ありさまを、見るかひありと思ひきこえたり。

【現代語訳】
葵の上はきちんとして、一向に打ち解ける様子もなく、見ているこちらが気詰まりになるくらいすましていらっしゃる。光源氏は仕方なく、中納言や中務(※)といった気の利いた女房たちと軽く着崩したまま、冗談を言い合っていらっしゃる。

貴族の家柄であり、美しく教養もある葵の上のプライドは高く、光源氏に対してもよそよそしい態度を取ります。そんな葵の上を「可愛げがない」と見た光源氏は藤壺を想ったり、夕顔のもとに通ったりとやりたい放題。

「どうして他の女のところに行くの?」と不満を爆発させたり、「もうやめて!」と泣きすがることをすれば、光源氏も多少は態度をあらためるかもしれません。しかし、それらは葵の上にとっては屈辱的なもの。

そんなふたりは、葵の上が光源氏との間に子どもを授かったことをきっかけに少しずつ変化します。光源氏はつわりに苦しむ葵の上に愛おしさを感じ、初めての妊娠に不安を隠せない葵の上は初めて夫を心の支えとします。結婚をして10年目にして、ようやくふたりの関係性は回復することとなるのでした。これはまさに、葵の上が「特定の相手に対して敵対する態度(ツン)を見せたかと思えば、好意的な態度(デレ)をとる」ツンデレであるといえるでしょう。

やがて葵の上は六条御息所の生霊に苦しめられますが、なんとか息子の夕霧を出産。そのまま容態が急変し、葵の上は亡くなってしまいます。夫婦関係が良好になった矢先であっただけに、光源氏の悲しみは深いものでした。

葵の上はその性格から光源氏の前でなかなか素直になれませんでした。頑なな気持ちを捨て、ようやく自分の感情を表せるようになった頃には時すでに遅し。少しでも早く正直になっていれば、光源氏との深い愛が芽生えていたかもしれません。

男性に限らず、人はありのままに感情を表現する人に弱いもの。葵の上のように高いプライドをお持ちかもしれないあなたも、一度それら全てを取っ払って素直になってみれば、相手との関係も大きく変わるかもしれません。

※葵の上に使えていた女房のこと

 

F.インテリ美女だけど、嫉妬深い。六条御息所が引き起こしたまさかの展開。

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光源氏よりも7つほど歳上の未亡人だった、“六条御息所”。教養にあふれる彼女の周囲には同じく知的な人々が集まり、文化的なサロンが形成されていました。当時、達筆であることは美人のステータスでもありましたが、六条御息所は特に字が上手い人物でもありました。加えて光源氏は「話をするのなら、六条御息所が1番楽しい」と評しています。

六条御息所はやがて光源氏を独占したいと考えますが、それを察知した光源氏の足は少しずつ遠のいていきます。

また、この頃、六条御息所は葵の上との間でトラブルが起こります。葵祭に牛車でやってきた六条御息所は、後から来た葵の上が乗った牛車と鉢合わせします。場所取りに関して喧嘩となりますが、正妻である葵の上を前に、愛人の六条御息所が負けることは誰が見ても明らか。牛車を押し返されるという屈辱的な仕打ちを受けてしまいます。

これを発端に、六条御息所は生霊となり、妊娠中の葵の上や夕顔に取り憑いて殺してしまいます。六条御息所は無自覚ではありましたが、自分の髪や衣服から悪霊を祓うために使われる芥子けしの香りがすることに気づき、生霊となって彼女たちを殺めてしまったことに震えるのでした。

六条御息所は確かに嫉妬心が強い女性ではありますが、光源氏が愛した相手を呪い殺してしまった事実に深く悩んでしまう一面を持っています。それを招いたのは、他ならぬ彼女自身の持つ高いプライドです。葵の上から屈辱的な目に遭わされたことはもちろん、自分より身分も教養も低い夕顔に光源氏を取られたことも六条御息所のプライドを深く傷つけます。

また、六条御息所は年下である光源氏の前で気丈に振舞ってしまい、嫉妬する気持ちを言葉にすることができません。そんな気持ちを押し殺すうち、彼女の中で溜め込んだ嫉妬心が爆発し、生霊となってしまったのです。

そんな六条御息所タイプのあなたは、「呆れられるかも」、「そんなことをしたら困らせてしまうかも」と諦めて鬱憤を溜め込んでしまうのではなく、素直な気持ちを表現することが最適なのでしょう。

 

プレイボーイ、光源氏が愛した女性たち。

光源氏は自然と、女性から好意を集めてしまう男性です。才色兼備で非の打ち所がない人柄を持つ完璧な人物と結ばれた女性たちは、それぞれの方法で彼の心を射止めていました。

性格も身分も異なりますが、彼女たちに共通していたのは「自分らしくあり続けた」こと。私たちは「モテる方法」と検索すれば、恋愛の達人からのアドバイスを得られますが、彼女たちは「自分」を貫き通しています。自分と最も近いタイプのキャラクターをもとに、あの光源氏をも落としたテクニックを学んでみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2017/09/06)

翻訳者は語る  高取芳彦さん
多和田葉子『百年の散歩』が彩り豊かに描く幻想的な町の景色