ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第104回

ハクマン第104回
成功者ほど
「同じことを続ける力」が
強いといえる。

そもそも毎日同じというのは、それだけ「平和」とも言える。
どれだけサクセスしていても「タイプが違う女の子が毎日空から降ってくる」など、日替わりで楽しいことが起きるということはあまりないはずだ。

一方で「毎日目新しい嫌なことが起きる」という状況は割と作りやすい気がする。
ちょっと金を借りすぎるだけで「昨日はアイフノレ、今日はプ口ミス」など日替わりコールを楽しむことができるし、相手も最初は優しい女性だったが、だんだんドスが効き気味の男性にチェンジするなど変化に富んでくる。
そのうち「裁判所へ出頭」や「強制的な引っ越し」など、どんどん己の想定していないことが毎日起こるようになるだろう。

つまり「変化に富んだ毎日」というのは「自分で自分の人生をコントロールできていない」状態と言える。
会社が決めた定時に出社し、会社が与える仕事をこなし、決められた時間まで帰れないという毎日に嫌気が差す人も多いとは思うが、逆にある程度会社が自分をコントロールしてくれているおかげで大きく道を踏み外さなくて済んでいる、とも言える。

漫画家含むフリーランスというのは、大半のことを自分でコントロールしなければいけない割に「連載の決定と終了」という最も大事な部分がアンコントロール、という職業である。
キンタマと棒を奪われ「あとは好きに使って良いよ」と残りの体を与えられても「俺は自由でなんだってできる!」とショーシャンク状態にはなれないだろう。

「代わり映えのない毎日で特筆すべきことがない」もフリーランスと会社員では意味が大きく異なり、会社員は「毎日会社と家の往復」という意味かもしれないが、フリーランスは「今日も仕事がなかった」という意味だったりもする。

つまり会社員の方が感じる「不自由」や「退屈」は「安定」と「平和」と同義であり、自由と引き換えにそれらを失う可能性も高いので、手放す時は慎重になった方が良い。

しかし、フリーランスも漫画の連載のように、どこからか定期的に仕事を貰っている時は、フレディがブチ切れた会社員的代わり映えのない毎日になってしまいがちではある。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.87 未来屋書店石巻店 恵比志奈緒さん
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