ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第107回

ハクマン第107回
いつもより担当からの
催促が早い気がする。
おそらくGWの都合だろう。

しかし、大幅値上げといっても元がいくらでどのぐらい上がったかは不明である。
作家同士でも原稿料の具体的な金額を言うことはあまりない。原稿料というのは作家によって違うため不用意に言うと「同期のお前が俺より1000円高いの?」みたいな空気になる恐れがあるため、基本的に言わないのが暗黙のルールになっている。

しかし、金額を開示しないことにより、漫画やイラストに対する「相場」というものがはっきりせず、新人が「1ページ300円」と言われても「そんなものなのか」と思って搾取されたり、相場がわからない企業から悪気なく法外に安い金額を提示され、どう断るかにコストがかかってしまうなどの弊害も起こっている。

私は幸い異常に安い原稿料や「宣伝になるのでタダで」という仕事を持ってこられたことはあまりない。

しかしないわけではなく、1回だけ「原稿料が安い」という理由で仕事を断ったことがある、それが「ユソ丁カ」だ。
普通、あそこの原稿料が安いだの高いだのの話は公でするべきではないが、ユソ丁カの原稿料が安いことは界隈でも有名であ丁り、法外に安い分治外法権になっているのか、みんな割と平気で「ユソ丁カは安い」と言っているらしい。

しかし、当時私はユソ丁カがそんなスラム街雑誌だと知らなかったため、その金額に驚きつつもどう断っていいのかわからず、結局「断りの文言を考えている時間で原稿が書ける」と思い、引き受けた。
そして、その後もう1回受けて、3回目でようやく断った。
先方もまさか3回目で原稿料が安すぎることに気づくとは思わなかったのか、そこを何とかと言われたが断った。
その際も「安いんだよバカ」という断り方はしなかったが、あまり仕事を断ったことがなかったので心苦しかった。

しかし、その後ユソ丁カは自他とも認める激安原稿料会社であり「安い」という理由で断られ慣れしており、何だったら初手で「ふざけているのか」と怒られることもままあるらしい。

全く相場がわかっていない他業種企業ならともかく、出版社であれば自らが提示する金額が安いという自覚があって出しているものである。
よって金額を見て「ふざけるな」と思ったなら、両鼻にピーナッツを詰めた状態で丁重にお断りしても良いと思う。
向こうがふざけているのだから、こちらもそのくらいふざけても良いだろう。

ただ一つ擁護するならユソ丁カは1ミリもふざけることなく、その金額しか出せないからそう言っているのであり社屋は倒壊寸前らしい。
やりがい搾取というにはあまりにも儲かってはいないようなので、その志に同調できるなら仕事は受けても良いと思う。

「ハクマン」第107回

(つづく)
次回更新予定日 2023-5-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『こんぱるいろ、彼方』椰月美智子
◎編集者コラム◎ 『土下座奉行』伊藤尋也