ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第114回

「ハクマン」第114回
人生の後悔というのは
「可能性」があるから
生じるのだ。

それと同じで私も昔から絵や漫画を描くという過程ではなく「それを他人に褒められる」という結果の方に強い関心があっただけの可能性が高い。
つまり、女性が好きなわけではなく、ただ性欲が人一倍強いだけのモテない男みたいな、人にも愛されないが、まず神に好かれてない人間ということだ。

それでも大きな結果を得るために過程も頑張れればいいのだが、基本的に働かずに金が欲しい側の人間なので、努力よりも「何かの間違いでバズってくれないか」という祈りに時間を使ってしまいがちなのだ。

さらに漫画を仕事にしてしまったせいで結果として得られるものが「他人からの褒め」だけでなく「金」までプラスされてしまったのだ。
そうなると余計漫画を描くことより描いた結果の方にばかり目が行き、空いた時間で結果を出している奴を憎むハードスケジュールになるため、とても努力などする暇はない。

大きな結果を出したければまず過程を頑張るべきである。しかし結果のことを全く意識せずに過程を頑張るというのも難しいのだ。

むしろ結果という目標やゴールがあるから、人はやる気を出すし、ゴールに向かう過程にも楽しみを感じることができるのだ。

「自分のために料理をするのが趣味であり、SNSに載せたり他人からの承認や利益は求めていない」という人でも、やはり「美味い料理の完成」というゴールがあるから料理を楽しめているのだと思う。
これが「動物の死骸を切り刻み煮込み続けるだけで永遠に何も完成しない」というなら、そんなに楽しくないだろうし、気がクレイジーになる恐れすらある。

特に漫画は作業量がどうかしているので、何かしらモチベーションがなければ最後まで描くことは難しい。

ちなみに漫画家になると「モチベーション」などという寝言の代わりに「締切」がプレゼントされ、全然勃起してないフニャフニャのペンでも強制的に原稿を完成させられることになるので、漫画を完成させることができないという人は「コミティアに申し込む」など自分で締切を発生させてみても良いかもしれない。

つまり良い結果を出すためには「よい結果を出す想像」も必要だし、これはアスリートでもやっていることだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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