ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第127回

「ハクマン」第127回
ネームをたくさん描いても
収入という意味では
紛れもなく無職である。

私の場合、ほとんどショート漫画なので、ネームを出せと言われても1話目以降は何も考えていない。初回数ページを出すだけなので、それが全ボツになっても大してダメージはないのだが、中には数回分、三桁のネームを出した上で話自体が爆散し、ただ労力と時間を無駄にしただけというケースもあるらしい。

よって、ネーム無報酬に関しては度々議論が起こっているのだが、今のところネームに支払いが発生しそうな流れは感じない。

確かに、再三描きなおしを求められた挙句、やっと編集を通った後で「編集長のOKが出なかった」と反故にされるのは酷い。

しかし、こちらとて、これからトイレットペーパーになる予定の木片に金を出したりはしない、ちゃんとケツが拭ける「完成品」になって初めて代金を支払っている。

その理屈で言えば、完成原稿にしか金を払わないというのは道理な気がする。

だが、中には「うちで連載しませんか」と出版社側から話をもちかけられてネームを作成している場合もある。

つまり「わが社で使うトイレットペーパーを作ってほしい」と言われたから、こちらは木の伐採を始めたのだ。
それなのに途中で「編集長がわが社のケツには合わないと言い出しまして」など先方都合で話がなかったことになってしまった場合、こちらはタダで無駄な伐採作業をさせられただけになってしまう。

故に、ネーム無償は納得がいかないという話が出て来るのだろうが、逆にいろんなケースがありすぎて、全てのネームに対して一律料金を払うことなど不可能というのもわかる。

だが、かつて1回だけ、ネームが通り原稿を描く段階で、諸事情で掲載不可能となり、ネームに対して原稿料の半額が支払われるということがあった。

この諸事情に関しては1文字も詳細に書けることがないのだが、簡単に言えば私の知る限り「刑事事件が絡まなければネームに原稿料が発生することはない」ということなので、あまりに無理なネーム要求は応じない方がいいと思う。

「ハクマン」第127回

(つづく)
次回更新予定日 2024-3-27

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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