ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第133回

「ハクマン」第133回我々は「先生」と呼ばれるものを
盲信しすぎるところがある。
税理士の節税対策は万全か?

確かに、税務署に腹を探られる時間と「このケツのラインは明らかに麻衣のものだろう」と、自著を見せて署員を説得するストレスを考えれば最初から潔く税金を多く払った方がコスパがいい、という考え方もある。

人件費に関しても他人と仕事をする煩わしさに比べれば、むしろ税金など安いと言えなくもない。

そういう意味では、税金は払いたくない、かといって他人を雇いたくもないという私はあまりにも強欲である。

離婚はしたくないが不倫相手とも別れたくないと言い張っているようなものであり、これには基本的に復縁を勧めてきがちな調停員も苦笑いである。

今後は税金のことを「金を払ってでも他人と仕事したくない料」だと思ってガタガタ言うのをできるだけ抑えていきたいと思う。

だが、人件費は捨てたとしても、他経費に関してはもう少し入れても良いのではないか、と思う。

しかし、何でも資料と言えなくもない作家ですら「食費」を経費に入れるのは厳しいらしく、例えグルメ漫画を連載していても全額は無理だそうだ。

何故なら、食費は例え仕事をしていなくても生きていれば発生するものであり、仕事のためとは言い切れないからだ。

私の出費は大半が食い物なのでこの時点でかなり詰んでいる。こうなったら税務署員の前で光合成をして自分にとって食は仕事の資料以外の用途がないと証明するしかない。

そして気になるのが「ガチャ費」が経費になるか、である。

これは詭弁ではなく、私は実際ソシャゲやガチャを題材にエッセイを書いている。漫画を資料に入れることができるなら当然ゲーム費も資料代として経費申告できるだろう。

事業で利益を出すためのものが経費なので、利益を大幅に越えるものはもはや「趣味」と見なされるという。

正直、私のガチャ費は1回の原稿料の数倍になっていることの方が多い。むしろ原稿料以内でやめたら「普通に何もでなかった」という結果になるだけで、何も書くことがなくなってしまう。

確かに、原稿のために原稿料以上のガチャを回すというのは不自然である。しかし破滅的ギャンブルに興じる漫画を描くなら資料として自らギャンブルで破滅しててもおかしくないだろう。

固定給、厚生年金、公務員の3Kである貴様らに我々の仕事の何がわかるのか。

そのような供述を平日の昼間、その間も賃金が発生している税務署員相手に3時間繰り広げるぐらいなら、やはり最初から税金を払った方が安いと言えるのかもしれない。

「ハクマン」第133回

(つづく)
次回更新予定日 2024-6-26

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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