ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第139回

「ハクマン」第139回
編集者にだって
漫画を見る才能が
あるとは限らない。

しかし、作家に、どうしたらデビューできるのかや、面白い作品を描く方法を聞いても無意味である。

そんなことを聞かれても「運」や「知っていたとして、それを競合者になるかもしれない君に教えると思うか? そういう情報商材を買っちゃいそうな姿勢から正せ」と、さらに嫌なことを言うしかなくなってしまう。

「最後まで描けるだけ才能がある」と言ってくれるプロは優しい方だと思ってほしい。

そういえば、別媒体でやっている創作のお悩み相談コーナーで、これから小説を書きたいという中学生から「どうやったら文章がうまくなりますか」という相談が来たことがある。

周囲が呪術廻戦のラストスパートを固唾を呑んで見守っている中、私の存在を知っている上に相談までしている時点でセンスがない、と言いたいところだが、それは逆にこちらが中学生のピュアさを過信しすぎていると言えよう。

中学生といえど、ジャソプ作家に「どうやったら先生みたいになれますか?」とファンレターを送ったところで返事が来るとは思っていないだろう。

ワンチャン返事が来そうな作家という観点で、下りに下った結果私という下流に到達しただけの可能性がある。

それに本当に中学生なのかも疑問だ。美女アイコンを見たら中身はおっさんか、南アメリカ大陸のおっさんと思え、という諺があるように、平素キッズには全く相手にされない作家なので、中学生から相談が来れば嬉々として答えるだろう、と思った中年が中学生を騙っているだけな気もする。

このように、年を取ると発想が濁りに濁るので、本当に中学生なら文章力とか考えず、まず自分の好きなように書いて完成させたらいいと思う。

ちなみにそのあと「昔書いた作品が恥ずかしい」という相談が来たので、この中学生がタイムリープしてきたのかと思ったのだが、時空移動してもなお私に相談してくるセンスを何とかしない限り何回タイムリープしてもダメだと思う。

長く描いていると「昔描いていたものが恥ずかしい」という現象からは逃れられないものだ。

自分が描いたものを黒歴史にするのは良い。ただ「こいつの相談コーナーに投稿したのが黒歴史」など、私を黒歴史に組み込むのはご容赦いただきたい。

「ハクマン」第139回

(つづく)
次回更新予定日 2024-9-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

大前粟生『かもめジムの恋愛』
乙川優三郎『立秋』