ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第168回

「ハクマン」第168回
今更だが私の本業は「エゴサーチャー」である

そして私のもう一つの本業には今風が吹いている、単位にすると10西川貴教ぐらいはきているのだ。

私のもう一つの本業は言うまでもなく「他人の不幸ソムリエ」であり、歴としてはこちらの方が長い。

他人の不幸に舌鼓を打つという、ある意味人肉食サークルより表に出てはいけないグルメ集団だが、私が「ソムリエ」を自称するにも理由がある。

他人の不幸なら何でも美味いというわけではなく、味にはかなりこだわっている。単なる不運でかわいそうな人の不幸など飲めたものではない。

あくまで自己責任、そして破滅しすぎないのがいい。途中までゴキゲンで飲んでいても最後が「そして死にました」では、全部吐いて帰るしかない。

また自分が分かる不幸が良い。「FXで有り金全部溶かした人」は、長年ソムリエたちに愛される不幸だが、自分がFXをやったことがなくルールもよく知らないせいで、舌に若干えぐみが残ってしまうのだ。

つまり私が最も美味いと感じるのは漫画家の不幸である。

ただ、グリフィスを拷問していたみたいな奴が初担当になってしまったせいでPTSDになってしまった、といった話はいらない。「連載が売上不振により3巻で終わった」ぐらいがちょうどいいのだ。

しかし、漫画界でこのぐらいの不幸を見つけ出すのは至難の業なのだ。

当たり前だが、そんな景気の悪い話はあえてしなくていい。したところで私のようなハイエナが「芳醇……」とつぶやきながら近寄ってくるだけだ。

そもそも「打ち切り」などという言葉は存在しない。少なくとも編集者は使わない。ただ「終了が決定しました」といって有無をも言わさず終わらせてくるだけなのだから、作家もあえて打ち切りであると宣言する必要はなく、あたかも最初からこの巻数で終わる予定だったかのような顔をしてもいいのだ。

ただ、敗走しウンコを漏らした時の肖像画を戒めとして描かせたらしい徳川家康のように、やたらストイックな作家がたまに「自分の力不足ゆえの打ち切りです」と自ら言い出す場合があるだけだ。

このパターンを見つけるだけでも難しいのに、それが100万部突破アニメ化ドラマ化映画化などのサクセス情報に埋もれているのだ。

つまり、宝を1個見つけるか見つけないかの道中で、身体に二桁の穴が空く仕様なので、おいそれと漫画業界で不幸ハントはできないのである。

しかし、地雷除去をドローンにやらせるのと同じで、今なら「AI」を使い、数ある漫画ニュースの中から、ちょうどいい不幸だけを抽出できるようになったのではないか。

そうだとしたら革命であり、私にもようやく本業1本だけでやっていける時代が来たということだが、やはりその道は平たんではなかった。

次回、AIを使った漫画家の不幸探知の軌跡について語りたい。書きたいことに対し、文字数が足らなくなったのも久しぶりである。

ハクマン第168回

(つづく)
次回更新予定日 2026-10-14

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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