ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第35回
漫画業界のリモート化。
アシスタントとはどう接するのか?
だが漫画業務をリモート化するには当然作画自体をデジタル化しなければいけない。
さもなければ本当に原稿のスキャナデータをUSBに入れて郵送するところからはじまってしまう。
アナログ作画でもできないことはないが、どう考えてもデジタルより手間である。
漫画というのは他の仕事に比べ、ツールより技術がまだ物を言う世界であり、アナログにしかない良さもあるので、アナログで活動を続けている作家もいるが、今回の件でついにデジタルにしたという人もいるようだ。
おそらく「作者がデジタルに慣れるため休載します」という、今までにない理由での休みも発生したのではないだろうか。
また編集者との打ち合わせもできないので、zoomやスカイプを使った打ち合わせに切り替わっているという。
逆に漫画家と編集者は今までわざわざ対面で打ち合わせしていたのかというと、どうやら意外としていたようである。
私は、もともとストーリーが存在しないような短いギャグマンガばかり描いていたし、編集が何を言っても「はい」しか言わない上に、それを完無視した原稿を出してくるという、社会によくいる「話にならない人」だったため、早い内に「打ち合わせ」という概念がなくなったのだが、他の作家は結構、編集と打ち合わせをしているらしい。
1、2年前、今は諸事情で封鎖状態のS学館の編集部に行ったのだが、そこには「打ち合わせブース」があり、そこでは漫画家と編集者が原稿やネームを挟んで向かい合い、打ち合わせを行っていた。
そこで漫画の打ち合わせというものを初めて見たので、写真に撮ってツイッターに載せてしまおうかというぐらい感動した。
都会では、喫茶店で漫画の打ち合わせや、ルノアールの角席で2to1フォーメーションで、熱心な儲け話や神の尊さを語っている現場も珍しくないのかもしれない。
しかし、私が住んでいる田舎で大の大人が漫画絵を挟んで難しい顔で話し合っている、というのは控えめに言って変態なので、まだ1か月で持ち金が100倍になる話をしている人の方が社会的に信用されるのだ。
よって東京に行った時、担当が喫茶店とかで原稿を出して打ち合わせしようとすると、未だに「おいやめろ!」と言いたくなる。
このように、漫画業界もリモート化が進み、コロナ後もリモートが定着する可能性は十分ある。
今でも漫画家は地方に住んでいてもできる職業だが、今後はアシスタント含め、よりどこに住んでいても就ける職業化していくだろう。
漫画業界だけではなく他の業務もリモート化が進んだであろうから、以前より地方に住んでいても職業選択の幅が広がるかもしれないというのが、今回唯一良かったと言える点かもしれない。