「架空読書会」をやってみた! 存在しない本を堂々と語れ!
実在しない本の内容をでっちあげ、“架空の本”について熱く語り合う遊び「架空読書会」。実際に開催してみた様子をレポートします!
皆さんは、本にまつわる感想や意見を語り合う「読書会」に参加したことがありますか?
本好きが集い、交流する場である読書会に参加したいという思いを抱いている方は多いはず。しかし、参加したことがない方の中には、
……読書会って、こんな小難しい意見が飛び交う場なのでは? と思っている方もいるのではないでしょうか。同じ本を読んでさえいれば誰でも気軽に参加できるのが読書会のよいところですが、「自分だけ読み方が浅かったらどうしよう」と身構えてしまう気持ちも分かります。
そんな方にお薦めしたいのが、いまジワジワとブームになりつつある「架空読書会」。オーソドックスな読書会は、1冊の本を課題図書として読んできてその感想を語り合うものですが、この「架空読書会」は
のです!
読まない「読書会」? 実際に開催してみた
P+D MAGAZINE編集部では今回、この「架空読書会」を実際に開催してみました。
つまりは、「実在しない本について熱く語り合う」イベント。今回はそんな「架空読書会」を再発見し、実際に開催してブームの火付け役のひとりとなった高橋由房さんを編集部にお招きし、本好きの4人で行いました。
(写真左から)
大島さん:雑誌とテレビに詳しい。最近読んで面白かった本は『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(坂口恭平著/太田出版)。
高橋さん:音楽、本などさまざまなカルチャーに造詣が深い。最近読んで面白かった本は『本棚の本』(赤澤かおり著/アノニマ・スタジオ)。
植松さん:ラジオっ子。最近読んで面白かった本は『コンビニ人間』(村田沙耶香/文藝春秋)。
早川さん:自他ともに認める読書好き。最近読んで面白かった本は『クレーン男』(ライナーチムニク著/パロル舎)。
……今回は、「架空」の3冊の本について語り合った読書会のレポートを、(ほぼ)ノーカットでダイジェスト動画つきでお届けします。1冊目の『横須賀のドローンばあちゃん』では360度型カメラの映像も合わせて、ぜひ自分も架空読書会に参加しているような気持ちを疑似体験してみてください!
【1冊目】横須賀のドローンばあちゃん
【ダイジェスト動画】
【360度カメラ動画】
大島:1冊目は、『横須賀のドローンばあちゃん』です。
一同:(頷く)。
植松:これは……クレイジーケンバンドの横山剣さんの自伝的な小説らしいですよね。彼のおばあちゃんが結構、突飛な人みたいで。
早川:モデルになってるんですね! 僕は小説だと思って読んでいました。
高橋:どこまで事実で、どこから創作なのか、その混ざり具合が読んでいて分からなくって。自然に繋がっているのだけど、途中からありえないエピソードが入ってきて……。
植松:そうそう、あきらかに不自然なエピソードというか。
高橋:マジックリアリズム(※日常と非日常を融合させる小説技法)かな、みたいな。でも、普通のおばあちゃんの話として書かれているので面白いなって。
植松:(本当か嘘かが)グラデーションになっているところもあれば、あきらかに「ここからは怪しいな」っていう部分もある。面白いですよね。
高橋:普通なら完全に架空にしてしまうか、本当にノンフィクションとして自伝的に書くか、どちらかですよね。そこを混ぜて書いてくるのが、手練れの書き手ですよね。
ドローンとばあちゃんが出会い、そして別れる
早川:印象的だったのが、ドローンと「ばあちゃん」の出会い。
大島:私ね、泣いちゃったよ。撃ち落とされたとき。あんなに可愛がってたドローンが撃ち落とされて……。
早川:小説の中で、小さい子どもが悲しがる場面ってよく見るじゃないですか。でも、おばあさんが悲しがる場面はなかなか見ないから、はっきりと描写されると辛いものがありますよね。
高橋:本当ですね。出会いと別れを描こうと思ったとき、普通は子どもとか動物をモチーフに持ってくるのに、ドローンとばあちゃんっていう組み合わせをよく思いついたなって。それでちゃんと泣ける話になっているのがすごい。
植松:「ドローンの羽が基地を舞った。」って一文、すごく泣けましたよね。
一同:うんうん。
植松:泣ける部分もある一方で、笑える部分とのバランスもいいですよね。意外とおばあちゃん、ドローンを亡くした2日後に新しいものを買ってきてケロッとしていたりとか。
おばあちゃん、ドライなのか分からないんですけど、意外とそんなところもあるのが面白いですよね。
早川:そこを詳しく書くのではなくて、「買った。」っていう一文で済ませてしまうのが、読者心理を分かってるなって感じですね。
植松:「買った(ビックポイントで)。」ですよね。
早川:そうでしたね。現金ですらない。
大島:しかも、ビックポイントで買う伏線として、物語の前半でMacを一式揃えてるんですよね。それでポイントが貯まってたんだろうなっていう。
植松:リアル「コンピューターおばあちゃん」ですよね。
高橋:そうですね(笑)。でも、そういうところに妙なリアリティがありますよね。ストーリー優先で作ろうと思ったら、普通そういうところは書かないじゃないですか。「泣かせてやろう」という意図があったらカットするようなところを、あえて全部書いているのがいいですよね。
ばあちゃんがドローンで撮影していたものとは
大島:結末の話をしてもいいですか?
……ばあちゃんがドローンで撮影をしていた理由が、戦時中に恋をした米軍のおじいさんを探していた、という。「恋は実らなかったけれど、その結果僕が生まれた。」ということだったんですよね。
早川:泣けましたよね。しかも、ドローンを使ってかつて愛していた米軍の男性を探していたのに、その米軍にドローンを撃ち落とされてしまうという結末がとてもシニカル。時の経過によって、関係性はこんなにも変わってしまうんだ、というところにぐっときました。
植松:この本、ドローンを操縦している描写では、文章の行間とか文字間が微妙に調整されているのに気づきましたか? ドローンに関する描写をよく見ると、文字のところが微妙にブレていて、読み手側にも操縦しているような震えの感覚が入ってくるんですよ。
早川:気づかなかった! 文字が、ってことですか?
植松:文字が左右に1mmずつくらい、微妙にずれているみたいで。
大島:ドローンが起こす震えなのかもしれないし、もしかしたらおばあちゃんの手が震えているからかもしれない、という。
早川:そういった視覚的な工夫もすごく特徴的ですよね。
もはやドローンで書いているのかもしれない
高橋:ちなみに、今回どうしてこの本を選ばれたんですか?
大島:読む前は、ドローンに関する最新技術の本なのかなって思ってたんですよ。「おばあちゃんでも分かる」みたいな。実際に読んでみたら、かなりエッジの利いた小説だったのでびっくりしてしまって。ぜひ読んでもらいと思って題材にしたんですよね。
植松:でも、実際に小説畑の方だけじゃなく、技術者の方も絶賛されてるんですよね。本の帯も、ライゾマティクス(※)が書いてますし。
(※メディアアートを手がける企業)
早川:この前本屋で見たんですが、宣伝方法も変わっていて。ドローンが本屋の中を飛び回っていて、本を買う人はキャッチしなければいけないっていう。
高橋:最初に小説を書こうとして、あとからどうやって売ろう? ではなくて、最初から売り方とか、文字の表現とか、すべて考えたうえで小説を書いている感じがしますね。
大島:ストーリーも本というプロダクトの一部ということなんでしょうか。
早川:もはやドローンで書いているのかもしれないですよね。
植松:そうなるともう、シュールレアリズムですね。
【2冊目】4人
高橋:皆さんも読んできたとは思いますが、この本について……(タイトル『4人』)。
一同:ああ~。
大島:最初は普通の青春譚かなと思ってたんですけど、どんどんサスペンスになっていくので、私これ、中盤から徹夜しました。
早川:すごく仲がよかった「4人」の関係が、ある事件をきっかけに、時間の経過とともに変化していくっていう……。4人の中の誰かが犯人なんだけど、それがいったい誰なんだ、という。徐々に関係性がずれていくのが面白かったですね。
大島:1人、バックパッカーになった子いましたよね? リュウジ。
植松:リュウジだけバックパッカーになって海外に行きましたもんね。描写が断片的にしか出てこないので怪しいな、犯人かなと思ってたんですけど、見事に裏切られたなと。
大島:「こいつがジョーカーかな」と思いきや違う、みたいな展開が何度もあって、転がされてるなあと。
植松:マサミちゃんもおっとりした、4人の中で唯一まともな人かなと思ったんですけど、意外とそうじゃないっていう。後半の、4人が40代になった時代の描写でようやくそれが分かるっていうのは、面白いですね。
大島:作者、女性ですからね。女性のいやらしいところを書くのはさすがにうまいですよね。
高橋:まさか、マサミちゃんが犯人だとは思わなかったですよね。
大島:ですよね! ユキエちゃんなんか途中でひとり、殴って再起不能にしてますもんね。あんなめちゃくちゃなキャラクターなのに、犯人あいつじゃないんだっていう驚きがすごかったですね。
人が入れ替わって、常に「4人」のままでい続ける
高橋:読んでいてちょっとヒヤッとしたのは、4人が1人ずつ順番に殺されていくじゃないですか。で、1人殺されるごとに、サブ的な扱いだったはずの人が前面に出てくる。……だからこう、常にストーリーの中の人数は「4人」だっていう。順番に人が入れ替わっていくのに、「4人」ではある、というのは怖かったですね。
植松:たしかに、1人消えるごとに、マサミちゃんが他の人を巻き込んで「4人」にしてますもんね。
高橋:極端な話、4人が1人ずついなくなっていったら話が終わってしまう。でもこのしかけのせいで、終わりがまったく見えないのが怖いなと思いました。
植松:会社の同僚を巻き込んだかと思えば、全然関係のないカメラマンを巻き込んだりとか……人間関係がいびつな形で派生していくのが面白いですね。
早川:中盤で、毎日駅の前を通るパン屋のおじさんを巻き込んでたじゃないですか。あそこは特にヒヤッとしました。
大島:あの人がきっかけで横領事件ですもんね……。
植松:しかもあのパン屋のおじさん、焼き窯に詰められて殺されちゃう、という。
高橋:キャラクター的にはあのおじさん、大好きなんですけどね……。いい人だなあと思わせておいてあの展開、っていうのがやりきれない。
早川:鳩にパンを食べられちゃっても、「コラ!」って言いながら笑ってるんですもんね、あのおじさん。いい人ですよね。
作者には『メルヘン甲子園』というファンシーな作品も
高橋:私はこの作者、本当に性格悪いなって思いながら読んだんですけど(笑)、やっぱりそういう作者が書く話は面白い。最初「青春譚だと思ったら違った」って大島さんがおっしゃいましたけど、読みかけのままだったら、そう勘違いしてる方も多そうですよね。
植松:高校生の頃の、みんなで花火大会に行く描写なんかは爽やかな青春譚そのものですしね。
高橋:そうですよね。その前半の描写がうまいだけに、裏切られた気になるというか……。
植松:花火の煙の匂いに関する描写もすごく綺麗でグッとくるんですけど、それが中盤からは血の匂いに変わっていくという……。
高橋:面白くて一気に読んじゃったんですけど、この作者の他の作品を読みたいって皆さんは思いますか? 私はちょっと、後味が……。しばらく時間を置きたいですね。
大島:私は2回読んだんですけど、最初は「アウトレイジ」のような、いろんな殺され方の辞典だと思ったんですよね。でも2回目に読んだときに、ようやく人間の悲哀みたいなものが見えてきて。同じ作者に、暴力的な要素を削ぎ落とした作品があるなら読んでみたいなとは思ったんですけど。
植松:あ、でもこの作者の次の作品は、暴力的な要素が一切ないんですよ。『メルヘン甲子園』っていう作品なんですが、普通の野球小説とは違って、妖精の力を借りて試合で勝ち上がっていくっていう。『4人』ではあんな残酷に登場人物を殺すような作者なのに。
高橋:この作者、芸風が幅広いんですね。
植松:『4人』を書かれていたときは、ちょっと精神的に落ち込んでたっていうインタビューを読んだことがあります。精神状態がかなり作風に影響する方みたいですね。
高橋:技術的にはなんでも書けて、しかも没頭するタイプの方なんですね。そう聞くと、他の作品も読んでみたいですね。
【3冊目】パリピ資産家殺人事件
植松:3冊目のタイトルはこれです(『パリピ資産家殺人事件』)。
大島:これね~! 私、序盤で引き込まれたんですよ。主人公が新宿でトイレを探してるときの臨場感!
早川:パリピだから、知らない人に話しかけるときもすごくうるさいんですよね! 話しかけて嫌がられる描写とか、リアルで面白かったですよね。それなのに資産家っていう。そのギャップがまたびっくりしますよね。
大島:私これ、新宿バージョンに落とし込んだ『華麗なるギャツビー』なのかな、と最初は思ったんです。読み進めていくと完全にエンタメ小説なんですけど、新宿の風俗文化はとてもよく反映されていて。そういう描写には、ある種のハードボイルドさも感じましたね。
植松:構成も面白いですよね、複数の資産家が登場して。新宿の資産家編、六本木の資産家編、五反田の資産家編の3本立てっていう。それぞれの街にクローズアップして話が展開されていくので、街によって描写が全然違って楽しめますよね。
大島:そうですね。主人公が次々と事件を解決していくのを見ながら、こいつチャラチャラしてるように見えて意外と頭がキレるな、と感動したんですが、やっぱりパリピなので夜にはクラブ行っちゃうっていう(笑)。
高橋:これをミステリ小説として見れば、決してよくできているわけじゃないんですよね。トリックも非常に単純ですし。でも、この魅力はどこから来るんだろう、っていう。登場人物がみんな、エッジの利いたキャラクターばかりで……。
大島:実写版で綾野剛が演じてたじゃないですか。ぴったりでしたよね。
泡パーティーの泡が硫酸だったというトリック
早川:少し遡って、パリピが資産家になっていく過程の描写も面白かったですよね。
植松:ああ、大学時代のグレーなアルバイトのくだりですよね。悪い社長に女の子を斡旋するっていう。そういった、現代社会の闇みたいな部分も描かれている作品ですよね。
高橋:ゴシップっぽい内容ではあるのに、不思議と嫌らしさがなくてカラッとしている。だって、人数的には100人近く殺されてるわけじゃないですか?
大島:最後の、新木場のクラブの毒殺事件も派手でしたよね!
植松:泡パーティーの泡が硫酸っていうトリックは斬新でしたよね。
とはいえ、あのパーティーに参加している人たちも、みんな大学時代にテニサーで悪事を働いていたりとか、悪いやつなんですよね。だから殺されてもスカッとしてしまうというか、現代の水戸黄門みたいな側面もあるのかなと。
高橋:なるほど。そう言われると、悪代官が殺されるみたいな感覚に近いですね。近年はさっきの『4人』のような“イヤミス”が流行りなので、こういったスカッとする作品は逆に新鮮ですよね。
“インスタ映え”するエンタメ小説
大島:全員のキャラクターがすごく立っていると感じたんですが、これって続編はあるんですかね?
植松:続編だと『ベンチャーキャピタルの憂鬱』が出てますよ。比較的、ハイソサエティな層に寄った作品が多いですね。
早川:ハイソサエティといえば、この作品の犯人の殺され方も、どこか派手というか……ポップですよね。大根で殴って殺す、というのはさすがにびっくりしましたが。
植松:驚きましたよね。殺人現場の状況までポップというか。大根で殺された現場も、赤いトマトとか黄色いパプリカが散りばめられていて、蜷川実花さんの写真みたいな彩りになってるっていう。すごく現代っぽいですよね。小説にもインスタ映えの時代がきたか! と。
高橋:これ、アニメと相性がよさそうですよね。アニメ化したら小説を読む入り口にもなるんじゃないかな。殺人現場の聖地巡礼、とか流行るんじゃないかなと思いました。
大島:読書の入り口になるという視点では、乙一が出てきたときに近いものを感じました。この作品自体はエンタメ小説ではあるんですが、それこそ『華麗なるギャツビー』の匂いもしたりとか、他の小説へのオマージュも端々に見られたりして。
読書好きってだんだん頭でっかちになっていって、こういう「分かりやすい」作品になかなか手を出さなくなるじゃないですか。久々にこういった小説を読んでみて、やっぱりどんなジャンルも偏らずに読まなきゃな、と痛感しましたね。率直に、すごく面白かったです。
【感想】架空読書会を終えて
予想をはるかに超えて白熱した架空読書会。3冊の読書会を終えて、参加者に意見を聞いてみると、「すごく楽しい!」「またやりたい!」との声が上がりました。
大島:私、特に『4人』が読んでみたくて。シンプルだからこそすごいタイトルですよね。人が入れ替わっていって、常に4人いる……というくだりで「うわ、読みたい!」と思いました。
高橋:全然普通の言葉なんですけどね。だからこそ、かもしれませんね。私はむしろ、続編の『メルヘン甲子園』が読みたい(笑)。
早川:『横須賀のドローンばあちゃん』もいいですよね。実際に読んだら泣いてしまう気がする。
植松:途中から、この本が存在しないことがむしろ不思議になりつつありましたね。
……これまでに何度も架空読書会に参加されてきた高橋さんからは、「話が盛り上がりすぎると、本当にその本が読みたくてたまらなくなるんです。でも実際にはないので、生殺しですよね」との意見も。
大真面目にやるのはもちろん、お酒やお菓子を用意して、仲間うちでやるのも盛り上がるという「架空読書会」。本好きの方はもちろん、普段はあまり本を読まない方にもお薦めの遊びです。
皆さんもぜひ、ご友人や同僚と、架空読書会を開催してみてください!
初出:P+D MAGAZINE(2017/11/14)