【生誕100周年 前・後編の大特集!】J.D.サリンジャーの生涯と代表作

【後編】
2019年1月8日、立教大学で、『ライ麦畑でつかまえて』を読み解くゼミと、映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(1/18公開)の学生向け試写会が行われました。時代を超えて読み継がれる“青春のバイブル”は、学生たちにどのように響いたのでしょうか。

名作は時代・世代を超えて……『The Catcher in the Rye』への考察

立教大学文学部、新田啓子教授によるゼミでは、J.D.サリンジャー『The Catcher in the Rye』(『ライ麦畑でつかまえて』)を読み、その内容を分析すると同時に、アメリカ文学に関するより広範囲な知識を習得する講義が行われました。

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「無垢、子供、孤独」をテーマとし、なぜこの小説が多数の読者の共感を得たのか、時代・世代を超えて読み継がれるのかについて、学生たちが発表しました。
主人公・ホールデンの頭の中を巡る葛藤や、彼の持つ将来観、妹フィービーへの思いなどについて、それぞれの視点での解釈を展開します。
若い世代に『The Catcher in the Rye』(『ライ麦畑でつかまえて』)がどう解釈されているのかを知ることができ、孤高の天才作家の内面について、興味を引き出される授業となっていました。

謎に包まれたサリンジャーの真の姿に迫る映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』

新田教授のゼミの演習で作品への理解を深めた後は、特別試写会へ。
不朽の名作を生み出した作家・J.D.サリンジャーの、これまで語られてこなかった謎に満ちた半生、そして小説の誕生秘話が描き出されます。

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「文学という、愛好者が比較的少なくなってきていると言えるジャンルでは珍しい事象」
と、新田教授も語るほど、今も読み続けられている傑作を生み出した、サリンジャーとは、どのような人物だったのでしょうか。

映画が物語る、謎に満ちた天才作家の素顔

映画では、不朽の名作を生み出した作家・サリンジャーの、これまで語られてこなかった謎に満ちた半生、そして小説の誕生秘話が描き出されます。20世紀半ばの華やいだニューヨークを舞台に、若きサリンジャーが、自分の作風を見つけ出そうと試行錯誤を重ねる姿、社交界セレブとの恋の顛末、恩師との運命的な出会い、第2次世界大戦の最前線での経験によるトラウマにもがき苦しむ姿。
そして、圧倒的な名声と富を手に入れながら、なぜその絶頂期に文壇から姿を消したのか?
これまで、謎に包まれてきた、孤高の天才作家サリンジャーと、傑作『The Catcher in the Rye』(『ライ麦畑でつかまえて』)のすべての謎が明かされます。

出演:ニコラス・ホルト、ケヴィン・スペイシー、ゾーイ・ドゥイッチ、ホープ・デイヴィス、サラ・ポールソン
監督・脚本:ダニー・ストロング
製作:ブルース・コーエン(「アメリカン・ビューティー」「世界にひとつのプレイブック」)、モリー・スミス(「ラ・ラ・ランド」)
原作:『サリンジャー 生涯91年の真実』(晶文社)
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム
2019年1月18日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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© 2016 REBEL MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
(109分/アメリカ/カラー/2017年/英語) 原題:REBEL IN THE RYE

学生に聞いた! 映画を観ての感想は……? 

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(左:東京大学 吉岡求さん、右:東京大学 藤原あゆみさん)
吉岡求さん「作品に対する戦争の影響が明示されているのがとても印象的でした。演出面でも、サリンジャーのパーソナルな体験と作品が結びついているところが、ひとつの「サリンジャー論」のように感じられて、面白かったです。」

藤原あゆみさん「作家の考えていたことを想像しながら読むことが多いのですが、(この映画を観ることで)動いているサリンジャーを感じることができ、とても嬉しく感じました。彼に心酔してしまう危ないファンが出てくるシーンがありますが、私も自分の苦しみを小説世界に投影していたことがあるので、理解できる感覚を持ちました。」

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(左:慶應義塾大学 篠原慶さん 右:慶應義塾大学 中村貴将さん)
篠原さん「サリンジャーがとても好きで、期待していたので、少し物足りなく感じる部分もありました。実態としての声や物語を提示されると違う気がしてしまいましたが、できる限り嘘がなく、リアリティがあったところは良かったと思います。」

中村貴将さん「大学3年で初めてサリンジャーを読んだのですが、サリンジャーの人生に焦点を当てた映像は初めてなので、新鮮に受け容れられました。反抗的でもがいている姿、自分の道を貫き通している姿が印象的でした。」

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(左奥:立教大学 中島洋輔さん、中央:立教大学 槍田千咲さん、左:立教大学 山田知輝さん)
中島洋輔さん「サリンジャーは、自分自身と言葉を、切り離せない存在だったのかなと思いました。」

槍田千咲さん「ホールデン自身がサリンジャーなのではないかと強く感じました。あくまで自分の物語であって、共感を求めているわけではないのでは、と思いました。」

山田知輝さん「アンビバレンス性を感じたりもしたのですが、不純な自分(サリンジャー)が純粋なものを書こうとした時に、その両方が作品に色濃く表れた作品が、『ライ麦畑でつかまえて』なのではないかと感じました。」

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(立教大学 有馬三冬さん)

有馬三冬さん「サリンジャーは書かないと生きていけないタイプの作家なんだと思いました。文学を単なる消費物として書いているのではなくて、切実な欲求のもとでひたすら書いているところに胸を打たれます。社会への反抗心、わかってもらえない気持ちをすくい上げてくれるところ、見方によっては幼稚かもしれないですが、叫びたくなるような感情は普遍的なのではないかと思いました。」

おわりに

今も若者の心をとらえて離さないサリンジャー。
彼の書籍を読んだことがない人も、これを機に読んでみたり、映画を観たりしてはいかがですか。

初出:P+D MAGAZINE(2019/01/17)

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