辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第1回「自分で決めた産休・育休」
一風変わった作家の育児エッセイ、
これは考えようによっては、フリーランスのメリットなのかもしれない。私の知り合いに仕事への意欲が高い会社員の女性がいる。彼女は育休に入るとき、1年も職場を離れると出世に響くのではないかと不安がって泣いていた。
休むか、働き続けるか。その選択は難しい。どっちのほうがいいか、という問いに、たぶん答えはない。
といっても、入院5日目で仕事を再開してしまったのには、さすがに自分でも驚いた。いや、出産翌日に病院に面会に来た母に、何を持ってきてほしいと問われて「本とノートパソコン」と答えた時点で、想定はできていたのかもしれない。
授乳と授乳の合間に1、2時間しかまとまった睡眠を取れないし、出産の後遺症が身体中に残っているし、ホルモンバランスが乱れに乱れて病室の窓から綺麗な朝焼けが見えただけで涙が止まらなくなるし、本当に眠くて痛くてわけの分からない入院期間中だったけれど、私が小説を書くことから離れていられた時間は、結局5日間だけだった。その5日間も、母が「出産後で疲れていても楽しめそう」という独断と偏見のもと差し入れてくれた浅田次郎先生の『プリズンホテル』シリーズを読んでいたから、「小説」からは片時も離れられなかったともいえる。
そんな〝あまり一般的でない〟母親のもとに生まれた娘は、いったいどんな人間に育つのだろう。だなんて、自分で言うのもおかしな話だけれど、私自身は会社員と専業主婦の両親のもとに育ったため、正直まったく想像がつかない。
さらに言えば、私と夫は文学とはまったく関係ないところで──新卒から3年間の兼業作家時代に、某IT企業の同期として──出会っていて、家事や育児など家庭のことは何でもかんでも、企業のチームプロジェクトのように〝効率よく〟こなしてしまうふしがある。詳しくは後々記していくけれど、そういう意味でもやや変わっているような。
こうした日記を書く場を与えてくださった編集者に感謝しつつ、自分自身の子育てと娘の成長を、自分が子どもの頃の回想も交えつつ、モニタリングしていきたいと思う。
(つづく)
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。