辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第3回「黒塗りの初校ゲラ」
発達していく子どもを育てながら、
執筆するコツとは…?
人間の集中力というのは、そう長続きしないものだ。ある東京大学の教授が通信教育大手の企業の協力を得て行った実証実験によると、「休憩なしの60分学習」を行った生徒たちよりも、「15分×3の計45分学習(7.5分×2の休憩を間に挟む)」の短時間積み上げ型学習を行った生徒たちのほうが、学習の定着効果が高かったのだという。理由としては、人間の集中力が長くて40分程度しか持続しない可能性が考えられるのだとか。
私も、一応、この方針で仕事をしている。
日々の過ごし方の一例を挙げると──娘が積み木で一人遊びを始める、執筆を開始する、娘が絵本をめくり始める、少しだけ読み聞かせをする、執筆に戻る、しばらくすると娘が膝に乗ってくる、リトミックの本で覚えた歌を歌って身体を揺すってあげる、娘をお絵描きボードの前に座らせてペンを持たせる、自分はまた執筆へ、お腹が空いた娘がキッチンに突進する、執筆をやめて作り置きの離乳食を温める、食べさせつつ小説の次の一文を考える、自分のお昼を買いに出かけるついでに娘を散歩させる、添い寝で寝かしつけながら自分も心身ともにリフレッシュして、また執筆に取りかかる──などなど。
朝と夕方の時間は、NHKのEテレに頼らせてもらう。1歳の娘は『いないいないばあっ!』が大好きだ。ワンワン、うーたん、はるちゃんが画面に出ていると、魔法のように静かになる。魔法というより、もはや麻薬というか、猫にまたたび的な何かなんじゃないかと心配になるくらい、食い入るように画面を見て、曲に合わせて真剣に踊っている。次点は『おかあさんといっしょ』。現在活躍中の歌のお姉さんは、どうやら私と同い年らしい。たまに歌に合わせて話しかけたりはするけれど、娘がテレビを見ている間は、私にも少しまとまった時間ができる。本当に、NHKさまさまだ。子育て期間は、受信料を倍くらい払ったっていい。
やがて娘のお腹が減り、夜の離乳食、お風呂、寝かしつけの3コンボに突入する。育児という意味では、この時間が一日で最も忙しい。でもここを乗り切れば、束の間ではあるが、ゆったりとした自分の時間が訪れる。終わっていない仕事を慌てて片付けることもあれば、読書に充てることもある。なぜだか分からないけれど、娘が起きている間は、書くことはできても読むほうはあまり捗らないのだ。だから夜のひとときは、私にとって、貴重なインプットタイムとなっている。
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。