辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第41回「大仕事に臨む前、の心のメモ」

辻堂ホームズ子育て事件簿
いよいよ迫る第3子の出産。
そんななか4歳娘と2歳息子は
一人の「人間」になりつつあり!?

 エピソード、その5。

「ようちえんの、あたらしいたいそうのせんせい、『ドクロせんせい』っていうんだよ!」と自信満々に何度も言うから、いったいどんなパンクな先生なのかと思ったら、幼稚園から配られた新任の先生紹介のお便りに、「ろくろう」という下の名前を持つ男の先生が載っていた。

 その6。

 先日友人宅に遊びにいった際、娘がパニックになってトイレから転げ出てきた。見ると、髪の毛からズボンまでびしょ濡れだ。いったい何が!? と驚いてトイレに踏み込むと、床も便器も濡れていて、驚いたことに天井からも水が滴っていた。どうやら「流す」ボタンと間違えて、ウォッシュレットの「おしり」ボタンを押してしまったらしい。友人たちが爆笑する中、私は雑巾やらタオルやら服一式やらを借りて一人奔走し、娘の全身着替えと友人宅のトイレ掃除を済ませたのだった。

 このことを母に話すと、「親子は似るのね」と笑われた。幼稚園生の頃の私も、いろはかるたの『論より証拠』を『(、)んよりしょうこ』だと思い込み、自宅のトイレで同様のウォッシュレット事件を起こしていたらしい。なるほど、確かに共通点が……。

 子育てをすることで、自分自身の過去を知る。

 子の人生と同時に、自分の歩んできた軌跡にも向き合っている。

 そして子の人数分、その機会は訪れる。2歳息子はまだ手のかかる時期で、まだ娘ほど個性が見えてきたわけでも、特筆すべきエピソードが豊富なわけでもないけれど、私が息子に抱っこをせがまれてやむなく従うと、「あかちゃん、おもいよーって、いってる?」と悪戯っぽい表情を浮かべ、私の膨らんだお腹を「よちよち」と撫でてきたりする。

 一人の人間になりつつあるのだなぁ、とひしひしと感じる。

 その〝人間〟を育てていくのだという重みも、一日ごとに増している。

 もうじき生まれる子は、初めは可愛い赤ちゃんだけれど、やがて娘や息子と同じ〝人間〟になっていく。身の回りのお世話だけをしていればすくすく育っていってくれる時期は、娘が生まれた頃に想像していたより、ずっと短い。だから私も〝小さき人間たち〟に相対する母親として、そろそろ、第2ステージに突入しなければならない。いや、もう突入しているのかな。

 とりあえず出産頑張れよ、私。

 皆様もぜひ、応援していてください。

 ……って、この記事が公開される頃には、もうとっくに出産予定日が過ぎているのか。お願いだから、無事に終わっていてね!

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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