辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第42回「第3子誕生」

辻堂ホームズ子育て事件簿
ついに、第三子出産!
はじめての無痛分娩を終え、
子どもたちに対面させると?

 ……産後4日目。

 無事退院する。中学生以下の子どもは産婦人科病棟に入れなかったため、上の子たちと赤ちゃんは自宅で初のご対面。「かわいい~♡」と声が甲高くなり、顔がとろける4歳長女(ああ、このエッセイで彼女のことは『娘』と書き続けてきたのに、これからは『長女』になるのがこそばゆい)。

 一方、2歳息子は、小さな妹を見てとても嬉しそうにしていたものの、好奇心のあまりベビーラックを激しく揺らしたり新生児の顔の上にぬいぐるみを置こうとしたりして、さっそくパパに叱られご機嫌斜めに。そして私が授乳やおむつ替えを始めるたび、お手本のような赤ちゃん返りを起こすようになってしまった。授乳クッションを奪おうとする、私の背中に覆いかぶさってくる、ママのお膝でねんねしたいと泣く、パパにお着替えを手伝ってもらうのは嫌だと突っぱねる、挙句の果てに自分もミルクを飲みたいと言い出す、私に無理やり抱っこをせがんで新生児とごっつんこする……。

 新生児が怪我をしたらいけないから、息子を叱らなければならない。でも久しぶりに帰ってきたママに甘えたい気持ちもよく分かるし、ぬいぐるみの件などはよかれと思って行動したのだろうから、こちらも心苦しい。癇癪を起こして泣き続ける息子を、せめて新生児が寝ている間はたくさん抱きしめてあげることにした。寂しかったよね、突然赤ちゃんが家にやってきて混乱してるよね。頑張れ、頑張れ息子。

 

 ……産後5日目。

 息子の赤ちゃん返りが嘘のように収まる。もう妹の存在に慣れてくれたらしい(早っ!)。人生の先輩らしく平然としている長女のおかげだろうか。おお、いつものように2人でブロック遊びをしている……。

 かくして、辻堂家に平和が訪れる。

  

 ……産後6日目。

 自宅のリビングでブリッジをする。ええ、私が。4月から幼稚園の体操クラブに通い始めた長女にお手本を見せてあげたくて、妊娠中からうずうずしていたのだ(産後1週間も経たずにやることではない)。それにしても、肩や背中や脚を思う存分伸ばせるのって、なんて気持ちがいいんだろう!

「赤ちゃんがお腹から出てきたら、また抱っこやおんぶができるようになるよ」という前述の声かけの続きには、「走ったりスキップしたりできるし、ブリッジもでんぐり返しも鉄棒もトランポリンもできるよ!」の台詞を大抵セットでくっつけていた。つまり近いうちに、でんぐり返しや鉄棒やトランポリンも一緒にやってあげなければならない、ということ。長女は目を輝かせて期待してくれているけれど……まあ、さすがにあと1、2か月は我慢するか。

 

 ……という調子で元気に日々を過ごし、今に至る。

 前回のエッセイで出産が無事に終わることを祈っていた1か月前の私には、おかげさまでなんとかなりましたよ、と報告したい。

 まず、無痛分娩は素晴らしい。あの凄絶な出産の痛みをこれほど軽減できるなんて、麻酔というのはまったく人類の叡智の極みである。「痛みがない状態がゼロ、考えうる限り最大の痛みが10とすると、どこから麻酔を入れたいですか?」「うーん、6くらいかな……」「では4になったら教えてください!」という助産師さんとの会話には内心慌てたけれど(私の主観!? やっぱりそこは自己判断なんだ!? と)、過去の出産経験を生かして、最適のタイミングで麻酔を開始してもらうことができたらしい。おかげで生まれる30分前まではまったく痛みのない状態だった(だからこそ、分娩台の上で呑気にメールチェックなどをしていたわけで)。最後はお産が一気に進んだためか、麻酔追加のお願いが間に合わずになかなか痛い思いをしたものの、それでも自然分娩の身体を引き裂かれるような苦痛に比べれば10分の1程度である。すごいすごい。本当にすごい。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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