辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第6回「オリンピックと情報リテラシー」

辻堂ホームズ子育て事件簿
いよいよ開催された東京五輪。
スポーツ好きな辻堂家では
親子テレビ争奪戦が勃発!?

 そこで、今度は最初の検索ワードを見直してみることにした。例えば『子ども』『テレビ』『いい影響』『研究』。今度は検索に引っかかるページの様相ががらりと変わってくる。トップに表示されたサイトのうちのひとつに、Early  Window Projectという、番組タイプ別に就学期までの認知発達への影響を測定した研究に言及しているものがあった。それによると、「2歳時点の子ども向け情報・教育番組の視聴量は3歳時点の言語発達の高さや就学準備力の成績の高さを予測できる」ことや「2〜4歳時点のアニメ番組と一般向け番組の視聴量は、後の成績の低さを予測させる傾向が見られた」こと、つまり番組の内容によってまったく逆の影響が現れたことが示されていた。

 上記を総括すると、子育て家庭におけるテレビとの理想の付き合い方のイメージが、少し変わってくる。要は、さまざまな方向からバランスよく、良質な刺激を与えに与えまくればいいのだ。親がしっかり話しかけ、子どもの訴えに耳を傾ける。絵本を読み聞かせする。外に連れていき、思い切り走り回らせる。そして、子ども向けの良質なテレビ番組を見せ、親との関わりだけでは得られない経験もしてもらう。実はそのどれもが立派に、「良質な刺激」なのである。

 そんな結論にようやく辿りついて、ちょっとだけ、心のもやもやが晴れた。オリンピック期間はさすがにテレビをつけすぎだったけれど、普段の自分の子育てがまるっきり間違っていたということではなさそうだ、と。

 今回のことで、改めて思った。IT全盛時代を生きるのは難しい。検索の仕方ひとつ取っても、自分がどんなキーワードを選ぶかで、得られる情報がまったく変わってしまう。なるべくバイアスのかかっていない、中立的なキーワードを。もしくは、手間はかかるけれど、正反対の仮説を立てて二度、キーワードを変えて検索を。さらに信頼できる情報かどうかを、研究結果の引用があるかなどの観点からチェック。SNSや動画配信サイトで一般人が簡単に意見を発信できるようになっていることを踏まえると、思い込みに陥らず、広い視野を保ちながら物事の全体像を捉えることの難易度が、相当高くなっている時代のように思える。こんなことを書いているけれど、私だって、常に客観的な視点で情報収集できているかどうかは自信がない。コロナワクチン。フェイクニュース。政策批判。ぱっと見た情報を鵜呑みにせず、ひとつの事象や問題に対するさまざまな見方を学ばなければならない局面は、今の社会ではしょっちゅう訪れる。

 これからの時代を生きていく自分の子どもたちには、情報リテラシーについてしっかりと教えていきたい。いや、もしかすると、平成生まれの私以上に生粋のデジタルネイティブである令和生まれの彼らは、心配しなくても、そういう能力を当たり前のように身につけていくのかもしれないけれど……。

 オリンピックから派生して、そんな小難しいことを考えていた今日この頃なのであった。

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

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