特別インタビュー 武田綾乃 「響け!ユーフォニアム」を語る
どのキャラにも主役級のパワーがある
小説丸
「ユーフォニアム」シリーズは、どのキャラクターにも立体的な魅力があって、その人間関係に引き込まれました。
武田
キャラクターは最初の段階でしっかり作り込むほうです。この子はどういう性質を持っていて、演奏のレベルはどれくらいか、といったパラメーターを作って、その基準に沿って物語に入れ込んでいます。
小説丸
「パラメーター」。
武田
はい。RPGゲームなどでは、そのキャラの経験値やスキル、HPなどが数字で表わされますよね。あれを小説のキャラクターにも応用して、一人ひとりのキャラのパラメーターを作っています。
小説丸
はじめて聞きました! 道理でそれぞれキャラが立っているわけです。
武田
もうひとつのアプローチとして、キャラを2人1組のペアにして、違いを強調させて作ることも多いですね。
小説丸
ペアにするとは?
武田
たとえば、主人公の久美子は流されやすく調和を大切にするタイプです。じゃあその親友であるトランペット担当の麗奈は、久美子とは対照的に強気で自分にも他人にも厳しい性格、というようにペアで対比させるやり方ですね。
小説丸
たしかに、久美子と麗奈のほかにも、仲良し2人組のやり取りがとても楽しかったです。
武田
はい。吹奏楽部は人数が多いので、終盤はいかにキャラをかぶらせないかという苦労もありました。
小説丸
どの子も主人公になれそうなキャラの濃さでした。
武田
書き始める直前まで、本当は麗奈を主人公にするつもりだったんです。
小説丸
えぇ! それも読んでみたい……。でも、まったく違う作品になっていそうですね。
武田
はい。麗奈のように天才肌でかつ努力家、という子を真ん中に置いて展開していくと、どうしてもそれが当たり前の基準のようになってしまうんですね。でも、本を手に取ってくれた10代の子たちが読んだときに、これが普通なんだと思われると……。
小説丸
あぁ……。
武田
そうなんです(笑)。読んでいて息苦しくなってしまうかなって。そう考えるとやっぱり久美子のような等身大の、どこにでもいそうな女の子が主人公としてのバランスがよかった。結果的には久美子を主人公にして良かったと思っています。
小説丸
人によって、「推しキャラ」ができそうですよね。
武田
SNSでもいろんな意見をいただくんですよ。「この子をこんなふうに書かないでほしかった」とか、「先生にはこのキャラの結末を最後まで書く義務があります」とか(笑)。
小説丸
おお、熱いですね……!
武田
ただ、それらはすごく入れ込んで読んでくれたことの裏返しだと思っているので、素直にありがたいですね。読者の頭の中で既にそれぞれのキャラクター像が出来上がっていて、登場人物たちが自由に生きているのだと思うと嬉しいです。
小説丸
要望には応えたい?
武田
応えたい気持ちもありますが、キャラの全てを作家が書いたほうがいいのか、それともここから先は読者に委ねるべきか。その境界線を探りながら書いた作品でもありますね。