【結果発表!】清純派から小悪魔まで! 純文学版“美少女”図鑑

可憐な美少女、妖艶な美少女、儚げな美少女……。世の中にはさまざまなタイプの“美少女”がいます。今回はそんな“美少女”にスポットを当て、昭和文芸を中心とする純文学作品に登場する選りすぐりの美少女ヒロイン10名を、その外見や性格とともにご紹介します!

透明感のある女性、ちょっと影のある女性、妖艶な女性……。女優やアイドルをひと目見てもその美しさ・可愛さが十人十色であるように、世の中にはさまざまなタイプの美少女がいます。

そして、それはもちろんフィクションの中でも同じです。今回は、昭和文芸を中心とする純文学作品に登場するさまざまな“美少女”ヒロインにスポットを当て、選りすぐりのヒロイン10名を、その外見や性格とともにご紹介します。

また、記事の最後では、読者投票により選ばれたヒロインのイラストがついに公開! Twitterのフォロワー数12,000人を誇る人気イラストレーター・ざきよしちゃん(@mihorinxza)さんが描いたヒロインは、一体誰なのか…あれこれ想像を膨らませながらお読みください!

1.稀代の悪女! 妖婦「ナオミ」――谷崎潤一郎『痴人の愛』

痴人の愛

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痴人の愛

【あらすじ】
会社員の譲治はある日、浅草のカフェでナオミという美しい容貌の少女に出会う。ナオミに一目惚れした譲治は彼女を引き取り、洋館で2人暮らしを始める。
譲治はナオミに教育や作法を教えようとするが、ナオミはなかなか思い通りにはならない。他の男たちと密会を始めたナオミを一度は追い出したものの、譲治はナオミが忘れられず、呆れ果てつつ彼女に全面降伏してしまう。

最初にご紹介するのは、「魔性の女」の代名詞とも言える『痴人の愛』のヒロイン・ナオミ。ナオミは15歳のとき、浅草のカフェで給仕をしていたところを会社員である譲治に見初められます。譲治と出会った頃のナオミは、

顔色なども少し青みを帯びていて、譬えばこう、無色透明な板ガラスを何枚も重ねたような、深く沈んだ色合をしていて、健康そうではありませんでした。

と描写されているとおり、決して美少女ではありませんでした。
ところが、譲治に引き取られ、何不自由ない生活を送り始めると、しだいに美しさや派手さに磨きがかかっていきます。もともとのハーフのような顔立ちも相まって、ナオミは歩くだけで人々から振り返られるような女に成長していきました。

彼女の姿は、一箇の生きた大輪の花のように美しく、「こうして御覧、ああして御覧」と云いながら、私は彼女を抱き起したり、倒したり、腰かけさせたり、歩かせたりして、何時間でも眺めていました。

自らの美しさに自信を持ったナオミは、やがてその勝ち気さやわがままさを開花させ始めます。

私とナオミとはその頃しばしば兵隊将棋やトランプをして遊びましたが、本気でやれば私の方が勝てる訳だのに、成るべく彼女を勝たせるようにしてやったので、次第に彼女は「勝負事では自分の方がずっと強者だ」と思い上って、(中略)「どう? 譲治さん、子供に負けて口惜しかないこと?―――もう駄目だわよ、何と云ったってあたしに抗やしないわよ。まあ、どうだろう、三十一にもなりながら、大の男がこんな事で十八の子供に負けるなんて」

ナオミは最終的に、譲治を完全に手玉に取ってしまいます。譲治はそんなナオミに手を焼き、呆れつつも、

浮気な奴だ、我が儘な奴だと思えば思うほど、一層可愛さが増して来て、彼女の罠に陥ってしまう

……と、彼女の悪魔のような魅力に取り憑かれ、自ら破滅させられる道を選んでしまうのです。

(関連記事:谷崎潤一郎作品で知る、“女王様”学入門【文学恋愛講座#3】

2. 美少女の正体は金魚? 「あたい」――室生犀星『蜜のあわれ』

蜜のあはれ

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蜜のあわれ

【あらすじ】
赤い金魚「あたい」と、その飼い主である70歳の老人「おじさま」の奇妙な暮らしを描く幻想小説。普段は庭の池で泳いでいる「あたい」は、気が向くと若い女性の姿に変身して出歩いたり、庭の木々の間をふわふわ飛んでいったりと自由気ままに生活している。

室生犀星『蜜のあわれ』は、ヒロインが金魚という一風変わった幻想小説です。
ヒロインの「あたい」は老人が住む家の庭を泳ぐ金魚ですが、時折、大きな目と美しい容姿を持つ少女の姿に変身して外を出歩き、老人を惑わせます。

「あたいね、おじさま、途中で思い出して丸ビルまで急に行ってみたのよ、お天気は上々だしね。」
「丸ビルまでか、驚いたやつだな、そんな派手な恰好をして。」
「此間からあたい、歯が痛い痛いって言っていたでしょう、だから雨がふるとこまると思って、七階のバトラー歯科医院まで思い切って行っちゃった。」

「あたい」は老人に、「いい考えがうかんだのよ、おじさんとあたいのことをね、こい人同士にして見たらどうかしら」と提案し、その代わりに5万円の生活費を要求するなど、なかなか小賢しく、小悪魔的なヒロインとして描かれています。

「おじさまのお腹のうえをちょろちょろ泳いでいってあげるし、あんよのふとももの上にも乗ってあげてもいいわ、お背中からのぼって髪の中にもぐりこんで、顔にも泳いでいって、おくちのところにしばらくとまっていてもいいのよ」

金魚にこう誘惑された老人は、

「判った、きみはえらい金魚だ、娼婦であるが心理学者でもある金魚だ」

と「あたい」を評します。終始ミステリアスで掴みどころのない「あたい」は、したたかでありながらもどこか儚い存在として描かれています。

3. 中年を惑わすニンフェット「ドロレス・ヘイズ」――ナボコフ『ロリータ』

ロリータ

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ろりーた

【あらすじ】
中年の文学者ハンバート・ハンバートは、少年時代のいまは亡き恋人・アナベルのことが忘れられずにいる。ハンバートは12歳の少女、ドロレス・ヘイズにアナベルの面影を見出し、一目惚れをしてしまう……。

いまでは魅惑的な少女の代名詞のようにも使われる、“ロリータ”という言葉。この“ロリータ”こそ、中年の文学者であるハンバートが恋する12歳のあどけない少女、ドロレス・ヘイズです。
ハンバートは、ドロレス・ヘイズを初めて目にしたときの印象を、こう綴ります。

それはあのときと同じ子供だった。あのときと同じ、かよわくて、蜂蜜色をした肩、あのときと同じ、絹のようになめらかなあらわになった背中、あのときと同じ、栗毛色をした髪。胸のまわりに結んだ黒い水玉模様のカチーフが、老いた猿人のような私の目からは隠しているが、若い記憶の凝視に隠しおおせないのは、私がかつてあの永遠不滅の日に愛撫した幼い乳房だった。(中略)私は彼女の脇腹に小さな褐色のほくろがあるのを見つけた。

繰り返し出てくる「あのとき」という言葉からは、ハンバートがドロレス・ヘイズをかつて死別した恋人・アナベルに重ねていることが分かります。ハンバートは12歳のドロレス・ヘイズの幼さ、あどけなさに、かつての恋人の面影を見ているのです。

ドロレス・ヘイズはもともと親の言いつけを守らないようなわがまま娘でしたが、13歳を目前にして参加した夏のキャンプをきっかけに、より大胆に、魅惑的な少女になり、ハンバートを自ら誘惑します。ハンバートは9歳から14歳までの魅惑的な少女のことを“ニンフェット”と呼んでいましたが、幼さと妖艶さを持ち合わせるドロレス・ヘイズこそ、彼にとってまさに“ニンフェット”の代表なのです。

4. 小悪魔から聖女へと変貌する「康子」――三島由紀夫『禁色』

禁色

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禁色

【あらすじ】
心を許した女性に裏切られ続けてきた老作家の檜俊輔は、ある年の夏に彫刻のような美青年・南悠一に出会う。悠一は、女性を愛せない同性愛者だった。彼は悠一と共謀して、女たちへの復讐を企てようとする。

『禁色』の康子は、19歳の美少女。老作家の俊輔が寵愛し、伊豆の海まで追いかけてゆくほどの美女として描かれています。これまでの人生の中で女性に裏切られ続けた俊輔は、女性に憎しみを抱きながらも、美しく魅力的な若い女性がいるとつい心惹かれてしまうのです。康子はまさに、そんな魅惑的な美少女でした。

康子が腰を下ろしてゐるのは、籐の寝椅子にながながと伸ばした俊輔の毛布に包まれた足の上である。それは重かつた。(中略)老いて脆くなった膝蓋骨は、少女の温かい肉の重みに永く耐へてゐることはおぼつかない。(中略)
「どうも膝が痛いんだよ、康子ちやん。足を今横のはうへ退けるからそこへ掛けておくれ」
康子は一瞬生真面目な目のいろで、気づかはしげに俊輔の顔を眺めた。俊輔は笑つてゐた。康子は彼を蔑んだ。

ここでの康子はあくまで老人を惑わす若い美女として描かれていますが、物語が進むにつれ、同性愛者の青年・悠一の妻となった康子は、堂々とした聖母のような女性へと変貌を遂げてゆきます。

5. 文学を志すハイカラなインテリ美女「芳子」――田山花袋『蒲団』

蒲団

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蒲団

【あらすじ】
妻子ある作家・竹中時雄のもとに、芳子という女学生が時雄を慕って弟子入りしてくる。時雄は密かに芳子に心惹かれてゆくが、芳子の恋人である秀夫も芳子を追って上京し……。

ヒロインが使っていた蒲団に主人公が顔を押し付け、その匂いを嗅ぐ――という衝撃的な結末で有名な田山花袋の『蒲団』
作家である主人公・時雄のもとに弟子として入門してきたヒロイン・芳子は、

どうせ文学を遣ろうというような女だから、不容色ぶきりょうに相違ない

という時雄の予想を裏切る美人でした。時雄は妻子のある身でありながら、そんな芳子に淡い恋心を抱きます。

芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送った。

芳子は女学生としては身装が派手過ぎた。黄金の指環をはめて、流行を趁った美しい帯をしめて、すっきりとした立姿は、路傍の人目を惹くに十分であった。

華やかな声、艶やかな姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照!

これらの描写からも分かるように、時雄は文学を志すインテリでハイカラ、しかも美女という芳子に、すっかり心を奪われてしまいます。芳子は「先生! 先生!」と時雄を慕うばかりか、時折さりげなく彼のことを誘うような振る舞いをするなど、実に妖艶でミステリアスな女として書かれています。

6.能の腕前だけは天下一品、「お三重」――泉鏡花『歌行燈』

歌行燈

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歌行燈

【あらすじ】
能の宗家の甥である喜多八は、謡の師匠である宗山と腕比べを行った結果、相手を自殺に追い込んでしまったことで勘当される。流浪の旅を始めた喜多八がたまたま出会ったのは、宗山の娘であるお袖だった。喜多八は、二度と能をしないという禁令を破ってお袖に舞と謡を教え――。

泉鏡花の代表作である『歌行燈』は、2人の老人が桑名の駅に降り立つところから始まります。宿についた2人が芸者を呼ぶものの、その芸者は酌はできない、三味線は弾けない、踊りも踊れない……というとんだ芸音痴。ところが、唯一できるという能を舞わせてみて、老人たちは驚いてしまいます。

胸やや白き衣紋を透かして、濃い紫の細い包、袱紗ふくさ縮緬ちりめん飜然ひらりと飜ると、燭台に照って、颯と輝く、銀の地の、ああ、白魚の指に重そうな、一本の舞扇。
晃然きらりとあるのを押頂くよう、前髪を掛けて、扇をその、玉簪の如く額に当てたを、そのまま折目高にきりきりと、月の出汐の波の影、静に照々と開くとともに、顔を隠して、反らした指のも、両方親骨にちらりと白い。

この、世にも美しい能を舞う芸者こそがお三重。お三重の舞を見て老人たちが驚いた理由は、彼女がいまは亡き能の師匠である宗山の娘・お袖であることに気づいたからでした。彼女はなんの取り柄もないものの、能を舞うときにだけ人が変わったように美しく、魅力的になる少女として描かれています。

7. 勝ち気な村の女王様、「美登利」――樋口一葉『たけくらべ』

たけくらべ

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たけくらべ

【あらすじ】
吉原近くの大音寺前を舞台に、吉原の廊に住む14歳の少女・美登利と寺の息子・信如のぶゆきとの淡い恋や、高利貸しの息子・正太郎を中心とする勢力争いなど、東京の子どもたちの生活がいきいきと描かれる。

『たけくらべ』に登場する美登利は、売れっ子の遊女を姉に持つ、お金持ちの美少女です。

生国は紀州、言葉のいさゝか訛れるも可愛く、第一は切れ離れよき気性を喜ばぬ人なし

という描写からも分かるように、美登利はそのサバサバとした性格で誰からも慕われています。
大勢の友達のおもちゃを買ってやったり、知人の店のおもちゃの売れ残りを買い占めたりといった派手な金遣いと持ち前の気の強さが目立ち、近所の子どもたちにとっては女王様のような存在でもありました。

しかし、遊女になるための準備をしなければならなくなった美登利はやがて、自分が他の子どもとは違う運命の中にいることを悟り、近所の子どもたちと遊ばなくなってしまいます。髪を美しく結った姿を近所の男の子に見られ、「よく似合うね、いつ結ったの?」と無邪気に聞かれても

私は厭やでしようが無い

……と答えるなど、美登利は美しい容姿とカリスマ性を持ちながらも、自分の運命に逆らえず苦悩する少女として描かれています。

8. 思春期特有の自意識に揺れる「私」――太宰治『女生徒』

女生徒

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女生徒

【あらすじ】
14歳の多感な女生徒「私」が朝起きてから寝るまでの1日を、女生徒による独白という形で描く。

太宰治の『女生徒』は、その名の通り、ある女生徒(「私」)の他愛ない1日を綴った日記のような短編小説です。
14歳のヒロイン「私」は、思春期らしいみずみずしい感性で、草むしりや通学、学校の授業といった日常の出来事の一つひとつに一喜一憂します。特徴的なのは、文章の端々に過剰なまでの自意識が見え隠れするところです。

朝の私は一ばん醜い。両方の脚が、くたくたに疲れて、そうして、もう、何もしたくない。熟睡していないせいかしら。朝は健康だなんて、あれは嘘。朝は灰色。いつもいつも同じ。一ばん虚無だ。朝の寝床の中で、私はいつも厭世的だ。

自分のからだのほの白さが、わざと見ないのだが、それでも、ぼんやり感じられ、視野のどこかに、ちゃんとはいっている。なお、黙っていると、小さい時の白さと違うように思われて来る。いたたまらない。肉体が、自分の気持と関係なく、ひとりでに成長して行くのが、たまらなく、困惑する。(中略)いつまでも、お人形みたいなからだでいたい。

作中で外見の特徴はあまり描写されないものの、美術の先生から絵のモデルを頼まれたりしている「私」は、おそらく美少女です。「ほんとうに私は、どれが本当の自分だかわからない」という言葉からも、子どもの自分と大人の自分との間で揺れる、ロマンチストで厭世的な10代の少女の姿が見えてきます。

9. 一途な愛を捧げる美女「エリス」――森鴎外『舞姫』

舞姫

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舞姫

【あらすじ】
官吏・太田豊太郎は留学先のドイツで美少女エリスに出会い、やがて彼女と交際するようになるが、それがきっかけで職を失ってしまう。友人である相沢の紹介で新たな職を得られたものの、その際にエリスと別れる約束をした豊太郎は、出世とエリスへの愛情のどちらを選ぶべきか悩み暮れ……。

森鴎外の代表作である『舞姫』。主人公・豊太郎は、路頭に迷って泣いていたヒロイン・エリスに手を差し伸べたことがきっかけで、やがてエリスと恋に落ち、同棲するようになります。

豊太郎と出会ったときのエリスの外見は、こんな風に描写されています。

乳の如き色の顔は燈火に映じて微紅をしたり。手足のかぼそくたをやかなるは、貧家の女に似ず。

被りし巾を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたるおもて、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。

髪はブロンド、服は汚れておらず、足音に驚いて振り返った表情は、豊太郎に詩人の筆がないために描写できないほどだった――。つまり、言い表せないくらい美しかった、ということでしょう。

己の出世を選んだ豊太郎に捨てられてしまうという結末から「かわいそうなヒロイン」として語られることの多いエリスですが、豊太郎に字を習って自ら手紙を書いたり、豊太郎が大臣に会う日には甲斐甲斐しくコートやネクタイを着せてやったりと、意外にアクティブで、姉御肌な一面もあるのです。

10. 究極のヤンデレヒロイン「夜長姫」――坂口安吾『夜長姫と耳男』

夜長姫

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夜長姫

【あらすじ】
飛騨随一と言われる匠の弟子である20歳の青年・耳男みみおは、13歳の夜長姫よながひめの護身仏を彫るよう長者から命じられる。その大きな耳を夜長姫に馬鹿にされた耳男は逆上し、仏像の代わりに恐ろしい化け物の像を彫ることを決意するが……。

坂口安吾の『夜長姫と耳男』は、13歳の夜長姫の仏像を彫ることを依頼された匠・耳男が、姫によって運命を狂わされてゆく短編小説です。夜長の里の長者のひとり娘である夜長姫は、

一夜ごとに二握りの黄金を百夜にかけてしぼらせ、したたる露をあつめて産湯をつかわせた

と言われており、その露が染みたため、姫の体は生まれながらに光りかがやき、黄金の香りがするという噂でした。

物語の半ばで、長者の奴隷である機織りの娘・江奈古えなこを逆上させた耳男は、江奈古に片耳を切り落とされてしまいます。長者は非礼を詫び、耳男に江奈古の首をはねるよう命じますが、耳男は「虫ケラに耳を噛まれただけだ」とそれを断ります。
すると、そのやりとりを聞いていた夜長姫が現れ、こう言うのです。

「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ」

言われるがまま、耳男のもう片方の耳を切り落とす江奈古。夜長姫は、冴えた無邪気な笑顔でその様子を見守るのでした……。

村で疫病が流行ると「今日も死んだ人があるのよ」とニコニコ喜ぶ夜長姫は、ヤンデレと呼ぶのもためらわれるほど、無邪気さの裏に底知れない残酷さを持っています。死の間際に、夜長姫が耳男に言い遺した

「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ」

という言葉は、彼女の生き様を象徴するかのようなひと言です。

【結果発表】10人のヒロインの中から選ばれた“美少女”は…「夜長姫」

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イラスト/ざきよしちゃん(@mihorinxza)

10人のヒロインの中で投票1位(※)に輝いたのは、究極のヤンデレヒロイン「夜長姫」(坂口安吾『夜長姫と耳男』)でした!

投票いただいたみなさま、ありがとうございました!

※2018年6月13日時点での投票結果

初出:P+D MAGAZINE(2018/06/10)

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