沢木耕太郎が選ぶ九編を収録『山本周五郎名品館Ⅰ おたふく』
膨大な量の短編を残した作家・山本周五郎。いまも読み続けられている作品群のなかから、沢木耕太郎が選んだ傑作を収録した短編集です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
山本周五郎名品館Ⅰ おたふく
山本 周五郎 著
沢木 耕太郎 編
文春文庫
850円+税
集団に属さない「意地」をつらぬいた編者の熱い解説
山本周五郎という筆名は、十三歳で奉公に出た質屋の店主の名前で、本名は清水
周五郎の小説には登場人物へのあたたかな
生涯膨大な数の短編を書いた周五郎の作品群から、沢木耕太郎が選んだ九編が第一巻『おたふく』に収録された。第二巻『裏の木戸はあいている』にも九編。後続の第三巻、第四巻は六月、七月に刊行される。
沢木耕太郎は、ルポルタージュやドキュメントで「ニュー・ジャーナリストの旗手」としてデビューし、『キャパの十字架』『キャパへの追走』が評価された。七十歳になった人気作家だが、一巻には二十五ページ、二巻には二十三ページにわたる熱烈解説エッセイを書いている。周五郎は昭和十八年(四十歳)、『日本婦道記』が第十七回直木賞を受賞と決定したが、辞退した。後にも先にも直木賞を辞退した作家は山本周五郎だけである。周五郎は「
短編集だから一編を三十分ほどで読める。第一巻の「おさん」を通勤電車で読みふけるうち、夢中になって下車駅(国立)を通りすぎて、つぎの立川駅まで行ってしまったことを白状しておこう。
(週刊ポスト 2018年6.22号より)
初出:P+D MAGAZINE(2018/09/09)