『消滅世界』(村田沙耶香)が描く社会の未来とは?
ディストピアを描いた小説と評されることも多い、未来社会を描いた1作。その創作の背景とは?著者にインタビュー。
【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY】
話題の著者に訊きました!
村田沙耶香さん
SAYAKA MURATA
1979年千葉県生まれ。2003年「授乳」で群像新人文学賞優秀作を受賞してデビュー。’09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、’13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞した。エッセイ集に『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』がある。
もしも家族とは違う
システムで繁殖できる
体や技術があったと
したら―私たちは
どう生きていくだろう
セックスも家族も
もう要らない!
少子化が止まらない
私たちの社会の未来を
鮮烈に描いた衝撃作
『消滅世界』
河出書房新社 1728円
男女が愛し合い、結婚をして性行為をした結果、子供が生まれる―私たちが当たり前に考えているそれは、もはや 「昔」の話だった。両親の性行為で生まれた雨音が住む世界の「正しい」性は、女性がパートナーから人工授精を受けて出産をする。セックスは世界からなくなりつつあるのだ。さらに実験都市・千葉では、「家族」ではなく「楽園システム」で人類が繁殖していた。
夫婦の間のセックスレスが社会問題のようにいわれるが、『消滅世界』で描かれているのはその先の未来で、夫婦の間のセックスは「近親相姦」とタブー視され、子供は人工授精でつくるのが当たり前という世界だ。
「書き始めるときは、セックスが消えつつある世界でセックスしているイメージだけがありました。セックスがなくなっても繁殖できる、そういう科学技術のある世界で、セックスのことを全然知らない人が、本や古い文献を読みながら試みているへんてこな光景が浮かんで」
『消滅世界』の前に書いた短編(「清潔な結婚」)で、婚活サイトで知り合い、セクシャルなことを一切しない約束で結婚した夫婦を描いたとき、読者から「共感する」という感想をもらうことが割合多かったそうだ。
「思ったよりも突拍子もないことじゃないことなのかな、と。だったら、だんだんとそうなりつつある、みんながリアルだと感じるもののさらに先を行く世界に、リアリズムのまま主人公を置いてみたらどうなるだろうと思ったんです」
書評では「ディストピア(・ユートピア=理想郷・の逆)小説」と書かれるが、自分では「ユートピア」のつもりで書いたという。
「私は今36才で、友達には子供ができなくて不妊治療をする人や、子供がほしくて、とにかく結婚したほうがいいか、 卵子を保存したほうがいいのか悩む人もいます。もし、そういう苦しみのない世界があったら、家族とは違うシステムで繁殖できる体や技術があったとして、まっさらな状態からやり直すとしたら、私たちはどういう繁殖のしかたを選んで生きていくだろう、と創造した世界です。書きながら、技術という意味ではすでに自分たちはそういう世界にいることも考えていました」
村田さんの小さいときの口癖は「本当の本当」で、本当のことはなんだろうと考える子供だった。
「うちは貧乏なのに、どうして親は私にご飯を食べさせてくれたり寝床を与えてくれたりするんだろうって不思議でした。家族だからだよ、ってふんわり納得させられそうになるけど、その奥にある本当のことを知りたかったですね」
デビューして10年以上たつが、今も週に3回、コンビニのバイトを続けている。
「家の中にずっといると、空想世界に閉じこもってしまって小説という現実的な行為になかなか向き合えず、小説が全然進まないんです。『土用の丑』とか季節を感じるのもコンビニですし、人間のまともな世界というのをそこからもらっているという意味でも、自分にとって必要なんだと思います」
素顔を知るための
SEVEN’S
Question-2
Q1 最近読んで面白かった本は?
小川洋子さんの『琥珀のまたたき』。日本語の美しさを改めて感じました。
Q2 好きな映画は?
『ショー・ミー・ラヴ』。スウェーデンの映画です。
Q3 最近気になる出来事は?
バイトしているコンビニで、長年、レジを打ってきたお客さんの何人かが妊娠されていて、おめでとうと伝えることもできず、なんとなく気になっています。友達も出産ラッシュです。
Q4 1日のスケジュールは?
週の前半は朝2時に起きて6時まで小説を書き、8時から13時までコンビニで働いて、午後は喫茶店で小説を書き、8時か9時に寝ます。後半は普通に夜型の生活です。
Q5 結婚したい気持ちはある?
まったくしたくないわけではないけど、あまり考えていません。20代前半でつきあった恋人たちが結婚願望が 強くて、白いエプロンをつけて毎日ご飯をつくり「おかえり」と言ってほしいみたいな感じで。強制的にそれをやるうちにこの地獄のようなことが永遠に24時 間続くかと思うとものすごく恐ろしくて、絶対にしたくないと思っていたんですが、だんだん緩和されてきました(笑い)。
(取材・文/佐久間文子)
(撮影/三島正)
(女性セブン2016年2月11日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/02/11)