小泉信一『裏昭和史探検 風俗、未確認生物、UFO…』/ストリップ劇場、ビニール本に愛人バンク……なつかしい昭和の大衆史!
昭和を生きた男性なら、きっとどこかで目にしたことがある、いまは消えゆく性風俗産業。性が抑圧されているからこそ、それを求める人がいて、商売にする人がいました。飽くなき欲望を感じさせる昭和の大衆文化を、“ウラ”からのぞき見る一冊です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
香山リカ【精神科医】
裏昭和史探検 風俗、未確認生物、UFO…
小泉信一 著
朝日新聞出版
1300円+税
装丁/大石一雄
求めようとする人とそれを商売にしようとする人の欲望
ストリップ劇場、ロマンポルノ、ビニール本、のぞき部屋に愛人バンク。昭和生まれの男性ならどこかで目にしたり、あるいはそっと触れたこともある性風俗文化の数々も、いまはすっかり消えてしまった。
いや、性に対する興味がなくなったわけでは決してないとは思うが、いまはネットをのぞけば無料でリアルな動画が見られたり、出会い系アプリで恋愛相手が見つかったりする時代なのだ。また一方で世の中の規範意識も変わり、セクハラや性の搾取につながりやすい性風俗産業は急激に消えつつある。
それが時代の流れなのだと言えばそれまでだが、「いやちょっと待って。往時をなつかしむくらいはいいだろう」というオジサンたちも今や少数派ながら生息している。本書の著者もそのひとり。しかも、朝日新聞大衆文化担当編集委員という肩書で、仕事として消えゆく昭和の大衆史を追っているというのだから驚きだ。
私自身は女性だが、ケレン味たっぷりのテキ屋やエロスと笑いが入り混じるピンク看板の写真などどれも興味深くながめた。そして、おおっぴらには性が抑圧されているからこそ、それを求めようとする人と商売にしようとする人との飽くなき欲望に圧倒された。
ただ、そのあとの感じ方には若干の男女差があるようだ。文末、著者と末井昭氏の対談でふたりは「(対象となる女性に)無理やりというのはまったくなかった」「たぶん昭和のエロは愛があった」と意気投合しているが、それには「ホントかな?」と疑問を持つ。夜の風俗で働く女性たちの中には、高いプロ意識を持ちながらも暴力や蔑視で泣いた人もいるだろう。
いやいや、こういう読み方をすることじたい野暮であり、ここはただこのアヤシくも人間くさいこのウラ文化にあたたかい視線を送ればよいのかもしれない。そして世の女性たちには、夫が本書を買って家に持ち帰っても決して怒らないであげてほしい、ともお願いしたいのである。
(週刊ポスト 2019年5.17/24号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/11/04)