【著者インタビュー】南 伸坊『私のイラストレーション史』/水木しげる、和田誠……1960~70年代を彩った綺羅星のごとき才能
伝説の漫画雑誌『ガロ』編集者であり、イラストレーターでもある著者が目撃してきた、1960~70年代の才能あふれるイラストレーターや漫画家、デザイナーたちについて綴った自伝的エッセイ。
【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】
イラストレーションという言葉が輝いていたあの頃、綺羅星のごとき才能を間近で見た著者が綴った自伝エッセイ
『私のイラストレーション史』
亜紀書房 1944円
〈編集者として、イラストレーターとして年齢を重ねてきて、いま思うのは、作品のもっている力というものだった。ある雑誌やあるジャンルに才能があつまってくるのは、かつて、そこにすぐれた作品があったからだった〉。南さんが中学2年生の時に出会った水木しげるさんの『河童の三平』や和田誠さんの作品のこと、高校、浪人、美学校時代や『ガロ』編集者の頃に出会った綺羅星の如き才能を持った人たちとのエピソードをたっぷりと綴った自伝エッセイ。文章はもちろん装丁、装画、本文中のイラストレーションもすべて南さんが手掛けている。
南 伸坊
●MINAMI SHINBO 1947年生まれ。東京都立工芸高等学校デザイン科卒業。美学校で、木村恒久さん、赤瀬川原平さんの教場に学ぶ。伝説の漫画雑誌『ガロ』の編集長を経て、イラストレーター・装丁デザイナー・エッセイスト。著書に『ぼくのコドモ時間』『笑う茶碗』『装丁/南伸坊』『本人伝説』『おじいさんになったね』『くろちゃんとツマと私』などがある。
ぼくにとっては、雑誌が先生というか学校でした
南さん自身が同時代的に目撃してきた、’60、’70年代を中心にした日本のイラストレーション史である。
「ぼくは和田誠さんに憧れてこの仕事をするようになったんですけど、今あるイラストレーターの立場の基本をつくったのが和田さんです。そのことをちゃんと知ってほしいという気持ちがまずありましたね。どうしてイラストレーターになったのか考えてたら子供の時から書くことになり、まるで自伝みたいなイラストレーション史になっちゃった」
カツーン(1コマ漫画)のようだった「ピース」の広告や、横尾忠則を表紙に起用した『話の特集』創刊号。時代を画するイラストレーションの数々を、南さん自身が模写して、絵の内側に潜り込むようにしてわかりやすく解説する。
「自分は歴史を書くような立場じゃないと思ってたんですが、ぼくぐらいの年齢で振り返ってまとめる人もいないし、どんどん忘れられていってしまう。若い人が調べて書いたものにちょっとニュアンスが違うな、と感じることもあって、自分はこんなふうに見てきたという立場で書いてみようと思いました」
水木しげるの漫画や羽仁進の映画『不良少年』の独創的な新しさに、少年時代の南さんが興奮し、的確に評価しているのも印象に残る。
「ものすごく、それまでとは違ってたんですよ。子供の方が、理屈じゃなく、新しさをつかまえられるのかもしれないね」
子供の時にデザイナーになろうと思い、芸大進学をめざすが、試験はことごとく落ちた。にもかかわらず、無試験で入った美学校や、雑誌『ガロ』を出していた青林堂で、会いたかった人と出会うという不思議な巡り合わせになった。
生涯の師となる赤瀬川原平さんのほか、デザイナーの木村恒久や、作家の澁澤龍彦、
「ぼくにとっては、雑誌が先生というか学校でした。美学校は雑誌みたいで、青林堂は出版社というより学校みたいだった。授業中よりも放課後の感じの(笑い)」
素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1
Q1 最近読んで面白かった本は?
今村夏子の本。4冊読んだ。
Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
池田清彦、呉智英。
Q3 最近気になるニュースは?
いちばん最近だったら吉本興業の闇営業のやつですね。漫然と見てるだけだけど、さんざんテレビでやっているので。それほど大騒ぎすることかと一方で思いもしますけど、テレビの人たちも面白いからやってるんだよね。あの社長は記者会見をする能力はないみたいだけど、何かほかに社長に見合うだけの能力があるのかもしれない。まあお笑いのプロダクションがあんなに大きくなっちゃうのも間違いだと思う。
Q4 好きなテレビ・ラジオ番組は?
最近面白かったのは『きのう何食べた?』。夜はすごい早く寝るので録画して見ました。
Q5 趣味はなんですか?
路上観察みたいな写真を撮ること。みんなで路上観察をやるようになって始めたんじゃなく、姉貴が初めてのカメラ、オリンパス・ペンをプレゼントしてくれた中学生の頃からずっとやってますね。旅行に行っても、旅の写真がなくて、変な写真ばかりある。
Q6 運動はしていますか?
うちの奥さんが「健康のために」と言うのでジムに通うようになって、イチローがやっているという初動負荷トレーニングというのをやってます。
●取材・構成/佐久間文子
●撮影/政川慎治
(女性セブン 2019年8.22・29号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/03/22)