文学的「今日は何の日?」【3/23~3/29】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
3月23日から始まる1週間を見てみましょう。
3月23日
天正遣欧少年使節がローマ教皇グレゴリウス13世に拝謁
イエズス会司祭アレッサンドロ・ヴァリニャーノの発案で結成され、1582年に長崎から出港した、日本人少年4名の「天正遣欧少年使節」。出発から3年後の1585年3月23日、ローマで教皇グレゴリウス13世に拝謁、欧州諸国で歓待を受けます。ですが1590年に帰国した彼らを待っていたのは禁教令でした。村木嵐の松本清張賞受賞作『マルガリータ』は、この少年使節の一員で、ただ1人、帰国後に棄教を選択した千々石ミゲルの生涯を、彼の妻・珠の目を通して描きます。島原の乱の指導者・天草四郎をミゲルの子とする説を取り入れ、ミゲルはなぜ棄教したのか?の真実に迫る傑作歴史小説です。
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3月24日
作者の分身スティーヴン・ディーダラスが母と議論に
代表作『ユリシーズ』で文学史に名を刻むジェイムズ・ジョイス。のちにその『ユリシーズ』の主人公の1人となるスティーヴン・ディーダラスの、20歳までの半生を描いた小説『若い芸術家の肖像』において、3月24日の朝、スティーヴンは母メアリと聖母マリアについて議論を始めました。敬虔なカトリック教徒である母に対し、すでに信仰への関心を失っているスティーヴン。信仰からも、親しい友からも離れて、スティーヴンはどこへ向かうのでしょうか。「意識の流れ」の手法を取り入れ、若き芸術家スティーヴンの心象を描く本作の試みは、やがて大作『ユリシーズ』でさらに大きな実を結ぶことになるのです。
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3月25日
朝、目が覚めたら鼻が失踪していた! ロシアのナンセンス譚
『死せる魂』などで知られ、ロシア・リアリズム文学の祖とされる作家ニコライ・ゴーゴリの短編『鼻』において、この日、ペテルブルクで奇妙きてれつな事件がもちあがりました。理髪店を営むイワン・ヤーコウレヴィチの朝食のパンの中から、なんと人間の鼻が出てきたのです。彼はその鼻が毎週水曜と日曜にやってくる八等官コワリョーフのものだと気づきます。一方コワリョーフも、自分の鼻が失踪したので探してほしいと新聞広告を出そうとしますが、断られてしまい……。写実主義的タッチで描かれる、ブラックなナンセンス譚です。
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3月26日
本好きの2人をつないだ、満員電車での運命の出会い
恋愛小説の名手として定評のある村山由佳。そのデビュー作『天使の卵―エンジェルス・エッグ』において、3月26日金曜日、美大を目指す予備校生の一本槍歩太は、池袋に向かう満員電車の中でハインラインの『夏への扉』をバッグに入れた美しい女性、五堂春妃と遭遇し、強く心を惹かれます。やがて彼女が歩太の父を担当する精神科医であること、同じ高校の先輩であること、歩太のガールフレンド夏姫の姉であることがわかりますが、思いは止められず……。続編『天使の梯子 Angel’s Ladder』、『天使の柩』とスピンオフ作品『ヘヴンリー・ブルー』も生んだ人気作です。
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3月27日
松尾芭蕉が『奥の細道』の旅へ出発する
元禄2年3月27日、俳人・松尾芭蕉が門弟の河合曽良を伴い、奥州へ向けて旅立ちました。見送りの人々とともに船で千住まで隅田川を上り、そこでこの旅の最初の句として詠んだのが「行春や鳥啼魚の目ハ泪」です。ここで別れてみちのくへと歩を進める芭蕉と曽良を、人々は姿が見えなくなるまで見送ったようです。『奥の細道』には芭蕉が上陸した「千住」が隅田川の南側(荒川区・南千住)なのか、北側(足立区・北千住)なのかが明記されていないため、荒川区と足立区が「うちこそ出発の地」と主張しており、現在では隅田川の両岸に芭蕉の碑が建っています。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658071
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3月28日
ロバート・ウォルトンから姉マーガレットへの第二信
メアリー・シェリーの歴史的名作『フランケンシュタイン』において、この物語の語り手であるイギリス人探検家ロバート・ウォルトンは、17XX年3月28日にロシアのアルハンゲリスクから姉マーガレットに宛てて手紙を書き、自分に友がいないことを嘆きます。その4か月ほどのち、北極海に向かって船を進めていたウォルトンは、犬橇とともに氷塊に乗って流されていた男性を救助します。これこそ、人間の死体をつなぎ合わせて新たな生命を作り出すことに成功しながら、その男の怪物のように醜い姿に絶望して逃亡した、ヴィクター・フランケンシュタインその人だったのです……。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4102186514/
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3月29日
讒言により謀反の容疑をかけられた塩冶判官高貞、出雲に帰着
南北朝時代を描いた軍記物『太平記』によると、塩冶判官高貞の妻は美貌で知られ、室町幕府の将軍・足利尊氏の腹心である高師直から横恋慕されていました。好色な師直は女装して風呂を覗いたり、文人・吉田兼好に恋文を代筆させるなど執心しますが、きっぱりとはねつけられて逆上、尊氏に高貞謀反と讒言したのです。高貞は京を脱出、暦応2年3月29日、領国である出雲に帰り着きます。しかし妻と子がすでに自害したと知らされて絶望、自らも命を絶ちました。江戸時代の赤穂浪士事件を描いた歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』にも取り入れられた有名なエピソードですが、史実の裏付けはなく、創作であるとされています。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658056
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初出:P+D MAGAZINE(2020/03/23)