【著者インタビュー】新川帆立『元彼の遺言状』/2020年度の『このミステリーがすごい!』大賞作品の背景を語る

「名乗り出てきた容疑者たちが、犯人の座を争う」というまったく新しい形のミステリーで、見事『このミス』大賞を受賞した新川帆立氏にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

第19回『このミス』大賞を選考委員満場一致で受賞! 強烈キャラの女性弁護士が活躍する前代未聞の遺産相続ミステリー

『元彼の遺言状』

宝島社
1400円+税
装丁/菊池 祐 装画/丹地陽子

新川帆立

●しんかわ・ほたて 1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、民間企業に所属する弁護士として働きながら小説を執筆。『元彼の遺言状』(応募時タイトル「三つ前の彼」)で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー。最高位戦日本プロ麻雀協会のプロ雀士として公式戦に出場した経験も。「テストは得意で麻雀のプロテストは一発合格でした。でも、実戦はあまり強くありません……」。166㌢、AB型。

歴代の選評を読み込んで、大賞をとるための重要な五要素を見つけたんです

 海堂尊氏や中山七里氏などそうそうたるミステリーの書き手を輩出してきた『このミステリーがすごい!』大賞。2020年度、その栄冠に輝いたのは、新川帆立氏。『元彼の遺言状』は、奇妙な遺言状をめぐり、六十億とも言われる遺産の行方を追って曰くありげな人間関係が交錯する。
 次々と推理のフェーズが変わる展開も鮮やかだが、それ以上に、ヒロイン剣持麗子のキャラクターが華麗だ。二十八歳の美貌の弁護士は、気が強くて傲慢でお金が大好き。そのくせどこか憎めない。そんな麗子が、学生時代に三ヶ月だけつき合った森川栄治の訃報をメールで受け取ったことから、彼の相続問題に巻き込まれていく。
「設定が派手なので、それに見合う規格外の主人公を……と考えていったら、彼女のようになりました。麗子と同世代の男性読者からは『麗子が冒頭からめちゃ怖くて』という感想もありましたが、『週刊ポスト』の読者くらい人生経験が豊かな男性なら、このくらい生意気な女性もかわいいと思ってくださるのではないかなと思います(笑い)」

 創作のきっかけは、たわいないことだったという。
「もし過去につき合っていた人が亡くなったら悲しいかと考えると、悲しくないわけではないけれどお葬式に行くかは迷うし、微妙な関係性ですよね。実際に元彼から用もないのに連絡が来たことがあって、男性って不可解なことをするなとかえって興味を引かれたんです。そこを切り口にプロットを練り始めました」
 腐心したのは、ミステリーとしての新しさをどう出すか。ふと思いついたのが、逃げた犯人を探すのではなく、「名乗り出てきた容疑者たちが、犯人の座を争う」形にすることだった。
 栄治は、うつ病で静養中にインフルエンザにかかって急逝したと言われていたが、不可思議な遺書を遺していた。〈僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る〉。その一文に、殺人の可能性が示唆されている。
 死因に疑いを持つ栄治の幼なじみから依頼され、麗子は、遺産の分け前と真相を求めてひと肌脱ぐことに。
「ミステリー作家は、謎やトリックがまず浮かんで、それを軸にしてプロットを組み立てていく人が多いのではないでしょうか。でも私は最初に、テーマや設定を決めてしまったんですよね。そこから、なぜあのような遺言状になったのか、犯人は誰なのかという“謎”と対峙することになるんですが、自分が仕掛けておきながらいつまでも解けなくて(笑い)。どういうオチにしようと悩んで悩んで、思いついたときにはすでに締切の三週間前! そこからは必死でした」
 次々に現れる、森川一族とその関係者。彼らと栄治との関係性が見えてくるにつれ、動機になりそうな過去も浮かび上がってくる。さらに、畳みかけるような終盤のどんでん返し。新人離れした筆さばきで読ませるが、それは『このミス』大賞攻略の賜物らしい。
「去年も応募したのですが、箸にも棒にもかからなかったのがショックで。研究のために歴代の選評を片っ端から読みました。それで傾向と対策を練って重要な五要素を見つけたんです。第一にキャラ立ちしている主人公、第二にストーリーの華やかさ、第三に魅力的で牽引力のある謎、第四に設定や扱う素材の新しさ。ここまでクリアできていると、優秀賞や『隠し玉』と言われるあたりに引っかかり、第五の要素として根底に現代的なテーマを入れることまでできたら、大賞の可能性も出てきます」
 頭のキレのよさなど、新川さん自身が麗子と重なる部分は多い。
「年齢や弁護士であるとか、属性はかぶるんですが、性格はまるで違います。私はネアカというか楽観的な方だから、イヤな人間のじくじくしたところを書くのがどうも苦手なんです。イヤミス系がうまい女性作家さんを見習って私も書いてみたことがあるんですが、“女の敵は女”のようなどろどろした気持ちが詰め込めず全然怖くならなくて……。もともとミステリーで女性が添え物的に扱われるのに不満があったので、自分が書くのであれば、女性読者が憧れるような、自立した女性が成長していく物語にしようと思いました」

物語にどう緩急をつけるかが課題

 小さい頃から「ハリー・ポッター」シリーズを皮切りに、『ナルニア国物語』などファンタジーを愛読。
「でもミステリーも結構読んでいたんです。『シャーロック・ホームズ』シリーズやアガサ・クリスティーの作品は読み尽くしました。そういえば受賞作は、『赤毛同盟』を少し意識したかもしれません。表では派手な何かをしているけれど、狙いは別にあるという。本作では、緻密なプロットに基づいた筋肉質なストーリーで投稿してしまったので、受賞後に編集者さんとも話し合い、もう少し贅肉があってもいいねと、ひと息つけるような部分を加筆しました。物語にどう緩急をつけるかは、今後の自分の課題でもありますね」
 ちなみに、新川さんのプロフィールはかなり異色だ。東京大学大学院を卒業した年に司法試験に合格した才媛だが、司法修習生時代には麻雀のプロテストにも合格。公式戦に出場していたというから恐れ入る。
「高校では囲碁部で全国大会に出たりもしたのですが、途中から麻雀を覚えてハマり、大学に入ってからはほぼ青春を麻雀に捧げた感じです。ところが、若い女性というだけで、麻雀が打てると言っても信じてもらえない。それが悔しくて。プロ資格を取ったらあれこれ言われないだろうと」
 もっとも、そこから小説へと方向転換したわけではなく、十代から作家志望ではあったらしい。手に職的に士業に就いたのも、長期戦を覚悟してのこと。
「私自身が、大きな法律事務所で企業の取引を担当していたのは麗子と同じ。弁護士として働いていても裁判所に行ったことがないし、弁護士バッジもつけたことがないんです。その上、ハードワーク過ぎて執筆の時間も取れなかったり、身体を壊したりして、よけい『やりたいことは、いまやらねば』と思ったんです」
 夢に立ち戻り、小説教室に通い始めたことが現在につながっている。実はすでに続編を執筆中だとか。
「受賞作が無事刊行されたものの、売れなかったらと思うと落ち着かないんですよね。『次の玉あります!』と出せた方が気まずくない。なりゆき任せな部分もあるくせに、妙なところだけ計画的なんです(笑い)」

●構成/三浦天紗子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2021年1.29号より)

初出:P+D MAGAZINE(2021/02/06)

◎編集者コラム◎ 『超短編! 大どんでん返し』編/小学館文庫編集部
◎編集者コラム◎ 『TEN』楡 周平