本屋さんの中に『軍艦!?』ユニークに本を魅せる、【東京堂書店神保町店】-本屋さんへ行こう!~この本屋さんがおもしろい~
連載Vol.1!全国に1万3千件を超えるほどある本屋さんの個性はさまざま。今回は125年の歴史を持つ老舗の「東京堂書店神保町店」を紹介。カフェが併設されているということでも人気の本屋さんです。
全国に1万3千件を超えるほどある書店ですが、その個性は実にさまざまです。
そこには、本好きにはたまらない、書店独自の工夫や、訪れるだけで心躍るような仕掛けが隠れていることも。
そこにはきっと新たな発見があり、本と人との出逢いを結ぶ場所として、可能性は無限に広がります。
この連載では、毎回1軒の書店にフォーカスし、その魅力や奥深さ、書店員さんの素顔、知られざるエピソードなどについて紹介していきます。
一度は行ってみたい、行きつけにしたい、そんな書店と出会うきっかけにしてください!
良い本に、必ず出会える書店・東京堂書店神保町店
本の聖地、神保町。
そこで1890年に開業し、125年の歴史を持つ老舗が「東京堂書店神保町店」。
数多くの書店が軒を連ねる神保町という町にありながら、他のどの書店とも一線を画す、揺るぎない重厚な品揃えで存在感を放つ名店です。
「良い本を読みたいなら東京堂へ」。そういう声も多く聞かれ、本が好きな人から愛され続けている書店の代表格と言っても過言ではありません。
「欲しい本が必ず見つかる、そう言っていただく時が本当に嬉しいですね。」
そう語るのは、店長を務めて6年目となる河合靖さん。
店長の河合靖さん
「ウチ(東京堂)って、落ち着いた雰囲気でしょう。穏やかな時間が流れているんですよね。一回りすると、必ず欲しい本に出会える場所、なんて言われることもあるんです。お客様にはゆっくり過ごしていただけたら嬉しいですね。」
他店から移ってきたという河合さんならではの広い視野で、店長として、東京堂の個性を日々感じ、生かそうと努力しているそう。
変わらない信念は、
「どんな書店に勤めていようと、基本のキ、が一番大事。清掃、ハタキ掛け、店内の見回りなど、当たり前のことを、ちゃんとやる。検品の段階で、本を綺麗に扱う。これは、心がけていますね。」
基本を大切にしながらも、「これだけは他店には負けない」と言えるポイントがないと、勝てない、とも河合さんは言います。
「自信を持っておすすめできる“企画フェア”を、月に20本くらい実施しています。
出入り口付近や、エスカレーターを上がったところ、エレベーター前などの目立つスポットで、企画を展開します。企画が人気を呼べば、それを目当てに訪れてくれるお客様も増えるので、売り上げに大きく結びつく場合も多くて。ただ、失敗もありますよ(笑)」
過去には、“新生活応援フェア”と銘打って、ビジネス書や、マナー本などの実用書を並べたことがありましたが、神保町が生活の場ではないからなのか、大きな動きが見られなかったそう。
「ただ、驚いたことに、メインの企画ではなかった“裏の新生活フェア”が思わぬ人気になったんです。」
POPには麻雀パイをディスプレイ。
“新入社員諸君!残業しないで夜の街に繰り出そう!”
と大きく謳ったところ、これが人気を呼び、このコーナー目当てのお客さんも多数訪れるという結果に。
「スタッフみんなで知恵を絞って、どんな企画が喜ばれるのか、日々考えています。それが当たった時は、本当に嬉しいし、やりがいを感じますね。」
他店とは一線を画す品揃えで勝負
本の売り方、という点で、注目すべきは「軍艦」。
これが東京堂書店神保町店の”目玉”です。
それは、入り口を入ってすぐ、中央に位置する大きな平台のこと。
東京同書店さんの名物、『軍艦』
新刊本・話題本がぎっしりと並び、この書棚を一通り見るだけで、今、何が人気で、注目されているのか、人目でわかるようになっています。
「まずはココをチェックしてもらえたら、世の中の“今”を知ってもらえると思います。」
東京堂へ行ったら、まずは「軍艦」からチェックするのがおすすめの歩き方。
それから、河合店長の一押しなのが、「文庫」のエリアです。
河合店長イチオシ、文庫コーナー
「他店には負けないラインナップが揃っていると思いますし、出版社ごとではない並べ方をして、欲しい本が見つけやすいようにしています。」
細部に渡って、陳列に工夫が凝らされていることに驚きます。
そして、ほとんどの書店で見られる「POP」がほとんど無いことも、大きな特徴。
「本がPOPですから。」
河合さんはそう言います。
「単行本は基本、POPは付けません。ただ、文庫だけは、POPを使って、おすすめポイントをアピールしています。」
並べ方や見せ方へもポリシーが光ります。
「本屋は、発見の場でありたい。本の並べ方に工夫をして、出逢いを提供できるような店づくりを目指しています。」
そんなビジョンを持ちつつ、東京堂書店を支える店長として、河合さんが心底思っていることを伺うと、
「本屋は決して、偉くないんです。カリスマでもなければ、コンシェルジュでもない。お客様から聞いて教わることのほうが多いのです。偉そうにしないで、視野を広く持つことが、何より重要ではないかと思っていますね。」
謙虚な姿勢と、本の魅力を伝えるための弛まぬ努力が、老舗を支えているのだと感じる一言でした。
本を買ったらすぐに読める、カフェが人気
東京堂書店神保町店といえば、併設の「ペーパーバックカフェ」も人気を呼んでいます。
カフェができてから、客層の男女比が、9:1から7:3になったとのこと。
ロンドンの書店を参考に作られたという洗練された空間とメニューで、固定ファンを掴み、ランチタイムには満席状態になることがほとんどです。
「本を買ったらすぐに読みたい、というお客様のご要望にお応えして、カフェを作るに至りました。メニュー開発から行っているので、オリジナルのみです。人気メニューもたくさんありますよ」
テーブルにはコンセントがあるなど、その居心地の良さは抜群。
3月25日からは、3階の喫煙席は無くなり、その場所が新たに「東京堂アウトレット」コーナーとして生まれ変わります。
本が好きな人が望む、最高の時間の過ごし方を提供してくれるスペースとして進化を遂げるこのカフェも、「東京堂らしさ」のひとつとして、定着しているようです。
さらに、月に4~5本のイベントを開催していることも、人気の秘密。著名人や作家のトークショーやサイン会を行い、たくさんのファンの支持を集めています。
浅田次郎、百田尚樹、林真理子…錚々たる人気作家陣によるイベントには、100人を超える人が集まったこともあるそう。イベントの情報は、東京堂書店さんのTwitterでも随時、発信しているので、ぜひチェックしてみて下さい。
書店員としての醍醐味は“ふれあい”
「当たり前のことですけれど、売り場を歩くことはとても重要です。そして、本が乱れて置かれていないかなどをこまめにチェック。そして、お客様とすれ違うときにはニコッと微笑みかけるなど、笑顔を大切に。そうすると、お客様の方からも話しかけていただきやすくなると思うんですよね」
東京堂書店神保町店では、スタッフが全員、インカムとマイクを装着しているので、接客中にわからないことがあったり、緊急時などには、即座に連携をして対応することが可能なのだそう。
「お探しの本が見つからない方がいらしても、スタッフ全員で力を合わせれば必ず見つけます!」
こうした接客への真摯な取り組みも、東京堂書店神保町店が愛される秘訣なのかもしれません。どこかあたたかみのある、そしてこだわりに溢れた、唯一無二の書店。神保町で長年愛される名店だけに、知れば知るほど奥の深さを感じさせる魅力が溢れていました。
「これからも、多くの人にとって、発見の場でありたいと思います。」きっと、自分だけの一冊に巡り会えるに違いないでしょう。
河合店長の読書プロファイリング
ー好きな作家はいますか?
山口瞳、山本周五郎、松本清張。とにかく面白い。作品は全て読みました。
「第三の新人」など戦後派の作家も好きです。
ー初めてハマった青春の一冊はなんでしょうか?
『哀愁の町に霧が降るのだ』(上・下)椎名誠。
大好きで、何度も繰り返し読んだ本です。
他にも、『夢の砦』小林信彦、も、好きな作品です。
ーこだわりの書棚は?
「江戸・東京 食・酒を読む!!」
江戸の粋を感じさせる、食べ物や酒場をテーマに作品を集めた書棚。「私の好みの本を集めた棚でもあるのですが(笑)仕事帰りなどにふらりと立ち寄ってもらいたいコーナーです」
ー今イチオシの本はありますか?
山口瞳『血族』。まさに最高傑作だと思います。
店長の熱い想いがつまった「山口瞳」特設コーナー。好調な売れ行きを記録している
終わりに
東京堂書店・神保町の魅力はしっかりと届いたでしょうか?
ユニークな本の積み方や、カフェの併設など、みなさんが本を見つけるのにとてもよい環境が整っております。
是非一度、『東京堂書店・神保町店』へ足を運んでみてください。
「東京堂書店・神保町店」店舗詳細
店舗名 :東京堂書店神田神保町店
住所 :東京都千代田区神田神保町1丁目17
坪数 :300坪
電話 :03-3291-5181(代表)
営業時間:10:00~21:00 (日・祝は20:00まで)
※4/1より、カフェのみ営業時間18時まで
休日:年始(1/1,1/2)を除き無休
アクセス:地下鉄神保町駅より徒歩3分→MAP
東京堂書店・神保町店のHPはこちら>>
初出:P+D MAGAZINE(2016/02/27)