創立メンバーが語る、本屋大賞のこれまでとこれから

本屋大賞に設立時から関わっている三省堂書店営業企画室の内田さんへのインタビュー!本屋大賞の運営側にいるからこそ知っている裏話から、表には出ていない熱い情熱まで。「本屋大賞」という大イベントを100倍楽しめる情報をお届けします。

桜前線の北上とともに、全国の書店員、出版社の社員、そして何よりも全国の本好きが待ち望んでいるイベントが近づいています。そう、4月12日には「本屋大賞」が発表されます

【追記】第13回本屋大賞受賞作は宮下奈都さんの「羊と鋼の森」(文藝春秋)に決定しました。

候補にノミネートされるだけで売り上げが伸び、見事大賞に輝けば発行部数が5倍にもなるといいます。この影響力の高い賞の行方は、本好きならばもちろん注目しているはずではないでしょうか。

そこで、今回、P+D MAGAZINE編集部は、本屋大賞に設立時から関わっている三省堂書店営業企画室の内田さんにお話をうかがってきました。本屋大賞の運営側にいるからこそ知っている裏話から、表には出ていない熱い情熱まで。「本屋大賞」という大イベントを100倍楽しめる情報をお届けします。

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本屋大賞の概要

「本屋大賞」について、もちろん本好きの皆様ならばご存知のこととは思いますが、軽く説明しておきましょう。

本屋大賞は、全国の書店に勤務する書店員の投票によって決まります。一次投票では1人3作品を選んで投票、人気を集めた上位10作品がノミネートされます。二次投票では、書店員がノミネートされた10作品を読んだ上で、全てについてコメントを書き、3作品を選んで投票します。

今では芥川賞・直木賞に迫る知名度となってきた本屋大賞。受賞作は軒並み映像化され、作家からも、出版社からも、読者からも意識されるようになってきているといえるでしょう。

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内田:最近では、お客さまから「本屋大賞の本はどこ?」と聞かれますし、受賞作が大いに注目されています。読者に一番近い立場の書店員だからこそ、「本屋大賞」への信頼度も上がるのではないでしょうか。

2016年のノミネート作品は以下の通りとなりました。(作者名50音順)

住野よる 『君の膵臓をたべたい』(双葉社)
辻村深月 『朝が来る』(文藝春秋)
中村文則 『教団X』(集英社)
中脇初枝 『世界の果てのこどもたち』 (講談社)
西川美和 『永い言い訳』(文藝春秋)
東山彰良 『』(講談社)
深緑野分 『戦場のコックたち』(東京創元社)
又吉直樹 『火花』(文藝春秋)
宮下奈都 『羊と鋼の森』(文藝春秋)
米澤穂信 『王とサーカス』(東京創元社)

本屋大賞の歴史

ここで、本屋大賞の歴史を紐解いてみましょう。同賞は、売り場からベストセラーをつくる!という書店員の強い思いから、2003年にスタートした賞で、今年で13回目を迎えました。当時の状況を内田さんは次のように語ります。

内田:1996年をピークに、何もしなくても本が売れる時代は終わりました。そこから徐々に売り上げが減ってきたので、僕たちはPOP作りや積み方の工夫など書店でできることをやり始めました。だから、その流れで本屋大賞が生まれたのも必然だったと言えるでしょう。

また、アンチ直木賞・芥川賞という狙いも賞設立の背景としてあったといえます。賞が発表されてから大量入荷するため、書店の在庫が少ない直木賞や、そもそもまだ単行本や文庫にすらなっていない、芥川賞。これらの賞には、受賞が発表された「その本を一番売りたい日」に売れないという欠点があったのです。

一方、本屋大賞は、会場で受賞作が発表されると同時に、各書店が一斉に特設コーナーでその作品を売り出します。本を一番売りたい瞬間に、売りたい本が書店にある。できて当たり前のように思えるこの要件は、本屋大賞設立以前には達成できなかったことなのです。

 

過去12回の本屋大賞を振り返る

では、ここからは過去12回の本屋大賞を、内田さんのコメントとともに振り返ってみましょう。

第1回(2004年) 小川洋子 『博士の愛した数式』 (新潮社)

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内田:この第一回がその後の本屋大賞を決定付けた印象がありますね。良い映画にもなりましたし、それがその後の映像化の契機にもなりましたね。売り手である僕らの方が心配でしたが、世の中はかなり好意的に受け入れてくれました。また、芥川賞作家でもあった小川さん本人にとっても、また一つ読者層を広げる機会になったという印象です。

第2回(2005年) 恩田陸 『夜のピクニック』 (新潮社)

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第3回(2006年) リリー・フランキー『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

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内田:この時は大きな批判がありましたね。「これだけ売れてる本が、本屋さんが本当に売りたいものなの?」と。ただ、その回の発表で書評家の永江朗さんが「『東京タワー』に冠を与えたっていうのは本屋大賞の一つの功績だ」と言ってくれたんです(編集註:当時、『東京タワー』は何の賞も取っていなかった)。それが僕たちにとっても大きな励みとなりましたね。

第4回(2007年) 佐藤多佳子『一瞬の風になれ』(講談社)

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第5回(2008年) 伊坂幸太朗『ゴールデンスランバー』(新潮社)

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内田:伊坂幸太郎さんは第1回から何度もノミネートされてたんですけど、同じ年に2作品あって票が割れてしまったりと、なかなか大賞をとることができませんでした。僕ら実行委員会にとってはそれが残念でした。今年とれなかったら、「作家賞」を贈ろうという声が出るくらい。一人の作家さんに肩入れするような気は無いのですけれど、実行委員会にとっても嬉しかったですね。

裏話的なことを言えば、この年の2位だった近藤史恵さんの『サクリファイス』が、実は『ゴールデンスランバー』と同じ新潮社で、しかも編集者が一緒なんですよ(笑)。

 

第6回(2009年) 湊かなえ 『告白』(双葉社)

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内田:湊さん、デビュー作でいきなり大賞を取っていますよね。これがノミネートされた時、よく見つけてきたなという印象だったのですが、内容がまた今までの大賞と違いますよね。異質というか(笑)。ほかの大賞が、読後感が爽やかな、心温まるものであったのに対して、『告白』はそうじゃない。ある意味、本屋大賞にとって節目となった受賞作でしたね。

(次ページに続く)

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新刊『夜を聴く者』の魅力について作者自身に批評してもらった。【坂上秋成インタビュー・前編】