「タワー積み」の手法で読者の心をわしづかみ!個性が光る【三省堂書店神保町本店】 本屋さんへ行こう!~この本屋さんがおもしろい~

本の街にやって来る、本への関心の高い人に、いかに訴えかけるかには、ある意味常識の範疇を超えた工夫が求められていたりもするようです。

「こだわっている棚は、たくさんありますが、千代田区図書館とのコラボ書棚ですね。「図書新聞」セレクトのブックフェアを同時期に開催し、相互にPRをしたんです。地域と密接につながりを持っていくことが、町の本屋としての使命。地域の人に愛される書店で有り続けたいと日々思うので、地区の図書館との連携はとても大切な取り組みだと思っています。」

そして、最近は、本だけではなく、ライフスタイルの提案に注力していることも、三省堂書店の大きな特色です。

「“神保町いちのいち”という、ここの住所を冠した雑貨ブランドを立ち上げたのですが、これが大変好調です。食べ物から雑貨まで、幅広く取り扱っていますが、確実にファンがついていて、作家の方も贔屓にしてくれていたりしますね。密度が濃く、上質なものを扱っているので、評判が良いんですね。本+αの楽しみを提案していくことで、三省堂書店ならではの魅力が増してくれると良いなと思っています。とても好評なので、続々と新規出店の予定があります。」

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こうした、老舗の看板に安住せず、新しい取り組みを積極的に取り入れているところが、人気を保つ秘訣なのかもしれません。

「常連さんが多いことも、うちの特徴かもしれないですね。僕の場合、個々のお客様と会話するきっかけはあまりないのですが、長年経験を積んでいくうちに、書棚を通じて対話ができている、という手応えを感じることがあります。」

書棚が伝えてくれることというのはどういうことなのでしょうか?

「たとえば、新刊が入ると必ず買いにきてくれるおなじみのお客様がいらっしゃるんです。

入荷する時に、思い浮かべるのは、そういうお客様の顔。またあの方が買いにきてくれるかな、と思いを巡らせては、本を陳列しているんですよ。」

まさに一冊ごとに深い愛情を込めて仕事をしている内田さん。おすすめの本を伺ってみると、即答が返ってきました。

「フジモトマサルの『二週間の休暇<新装版>』(講談社)です。

とにかくもうこの本が大好きで。『村上さんのところ』(村上春樹著)で、イラストと4コマ漫画を手がけていらした、漫画家兼イラストレーターの方なのですが、その温かみに溢れた作風に心を奪われてしまったんです。一見埋もれてしまうようなこぢんまりとした作品でも、掘り起こしてくれる人がいるものなんですね。新装版が出て、これはもう一生の愛蔵版にしよう、と思っているところです。フジモトさんは、昨年の11月に亡くなられたのですが、初期の頃がらずっと応援していました。お別れの会にも参加させていただきましたが、改めて、仕事で携わる多くの方から愛される、本当に素敵な方だったという思いが募ります。こうした本を語り継いでいくことが、我々書店員の義務であり、使命であるに違いないと思うんです。」

何にも代えがたい、希望を託したPOPへの想い

熱く語る内田さんには、宝物があります。

「POPです。何にも代えがたい、まさに宝物。」

そう言って見せてくれたのは、手書きPOPの山!(※写真はすべてフジモトマサルさん作品のPOP)

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読者に念を送るんです。面白かった、だけでは足りない、売りたい思いを。そうすれば、絶対に伝わる。」

内田さんが一途に信じているPOPの力は、この三省堂書店神保町本店でもいかんなく発揮されているようで、いたるところにPOPが飾られているのを目にします。

「一枚一枚、手書きするのは、確かに大変だけど、売れていくとそんな大変さは吹き飛びます。

売れる本だけを売るのではない。売りたい本を売る!という気合いを込めて書きます。

本が売れなくなっているこの時代、バーン、と売れる本も大切だけど、買って欲しい、売れて欲しい、という想いの詰まった本を売るのもまた大切だと思います。1枚1枚手書きするのは、確かに簡単なことではないけれど、醍醐味があって、やめられない。自分の想いがこもった本が売れた時の嬉しさといったら、何ものにも代えがたいものですよ!」

内田さんは、「熱のある本を、さらに熱を入れた状態で提供したい」と、常々考えているそう。

その手段として、そして半ば趣味として、「POP王」となり、本も出版しました。

POP王の本

(「POP王の本」(新風舎))

「POPには、ありったけの想いを込めて書いていますが、好きが講じて、今やPOPの授業の講師として、学校や図書館などに呼ばれて講演を行ったりもしているんです」

学校での講演では、学生に課題図書を与え、そのPOPを自由に書いてもらう授業を行ったりもしているそうで、1作1作に想いを込めて、本を好きになるきっかけを提供していければ、と考えているとのこと。

「みんな、自由に発想して書いてくれるのが嬉しいですね。その作品の良いところを知らないと、好きにならないと、POPは書けないので、本に親しんでもらうきっかけ作りができればと思いながら、もう何年も続けています」

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