池上彰・総理の秘密<23>
スポーツ観戦をしていると、よく耳にする「内閣総理大臣杯」。様々な競技・分野で最優秀を取った人に、総理大臣から贈られる、賞杯のことです。競技名になっているものもあり、総理大臣杯や総理杯などと略して呼ばれる場合が多いのですが、その数はいったいいくつあり、どうしてこんなに数が増えていったのでしょうか? 池上彰が、わかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
「内閣総理大臣杯」はいくつある?
大相撲の千秋楽で、優勝した力士に手渡される賞状や優勝杯のひとつに「内閣総理大臣杯」があります。2001年(平成13)の5月場所で貴乃花が足のけがにもかかわらず武蔵丸を破って優勝したとき、小泉純一郎総理が、「痛みに耐えてよく頑張った。感動した。おめでとう!」と語ったことは、いまも語り草になっています。
先日、町で見かけた競艇の広告にも「総理大臣杯競走」の文字が。こちらは、競技の名称になっています。
こうした「内閣総理大臣杯」はいくつあるのか。正確な数はよくわからないのですが、私がざっと調べてみただけでも、20以上ありました。空手道やレスリング、ボウリング選手権、ウエイトリフティング、ゴルフ選手権などなど。全国ママさんバレーボール大会にも総理大臣杯があります。
囲碁選手権大会や花火競技大会でも授与されますが、その多くはスポーツ大会です。さまざまな分野で最優秀の成績をとった個人やチームに贈られる賞杯のことなのですね。
授賞式には総理大臣が直々に出席して授与することになっていますが、総理も忙しいですから、たいていの場合は、内閣官房長官や官房副長官が代理で出席します。でも、大相撲のように全国にテレビ中継されている場で授与すると、国民にアピールしますから、本人が出席することも多くなります。
対象になっている競技種目を見ますと、発足のときに有力な政治家や、政治家に大きな影響力を持っている個人や組織が関わっていたものが目立ちます。総理大臣杯があれば、その競技のステータスが上がりますし、総理や総理周辺にしても、総理大臣杯で恩を売ることができます。そんな事情が積み重なって、これだけの数になったのでしょうか。
総理官邸で内閣総理大臣杯を受け取る時津風理事長(右から2人め)
大相撲の内閣総理大臣杯は、1968年(昭和43)の初場所から、本場所幕内優勝した力士に授与されることとなったが、杯の製作が間に合わず、3月にずれこんだ。杯を授与された力士は、次の本場所で日本相撲協会へ返還し、新たな優勝者へと伝えられていく。写真/毎日新聞社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理23』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/05/02)