新刊『B級キャスター』で描かれたNEWS ZEROの舞台裏。元メインキャスター・村尾信尚が「強く印象に残った」というレディー・ガガの言葉とは。
『NEWS ZERO』のメインキャスターを長らく務められた、村尾信尚さん。多くの方にインタビューしてきたなかで、強く印象に残っているのが、アメリカのアーティスト、レディー・ガガさんだったそうです。『NEWS ZERO』の裏側を垣間見ることのできる『B級キャスター』を上梓したばかりの著者にお話を伺いました。
村尾信尚
『B級キャスター』
月刊 本の窓 2019年7月号
ガガさんの言葉
『NEWS ZERO』(日本テレビ系列)メインキャスター時代、多くの方にインタビューをさせていただきましたが、強く印象に残った方の一人がアメリカのアーティスト・レディー・ガガさんでした。その話は拙著『B級キャスター』に書きましたが、当時二〇一六年の米国大統領選を目前に控え、彼女が強い懸念を示したのがトランプ氏の勝利でした。ガガさんは「トランプ氏が大統領になったらおしまい。米国は分裂ではなく団結すべき」と語りました。
そのトランプ氏を勝利に導いた人々が多く住む、五大湖周辺の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」を、二〇一八年一月、私はキャスターとして取材しました。そこで「不法移民や中国の安い製品を締め出せ」との声をたくさん聞くなか、ワシントンやニューヨークで交わされている議論がラストベルトには届いていないことを、強く感じました。国際的、長期的な視点を欠くシンプルな考え方が広くこの地域を覆っていたのです。難しいことを難しく言うメディア、その議論がエスタブリッシュメント層の中でぐるぐる回っているだけで、草の根のレベルまで広がっていかないのです。
日本も他人事ではありません。難しく硬いニュースを、どのようにして易しく分かりやすいかたちで視聴者に届けるか、これがキャスター時代の私の問題意識でした。日本全体をラストベルトにしないよう、ハードな話をソフトに伝える。そんな私の悲喜交々のキャスター生活を、それこそソフトに伝えようとしたのが『B級キャスター』です。
また、ガガさんは「女性はもっと強くなれるし賢くなれる」とも語ってくれました。この言葉は、ZEROを支えた女性たちを間近で見てきた私に、強い説得力を持って伝わってきました。
三年半キャスターを務めた小林麻央さん。悩みを持つ女性や子供たちに優しく寄り添い、その現実と課題を社会に伝えてくれました。麻央さんは、がん闘病中も生きる希望を決して失わなかった強い精神力の持ち主でもありました。桐谷美玲さんは六年半キャスターを務めました。言葉やファッション、写真などのツールを駆使して若い女性の心を掴み、自分の考えや思いを伝えるコミュニケーション能力は大したものです。十二年間マネージャーとして私と共に活動した奥田明美さん。抜群の事務能力に加え、裸の王様になりがちなメインキャスターの私に対する組織内外の空気を的確に読んで、必要に応じて私に進言してくれました。このほか、キャスター、日テレアナウンサー、報道スタッフ、スタジオフロアなどに強くて賢い女性が多くいたことがZEROの強みでした。『B級キャスター』では、こうした女性たちだけでなく、櫻井翔さんはじめZEROファミリーの素顔についても触れています。読者の皆さんには、ZEROの舞台裏をかなりご覧いただけると思います。いつの間にか、ガガさんの言葉からここまで来てしまいました。
ところで、レディー・ガガさんと私がZEROのスタジオで向き合うとは、私自身想像すらしていませんでした。飛騨の高山で生まれ、役人だった男が知事選挙に落ち、五十一歳でキャスターになった。こんな私のロング・アンド・ワインディング・ロードも併せて『B級キャスター』でお読みいただければ幸いです。
『B級キャスター』
村尾信尚/著
定価:本体1,400円+税
小学館・刊
四六判 224ページ
大好評発売中
ISBN 978-4-09-388688-8
プロフィール
村尾信尚(むらお・のぶたか)
一九五五年生まれ。大学卒業後、大蔵省(現財務省)入省。九五年、三重県に出向し、行政改革に携わる。大蔵省主計局主計官などを経て、二〇〇二年環境省総合環境政策局総務課長。同年十二月退官。〇三年十月より関西学院大学教授(現任)。〇六年十月から一八年九月まで、日本テレビ系列「NEWS ZERO」のメインキャスターを務めた。著書に『「行政」を変える!』などがある。
豪華執筆陣による小説、詩、エッセイなどの読み物連載に加え、読書案内、小学館の新刊情報も満載。小さな雑誌で驚くほど充実した内容。あなたの好奇心を存分に刺激すること間違いなし。
初出:P+D MAGAZINE(2019/06/27)