文学的「今日は何の日?」【1/20~1/26】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
1月20日
『古事記』の編纂者、太安万侶の墓が発見される
1979年の今日、奈良市此瀬町の茶畑から太安万侶の墓が発見され、墓誌が出土、大きな話題となりました。太安万侶は和銅9年に元明天皇の命を受けて、舎人・稗田阿礼が記憶していた「帝皇日継」と「先代旧辞」を書き起こして整理し、翌年正月に献上しました。これが『古事記』です。筆録にあたっては、万葉仮名でも漢文でもなく、音仮名と訓字を混用する変体漢文体を用いました。当時を代表する学者であった安万侶が、日本の神話を書き記すために工夫をこらした格調高い文体を味わってみませんか。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658001
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1月21日
キリスト教の聖女、聖アグネス殉教の日
304年の今日、皇帝ディオクレティアヌス統治下のローマで、キリスト教の聖女、聖アグネスが殉教しました。当時禁じられていたキリスト教を信仰する一族の出であったアグネスは、長官子息との望まぬ結婚を拒んだことから信仰を告発されます。拷問にも屈せず棄教を拒み、わずか13歳で火刑に処されますが、この殉教の日が「聖アグネス祭」。その前夜に夕食を抜いて寝ると、夢で未来の夫の姿を見るという言い伝えがあります。イギリスのロマン派詩人ジョン・キーツはこの伝承をもとに、敵同士の家に生まれた美しいマデレインと彼女への恋心を燃やす青年ポーフィロの運命を変える一夜を「聖アグネス祭の前夜」にうたいあげました。夭折の天才詩人が残した、物語詩の傑作です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003226542/
1月22日
ミスカトニック大学の探検隊が南極で「狂気の山脈」を発見
1931年1月22日は、H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』において、ミスカトニック大学教授ウィリアム・ダウアーが率いる南極探検隊が、ヒマラヤにも劣らぬ高く険しい山脈を発見した日です。調査を進めるにつれ、模様のある粘板岩の断片、果てしなく広い洞窟、魔道書『ネクロノミコン』に記された伝説上の「古のもの」を思わせる、翼をもった未知の生命体の標本が見つかり、探検隊は興奮に包まれますが……。ラヴクラフト宇宙観の総決算と言われる本作で、クトゥルフ神話の真髄に触れてみませんか。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4488523048/
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1月23日
「天は我々を見放した!」――陸軍第八師団が八甲田山に向けて出発
1902年のこの日、日本陸軍第八師団第五連隊の210名が、雪中行軍訓練として八甲田山麓の田代に向けて出発しました。ロシアとの戦争を控え、厳寒の地での戦いに向けた準備のひとつであったといいます。しかし出発後に急激に天候が悪化して猛吹雪となり、雪に対する経験も装備も不足していた一行は24~26日にかけて吹雪のなかを彷徨、210名中199名の貴い生命が失われることとなりました。この未曾有の山岳事故をもとに新田次郎が書いた小説『八甲田山死の彷徨』は森谷司郎によって映画化され、神田大尉を演じた北大路欣也のせりふ「天は我々を見放した!」が観る人に強烈な印象を残しました。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101122148/
1月24日
ジェイン・オースティンが姉カサンドラに手紙を書く
1831年のこの日、『高慢と偏見』『エマ』などで知られるイギリスの作家ジェイン・オースティンが、姉カサンドラに宛てた手紙を書いています。年の近いこの姉妹はたいへんに仲がよく、母と3人で暮らしていましたが、体の弱い母への気遣いから揃って出かけることは滅多になく、離れている間に手紙を送りあいました。この日の手紙には、ジェインが読んでいるペイズリー大佐の『大英帝国の憲兵隊とその制度に関する考察』や、最近出たパーティの感想が、いささか遠慮のない調子で書かれています。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003222261/
1月25日
楠本他家雄の上告が棄却され、死刑が確定する
1月25日は、加賀乙彦著『宣告』において、殺人の罪によって死刑判決を受けていた楠本他家雄の上告が最高裁第二法廷で棄却され、死刑が確定した日です。拘置所二階の特別頑丈な独居房に収容された死刑確定囚たちの、生と死の極限における苦悩、拘禁ノイローゼの実態を、若い医官・近木による生々しい接見記録と日々の会話を通して克明に描きます。自身も精神科医である加賀乙彦が、東京拘置所づきの法務技官としての経験から生み出した「死刑の意味を問う」傑作です。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352357
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1月26日
シングの代表作『西の国の伊達男』、ダブリンのアベイ劇場で初演
1907年のこの日、ジョン・ミリントン・シングの『西の国の伊達男』が、ダブリンのアベイ劇場で初演されました。父親を殴り倒して家出してきた青年クリスティが、酒場で「親父を殺してきた」と洩らしたところ英雄視されて人気者となり、看板娘ペギーンと恋仲になりますが、死んだはずの父親が現れて大騒ぎに……。初演の当日、この芝居の内容がアイルランド人への諷刺ととられて暴動まで起きましたが、活気ある民衆の生活と人情を描いたもので、現在ではシングの代表作として評価されています。J.D.サリンジャーの『フラニーとゾーイー』に、学生芝居でペギーンを演じたフラニーが、クリスティ役の演技に不満を漏らす場面がありますね。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/486584404X/
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初出:P+D MAGAZINE(2020/01/20)