☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子 [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 1
西
うれしい。ほんまそれで一週間ぐらい、お酒飲めます。ほんと〝参る仕事〟をいただいたというか、40過ぎても、こわい仕事ってありますね。それでも、できる、できるぞこれから!という勇気をいただいたなぁ。
角田さんが、ちょうどわたしの10コ上で、大先輩で、獲ってへん賞ないんちゃう?ぐらいの……。
角田
いっぱいありますよ、獲ってない賞。
西
まだほしいんや(笑)!
角田
ほしいものは、あるから(笑)。
西
まだほしいんや、……すごいなぁ。
重圧があったりだとか、それこそ『源氏』やられてるときの角田さんもそうなんですけど、いちばん煮詰まってるときの角田さんばっかり応援したいなぁ(笑)。
角田
あははは(笑)。
西
こんな先輩が、こんな思いして、仕事してはんねや、って思ったら、感動するのと同時に、こんなに〝道〟は長いんやっていうのを見せられてるようで、ちょっとどっかでやめてくれや、って(笑)。
角田
さっきも言った翻訳の絵本の場合には、英語で台割みたいなものができてるので、そこにまあ日本語をのせていけばいいっていうのがあるけれども、こういう日本語の絵本のときって、たくさん書いたらだめでしょ? 絵本だから、文字をわりと少なくして、取捨選択して……。
西
うんうん。
角田
西さんは、ご自身でも絵本を書くじゃないですか。絵本のほうでテキストを書くときは、なにを重要視するんですか?
西
自分の絵本を書くときって、先に絵があるから、ストーリーっていうよりは、もちろんストーリーありきの絵本のはずなんやけど、〝描きたい絵・見たい絵〟みたいなものができてるから、それに文字を、この絵描きたいからこれ!みたいなところがあって、あんまり苦労しなくて……。
角田
へぇー。そうなんですね。
西
それでいいのかどうかもわからへんねんけど。だからほんとに初めてだったんです。こういう、ストーリーがもうきちんとできてる上に、絵をのせるのは。
角田
うん。
西
それがやっぱり、すごいチャレンジでしたね。角田さんは、自分で絵本を、文字から書こうとか思わないんですか?
角田
ぜったい、思わないです! 思ったこともないです。
西
あははは(笑)。え、でも、依頼は来るでしょ?
角田
むかし来た気がします。でも、無理だなと思って。だいたい、子どもがなにをおもしろいと思うかわからないし、なにに惹きこまれるのかもわからないし、どういうことなら読んでくれるのかもわからない。絵本の、なんていうか〝ルール〟がわからなすぎて、ないですね、書こうと思ったことが。
西
角田さん、〝全絵本〟読んで勉強しそうですもんね(笑)。それぐらいのこと、なさるもんね。
角田光代(かくた・みつよ)
1967年生まれ。小説家。90年デビュー作『幸福な遊戯』(福武書店)で海燕新人文学賞受賞。99年『キッドナップ・ツアー』(理論社)で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2003年『空中庭園』(文藝春秋)で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』(文藝春秋)で直木賞、06年『ロック母』(講談社)で川端康成文学賞、07年『八日目の蟬』(中央公論新社)で中央公論文芸賞ほか受賞多数。大の向田邦子ファンとして知られる。
西加奈子(にし・かなこ)
1977年生まれ。小説家。イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年『あおい』(小学館)でデビュー。05年『さくら』(小学館)、06年『きいろいゾウ』(小学館)発表、ベストセラーに。15年『サラバ!』(小学館)で直木賞を受賞。18年『おまじない』(筑摩書房)発表。自著の装丁や個展開催など、独特の色彩、トリミングで描く絵にも評価が高い。
(取材協力 クレヨンハウス東京店 撮影 五十嵐美弥)