☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子 [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 2

☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子  [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 2

角田
そうなんです、びっくりですよ。
20代で初めて読んで、エッセイはすごくわかったんです。どれもおもしろいし、自分の記憶のようにスーっと入ってきたんです。でも、小説がひじょうに難しかったんですね。男と女のこと、あるいは人間関係というものが、ひじょうに難しくて。わたしが20代だからわかんないんだろうなと思って、30代になって読み返してみると、20代のときよりはわかる。でもすごい大人のひとが書いてる小説だよなぁ、と思っていて。で、40代になって、ドラマの脚本も読み返すようになって、なんでこういう台詞が書けるのかなぁ、って思って、そうこうしているうちに同い年になってしまって……。
 

西
そうこうしているうちに(笑)。
 

角田
同い年になっても、まだ大人に見える。なんとわたしのほうが年上になっても、わたしより年上に見える。どういうことなのかねぇ?

角田光代さん


西
高校卒業しても、しばらく高校球児をお兄さんと思う時期ってあるじゃないですか。それがもっと……。
 

角田
うん。
 

西
なんでなんだろう? 憧れが強かったってことなのかな?
 

角田
えーっ? でももしかして、憧れてないひとでも、すごい大人のひとが書いたものとして読むんじゃないかな、と思うんだけど、どうでしょうね。
 

西
たしかに、そうですね。すごい年上のひとのことを書いてるわけでもないですもんね。そんなイメージが勝手にあんねんけど、なんでなんだろう。〝時代〟じゃないですよね、きっと。時代だけではなくて、……やっぱり、そういう〝品〟なのかな。たとえば男女のことを書いてても、男女のこと、っていうだけで、〝太字〟になるじゃないですか? 男女のこと喋ってください、って雑誌のひとに言われたら、なに喋らすねん!ってなるじゃないですか。
 

角田
うんうん。
 

西
それぐらいビッグトピックのはずだけど、それがずっと明朝体の、わたしたちの知ってる言葉でしか書いてない。……燃えあがるようなことがない、って言ったら変ですけど、気持の炎はあるけど、その炎がぜんぜん波打ってないというか、おおげさにしない、とこが大人の条件なんですかね?
 

角田
うーん、……そうかも。そして、書き過ぎてないっていうのもあるのかもしれない。その男女のことを、太字にしなくて、明朝体の文字にして、そしてじつは、なにが具体的にあったかはあんまり書かれてなくて、〝もしかしてとてつもないことが起きているが、わたしにはわからないことなのかも〟って思わせるなにかがあるのかもしれない。
 

西
向田さんにお会いしたかったですか?

西加奈子さん


角田
いいえ!
 

西
あははは(笑)。
 

角田
あのね、会ったらすごくこわいひとだと思うんですよ。
 

西
声が変わった。こわい話、してるときの声や(笑)。
 

角田
本人がこわいというよりも、わたしが勝手に震えあがるタイプのひとだと思うので、廊下の角からこうやって(扉の隙間から覗き見するようなジェスチャー)盗み見るぐらいかなぁ。
 

西
わかります、そのこわさが、わかります。
 

角田
西さんはどうです、会いたいですか?
 

西
めっちゃくちゃ素敵なひとやから、うっかりダサいこと言ってもたぶん許してくれはるやろうけど、ボロを出したくないから、おなじ打ち上げのとなりのとなりの席ぐらいだったら、いいと思うんですよ、わたしは。で、ときどき、なに喋ってはるかとか聞いたりして、ときどき「きゅうり食べる?」みたいなのがまわってくる、みたいのだったらだいじょうぶ。
 

角田
あははは(笑)。
 

西
そこまでじゃないかな。わたしにとって、大・大先輩なんで。

(つづきます)

 

 

角田光代(かくた・みつよ)
1967年生まれ。小説家。90年デビュー作『幸福な遊戯』(福武書店)で海燕新人文学賞受賞。99年『キッドナップ・ツアー』(理論社)で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2003年『空中庭園』(文藝春秋)で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』(文藝春秋)で直木賞、06年『ロック母』(講談社)で川端康成文学賞、07年『八日目の蟬』(中央公論新社)で中央公論文芸賞ほか受賞多数。大の向田邦子ファンとして知られる。

西加奈子(にし・かなこ)
1977年生まれ。小説家。イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年『あおい』(小学館)でデビュー。05年『さくら』(小学館)、06年『きいろいゾウ』(小学館)発表、ベストセラーに。15年『サラバ!』(小学館)で直木賞を受賞。18年『おまじない』(筑摩書房)発表。自著の装丁や個展開催など、独特の色彩、トリミングで描く絵にも評価が高い。

(取材協力 クレヨンハウス東京店 撮影 五十嵐美弥)

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◇自著を語る◇ 角田光代『字のないはがき』

子ども時代に見ていたテレビドラマをのぞけば、向田邦子作品に出会ったのは二十二、三歳のころだ。このときすでにご本人はこの世の住人ではなかった、ということもあって、この作家は私には最初からものすごく遠い存在だった。平明、簡素でありながら、叙情的な文章で綴られる、暮らしや記憶の断片は、私の知らない大人の女性の世界だった。